「選挙の争点は」というと、一に景気・物価・賃金・雇用、消費税など税金問題、二に社会保障、少子高齢化対策、三に子育て・教育費、四に外交・安全保障、五に原発問題(回帰かゼロか)、六に憲法改正問題。今回は、これらの上位に「裏金問題」から持ち上がった「政治とカネ」の問題が加えられ、下位にはジェンダー平等問題なども付け加わっている。
世論調査などでは、これらを列記して、そのうちどれを重視して投票するか、といった設問するが、これらには優先順位があるわけではなく、どれが大事で、どれが大事でないか、日頃稼ぎや経営に追われる身にとっては、それぞれに「今だけ、金だけ、自分だけ」と目先のことに囚われがちだが、投票する有権者は一人ひとりが主権者として国政を託したい議員候補者や政党を、単にフィーリング(漠然とした感覚や直観的に感じるイメージや相性)などだけでなく国政の各分野にわたってそれぞれどんな政策や主張を持っているか吟味して総合的に評価して投票すべきだろう。
上に挙げた争点で、どれを重視して投票するかなんて優先順位を付けたりは出来ないが、争点として政党間でも自公政権党と野党でもリベラル派(共産・社民・れいわ等)との対立が際立っていて両極に分かれている争点が幾つかある(立憲民主党は前回選挙まではリベラル派の側にあったが、今回はそうでもなくなっているようだが)。それらは一(中でも正規・非正規雇用問題と消費税・企業内部留保課税問題)、四(外交・安保問題)、五(原発問題)、六(改憲問題)それに「政治とカネ」問題とジェンダー問題などだ。
一の消費税問題については自公政権(それに立憲民主党)の現状維持に対して共産・社民・れいわ等は減税もしくは廃止
四(外交・安保問題)は自公政権党の自衛隊と日米同盟の防衛力増強に対して共産・社民・れいわ等は反対で核兵器禁止条約批准を主張。
五(原発問題)については自公政権党の原発回帰に対して野党リベラル派(共産・社民・れいわ)は反対。
六(改憲問題)については自公政権党それに維新や国民民主党も改憲志向。それに対して野党リベラル派は反対。
「政治とカネ」問題で企業・団体献金について自民党が容認なのに対して野党は禁止を主張。
ジェンダー問題については選択的夫婦別姓などに対して自民党が反対なのに対して野党は賛成。
これらをまとめると次のような自公政権党対野党リベラル派の対立構図になる。
自公政権党
消費税―庶民が買い物の度に(その都度、購入した商品価格の10%、飲食料品は8%)
徴収―生活必需品などの購入に充てる(消費に回す)金額は高所得者であれ低所
得者であれ大差なく一定しているので、所得全体に占める割合(負担率)からす
れば低所得者ほど高くて不利。それが社会保障の財源に充てるためとされている
が、税収のその分が企業の法人税の減税分に相当する結果になっていて企業に有
利で庶民に不利。
軍事主義―軍事対軍事の構え―対中・ロ・北朝鮮
軍備を「防衛力」「自衛力」「抑止力」と称す
自衛隊・日米同盟に依存、アジア版NATO形成へ
安保法制―集団的自衛権の行使容認
台湾海峡有事・朝鮮半島有事に際して米軍出撃・自衛隊支援・参戦も可能に。
沖縄・先島諸島に地下シェルター設置・避難訓練も。全国に自治体にも避難施
設整備。首都では地下シェルター設置の調査費用を都の予算に盛り込む
防衛力増強―敵基地攻撃能力保有、防衛費倍増(教育費の2倍)
アメリカの「核の傘」「拡大抑止」に依存して核兵器禁止条約には不参加
(石破首相はアメリカの核使用に際する意思決定過程を共有が持論)
原発回帰―再稼働・期限延長・新増設へ
改憲―9条2項に自衛隊明記、緊急事態条項を設ける等
企業・団体献金は財界から自民党に集中して寄せられ、最大の恩恵にありついている。
ジェンダー問題―選択的夫婦別姓・同性婚などに反対
野党リベラル派
消費税―共産(5%に減税)・社民(3年間ゼロに)・れいわ・参政党も(廃止を主張)
平和主義―憲法9条堅持―非核・非軍事・平和外交
ASEAN(東南アジア諸国連合)のやり方(敵対的軍事同盟ではなく全ての国を包摂した
地域平和協力機構)を北東アジアにも広げる(共産党)
核兵器禁止条約批准を求める
脱原発―ゼロに
護憲―改憲阻止
企業・団体献金は禁止
ジェンダー平等―選択的夫婦別姓・同性婚などに賛成争点が「戦争か平和か」などというと、そんなことはどこかの国や地域の話で、今の日本とは無縁(選挙の争点にはならない)などと思い込んでいる向き(「平和ボケ」)もあるが、反対に「今日のウクライナは明日の東アジア」(岸田前首相それに石破首相もそう云っている)、「台湾有事は日本の有事」(安倍元首相)、「台湾海峡で戦争となれば、日本は潜水艦や軍艦で戦う。台湾の有事は間違いなく、日本の存立危機事態だ」、「(日本・台湾・米国は)戦う覚悟を持ち、相手に伝えることが抑止力となる」(麻生副総裁)と。だからその覚悟で、その時に備えて防衛力を増強し、体制を整えておかなければならない、などと―こんなのも「〇〇ボケ」の部類だろう。
「軍事オタク」で戦争のやり方(戦略・戦術・用兵・兵器・装備など軍事)は熟知しても戦争を知らない。そもそも戦争はどうして起こるか、戦争したら人間どうなるか、世の中(社会)がどうなるか分かっていないし、分かろうとしない。それこそが「平和ボケ」なのなのでは。
理屈をこねて誰でも考え抜けば分かるような簡単なことを難しくして人々を煙に巻いて訳の分からぬまま思考停止させる。そのような軍事産業・兵器産業企業を利するような政党・政治家の政権がマスメディアを通じて洗脳(?)して多くの人たちが好戦的な「平和ボケ」にされてしまう。
その中にあって真の平和主義を掲げて倦まず弛まずに核廃絶を訴え続けノーベル平和賞を受賞した被団協の方々は素晴らしい。それにつけても「核兵器のない世界」を実現するには核兵器を禁止してどの国も保持しないようにすればいいだけの話(核兵器禁止条約は既に成立している。それに核保有国も全ての国が従えばいいのだ)。同様に「戦争のない世界」を実現するには、どの国も核兵器だけでなく通常兵器も全ての兵器・兵員の保持を禁止して軍備を全廃すればいいだけの話。そんなことは誰でも分かる単純なこと。なのに取り組もうとしない(かつて1959~62年、国連でソ連とアメリカが軍備全廃提案を交わし審議したたことがあったが進展せず立ち消え)。そんなことできっこないと決めつけ、思考停止してそれっきり、となっているのでは。
「軍備で平和は守れない」というのに対して「軍備なくして平和は守れない」つまり「防衛力」「自衛力」「抑止力」として軍備は必要不可欠という理屈。しかし軍備(通常兵器・核兵器も)は戦争するために持つのではなく、戦争を仕掛けられ侵攻されたら抗戦・反撃する防衛・自衛のため、或いは戦争を仕掛け侵攻しようとする相手を思いとどまらせるために抑止力として持つのだ、とはいっても、そういう理屈で軍備・武器・兵器の保有が正当化されるなら、どの国も(今、国連では戦争・武力行使を原則として禁じていながら軍備は禁じておらず)軍備を持ち合って身構え、いがみ合い、対立が激化すると何らかのきっかけで侵攻、それに対して抗戦・交戦すなわち戦争が始まる(そして世界では今も戦争は絶えていない)。
「抑止力」といっても軍備・兵器を保持するかぎり、それを用いて何時でも戦争(殺し合い)に応じる、要するに戦争する意思を持ち続けるということにほかならない。
平和とは戦争や争いのない状態のことであるが、軍備・兵器は戦争とは両立しても、平和とは両立しないのだ。(日米同盟も「核の傘」も「敵基地攻撃能力」も「軍備は抑止力」、「軍備なくして平和は守れない」などと云われると、それに納得して思考停止してしまいがちになる)。「今だけ、金だけ、自分だけ」という風潮があるとすれば、それは人生観・価値観(生き方、考え方)がそうなってきているという人が多くなってきているということなのだろうが、若者が「闇バイト」犯罪に引き込まれる、といったことも含めて、それらの風潮をもたらしたのはいったい誰なのか、誰らのせいなのか、も問えるだろう。
そんな人生観・価値観を教え広めたのは誰か、とも問えるだろうが、「闇バイト」などに引き込まれる若者、それは社会の貧困から来るものであり、その貧困・病理をもたらした経済・社会(30年間にわたって停滞)、そこには政治があり、それを主導したのは自公政権に他ならないのでは。
ただ「今だけ、金だけ、自分だけ」というのは、そもそも資本主義(資本家は企業に資本を投じて利潤追求し、経営者はコストを最小化して常に利潤最大化を目指す経済システム)の世の中に順応して生きる人々にとっては当然の生き方・考え方なのであって、「病理」でもなんでもあるまい。しかし、その経済システムには賃金コスト・カットの対象となる労働者の正規・非正規の格差・貧困・過重労働など弊害があることも事実。そこでそのような資本主義でよいのか、それとも社会主義か、といった体制選択が争点となることもあり得るだろう。(とかく、歴史には将来とも今の資本主義以外にはあり得ないかのように決めつけ思考停止してしまっている向きが多いのだが、「今だけ、金だけ、自分だけ」ではなく、生涯、人間らしく平和に暮らしていける経済社会システムが科学的に可能であり、その未来社会を構想している学者もいるし政党もあるのだが。)
資本主義の社会には労使(資本家と労働者)2階級の他に上(富裕層)から下(貧困層)まで幾つもの階層が分化し、その間に利害・格差がある。その階級・階層それぞれの立場に立って要求・意見を代弁してくれる政党が結成されているわけである。自民党から共産党まで各党は主にどの階級・階層の立場に立っている政党なのか(簡単に云えば、強者・弱者、恵まれている人、恵まれない人どっちの味方か、どっちに寄り添っている政党なのか)。それを見極め判断して政党を選び投票するという有権者もいるだろう。
政治には政府与党があれば野党(批判政党)が必要であり、(30年の間には短期間ながら民主党政権もあって)政権交代も必要だが、「万年野党」と呼ばれようが批判政党も必要だ。(政権交代を阻み、野党を万年野党に貶めてきたのは政党を選んで投票する選挙民にほかならず、民主主義でもポピュリズムや衆愚政治に陥ってはなるまい。)