米沢 長南の声なき声


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PCR検査―厚生省や専門家の中の検査抑制論
2020年09月12日

PCR検査抑制論
 抑制の理由―①検査のキャパシティー(一日当たりの検査可能件数)が少ないから。
   ②検査して沢山の陽性者が見つかったら医療がひっ迫して医療崩壊が起こるから。
   ③「検査精度の限界」で、検査を増やすと偽陰性(実際は陽性なのに見逃し)も増えるから
       
①と②について―(実際、検査数が世界150位などと)世界3位の経済力を持つ日本にしてはあり得ない話で、それはキャパの問題というよりも「やる気」の問題なのでは。
 それは検査体制(検査機器、防護具の整備、検査に当たる医師や技師の確保、軽症・無症状者の保護隔離施設の確保など)の整備を怠ってきたからに他ならないのでは。
 そこには政府の「行財政改革」・医療費抑制政策がある。1990年代から保健所の統廃合(広域化)がおこなわれ、全国850ヵ所あったのが469ヵ所に半減された。保健師の総数は増えたものの、その分の業務(介護や母子の健康管理など)は自治体に肩代わりさせられ(市町村勤務)、保健所内勤務で感染症に対応する権限を持つ保健師は減らされることになった(1996年8703人から2018年8100人に)。そして少ない人員で広い地域を担当しなければならないことになった。
 いわゆる「小さい政府」「市場原理」の名のもとに保健所や公衆衛生機関を「無駄なもの」とみなしてコスト削減の対象とし、統合民営化する新自由主義的路線がとられてきたわけである。
国立感染症研究所の研究者は2013年312人から現在は294人に削減(米国のCDC疾病対策センターに比べ人員は42分の1、予算は1077分の1)。地方衛生研究所も大幅に削減されている。
 公的・公立病院の再編統合も行われ、病床の削減、医師数・看護師数の抑制も行われている(医師数は、OECD加盟国平均44万人に対して32万人、1000人当たりでは2.43人で、OECD29ヵ国の中では26位、過労死ラインの月平均80時間を超えて働いている勤務医が約8万人といわれる)。
感染症指定医療機関(第2種のそれは475病院)・感染症病床も(1996年9716床が2019年には1758床に)削減されて不足状態。
 集中治療室(ICU)も2013年2889床が2019年には2445床に減っていて、人口10万人当たりでは僅か5床で、ドイツ30床の6分の1、イタリア12床の半分以下とのこと。
 これら保健衛生・医療機関・病床等の削減・医療費抑制政策が、PCR検査を増やすと陽性(感染者)がたくさん見つかって入院患者が増えて大変になるからというわけで、それが、感染拡大を抑え込むためのPCR検査を抑制しなければならない理由になってしまっているわけである。 

③については―PCR検査は陽性を判定する能力(感度)が70%で3割が陰性とされてしまう、それが「偽陰性」と称され、あたかも誤判定で70%の検査精度しかないかのように受取られがちなのであるが、厳密にいえば「誤判定」ではない。人為的なミスで検体が汚染されることは管理上の問題で、検査そのものの精度の問題ではない。そもそもそもそもPCR検査とは微量の遺伝子を増殖させて検知するもので、検体の中にウイルスがいる限り、それを見逃すことはあり得ず、100%近い精度。感染していない人を陰性と判定できる能力(特異度)、その正当確率は99.9%―0.1%が誤判定で「偽陽性」に)。ところが、それは検査の検体となる唾液や、鼻腔や咽頭液の中にウイルスが(肺の奥に留まっていて)出てきていないタイミングで採取するという場合があるわけである。その時は出ていなくても翌日には出てくることもあり得、類回検査やPCRよりも簡易な抗原検査を繰り返すことで、その「見逃し」は最小限にできる。
 そもそもPCR検査の目的は①(症状のある患者や感染の疑いのあるその人がはたして感染しているのかをどうかを調べ確かめる)臨床医の診断目的だけでなく、②(市中への感染拡大を抑え込む)防疫目的もある。
 前者の場合は、医師はPCR検査だけでなく、CT検査なども行う。
 後者の場合は、市中で動き回っている(社会的活動を行っている)人々で、無症状(感染の40%以上は無症状者から。ウイルス排出量は未だ無症状でも症状が出る直前がピーク。また回復して症状が無くなってもウイルスを出しているケースもあり)或いは軽症で感染させる可能性のある人をできるだけ早く見つけ出して保護隔離し、市中に感染が広がってクラスター(集団感染)が発生しないうちに、また重症者が増えないうちに抑え込む。それと同時に非感染者(健常者)の社会経済的活動をやみくもに
「三密」とか「8割接触削減」とか「自粛休業」「休校」などと規制して、就業・営業・学業など(それに文化・スポーツなどのイベントや旅行・娯楽も人間生活には必要だが)これらに支障をきたすことのないようにすることが目的。
 コスト(経費)とキャパシティーから市民全員とはいかないまでも、感染リスクの高い必要不可欠なところ―院内感染が起こりやすい医療機関や介護・障害・老人施設、学校・保育園、サービス産業の一部など人が接触するところで、患者や入所者・従業員などには2週間に1回検査を実施して然るべき。
  
 尚、厚労省は8月18日、「医療・介護施設の勤務者や入院・入所者に幅広く検査することも可能だ」と通知。しかし自治体まかせ、現場任せに留まる。
   東京都は(早ければ)10月から特別養護老人ホームや介護老人保健施設、障害者支援施設など計850ヵ所の入所者や職員を対象(訳5万人見込み)にPCR検査を実施すると公表(費用全額を都が負担)。
 
 <参考>渋谷健司・キングス・カレッジ・ロンドン教授(公衆衛生学)、
   栁原克紀・日本臨床検査医学会の新型コロナに関する委員会委員長
        長崎大学教授(病態解析・診断学)
   らの見解が紹介されている新聞記事



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