米沢 長南の声なき声


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米中のいがみ合い
2020年05月27日

●アメリカ(トランプ政権)側―中国の情報開示に不満、新型ウイルスが武漢の研究所から流出した疑いを繰り返し強調。「コロナ感染源は中国・武漢のウイルス研究所にあり、そこから広がった。それを中国でとめるべきだったのに、そうならなかった」と。中国との関係の「全面断絶」をも示唆。中国に賠償を求める動きも。
 又、WHOは「中国寄り」で「中国の操り人形」だとして、WHOへの資金拠出を停止し、脱退の可能性も示唆。
 (インド出身の国際ジャーナリストファリード・ザガリア氏は「トランプ政権が自らへの批判を避けようと、都合のいい情報の提供を情報機関に求めている。誤った情報を元に戦争に突入した)イラク戦争を思い起させる」と。)
 (WHOの緊急対応責任者のマイク・ライアン氏―武漢の研究所から広がったとの主張に対しては「答えを見つけるのは科学だ」として、調査が政治性を帯びることを嫌う。)
 背景―11月大統領選挙をひかたトランプ大統領の再選戦略が低失業率や高株価など好調な経済運営だったのが、コロナ(対応を誤り、世界最悪の感染状況)で吹き飛び、失業率は世界恐慌以来の最悪という経済の急悪化―「中国たたき」による失策の責任転嫁と見られる。米国民の間でも反中感情が広がっており、対立候補を擁する民主党も共和党とはりあって、中国に対して「甘いか、厳しいか」を競うような形勢になっている。
●中国は―米国で「一部の政治家が事実を無視し、うそをつき、陰謀を企てている。」「いま警戒すべきは、米国の一部政治勢力が中米を『新冷戦』に向かわせている動きだ。」「両国の有識者はこれを止めるべく立ち上がるべきだ。」と(王毅外相)。
 「マスク外交」「健康シルクロード」で世界的感染拡大に苦しむ国々に医師団や資材を送る―その他国支援も「宣伝作戦だ」と反発を招いている。

●米中「新冷戦」―軍事・貿易・技術にとどまらず、保健衛生までも。「Gゼロ」から「混迷の世界」へ向かうのが危ぶまれる。

●ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、米中とも「対応の遅れと不透明さで検査や感染拡大封じ込めのための時間を浪費し、国際協力を逸した」と。
●カリフォルニア大学ロサンゼルス校の地理学教授シャレド・ダイアモンド氏は次のように述べている。
「中国はコロナ蔓延に対して当初は危機的状況にあることを認めなかったためにパンデミックを防げなかったが。米国でもトランプ大統領はパンデミックを否定し、それが裏目に出た。」「中国は自らの責任を受け入れ、厳しい対策に踏み切るまで一ヵ月を要した。トランプ大統領は米国がなすべきことをする責任をいまだに認めず、中国批判に多くの時間を費やしている。」大事なのは「他国の成功例を見習うこと、他国からの援助を受け入れること、そして最も大事なポイントは、このパンデミックを将来の危機に対処するためのモデルにすることだ。」「韓国の対策は世界的に高く評価されているが、日本では見習ったり、支援を求めたりする動きは鈍いままだ。」「私たちは『米国人』『日本人』といった国レベルのアイデンティティーはあっても、『この世界の一員』というアイデンティティーはない。」「このパンデミックを通じて世界レベルのアイデンティティーを作り上げることができれば、この悲劇から望ましい結果を引き出せる。気候変動や資源の枯渇、格差、核兵器の問題に向けて協力することも可能になるだろう。」
 「米国が中国への非難を強める一方、米国で使われているマスクの大半は中国から輸入されている。科学の世界では米中欧の研究者たちが共同論文を続々と発表している。対立と同時に協力の兆しもあるのだ。」「私たちの大統領は最悪。団結こそが必要な時に、彼は世界中に不統一、不和をばらまいているのだ。彼が再選されれば、米国における民主主義は終わるかもしれない、と危惧している」と。(5月8日付、朝日新聞)

●アメリカの元国際開発局新興感染症室長デニス・キャロル氏―05年の鳥インフルエンザ、09年の新型インフルエンザ、14年のエボラ出血熱の際は、国際社会はもっと一致団結して取り組んでいた。アメリカでは「NSC(国家安全保障会議)のパンデミック担当チームができていたが18年に解体してしまった。中国での感染の初期情報もあったのに、政権内でうまく共有されず、本格的な対応をとるのが大幅に遅れた。」「米国と中国は、保健や科学分野で強い協力関係があり、感染症対策でも効果的な情報共有や緊密な連携を可能にしていた。しかし、トランプ政権はこの協力関係を損ねている。パンデミックの最中に、WHOへの拠出金見直しを表明したが、現在供出金を止めるのは人々の助けにはならない。」「ブッシュ・オバマ両政権とも、国際的な健康上の危機に際し、国際社会が団結して取り組むことを主導するという、重要な役割を果たした。今後、新型コロナウイルスは医療水準が脆弱で貧困層が多い国々にも広がり、さらに厳しい事態も予想されるが、トランプ政権はこうした国々を支援する必要性について完全に沈黙している。米国に代わって真の指導力を発揮している国もなく、非常に残念に思う」と。(5月28日付、朝日新聞)

●中国・武漢のウイルス研究所の現場研究者・石正麗研究員(フランスの大学で博士号を取り、米国の微生物学アカデイーの会員)―新型コロナウイルスの起源について、海外で「武漢の研究所から流出した」との説が流布され始めた2月、自らのSNSで新型ウイルスは自然由来(コウモリなど野生動物から人間へと感染)だと主張し、研究所からの流出を否定していた―5月25日、中国国営メディアのインタビューに応じてコメント―「伝染病の研究は透明性を持ち、国際的に協力していかなくてはいけないものだ」。新型ウイルスの起源をめぐり米中が対立する現状について「政治と科学が混ざり、科学が政治化されている。全世界の科学者が望んでいない状況だ」と。
 尚、武漢の同研究所はSARSの再発防止を大きな任務とし、15年にはフランスの協力で実験施設が造られ、米国も協力し、米国立衛生研究所などが資金提供、大学と連携して1500種類のウイルス研究を行っていた。18年5月に視察した山口大学の早坂教授は「実験施設は基準を満たしており、管理水準も高い印象を受けた」と振り返り、ウイルスが施設外に出る可能性としては「実験者が感染した場合などだけだろうと」と語り、設備の問題や管理の不備による流出には否定的。(上同、朝日)

    <以上、朝日新聞より>


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