米沢 長南の声なき声


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年金問題が大争点に
2019年06月29日

 安倍自民党の現政権下で金融庁の審議会が、老後生活費は年金だけでは2,000万円不足するので貯蓄・投資など資産形成・運用が必要だという報告書を出したところ、財務大臣は「世間に著しい誤解や不安を与え、政府の政策スタンスとは異なる」として受け取りを拒否した。それに対する野党からの質問主意書には「報告書を前提としたお尋ねにお答えすることは差し控えたい」との答弁書を閣議決定。
 ところが、経産省でも(18年65歳を迎えた夫婦が95歳まで30年間暮らす想定で試算すると、生活費が1億763万円かかるが、公的年金収入は7868万円にとどまり)「2895万円不足」するという独自の試算を審議会に示していたとのことで、「年金だけでは不十分な人が多い」という課題が関係省庁で広く認識されていたとのこと(6月28日朝日)。
 いずれにしろ、今のままでは、生活費が年金だけでは何千万円も不足する人が多くなることは事実なのだ。
 そこで安倍政権はどうするというのだろうか。参院選公約には「人生100年時代に対応した年金制度の構築に向けて・・・・年金受給開始時期の選択肢の拡大、私的年金の活用促進等を進めます」とあるが、「それは公的年金だけでは足らないから私的年金が必要なのだ」ということなわけで、麻生大臣が受け取りを拒否した報告書に書いてある金融審議会の答申と同じ趣旨にほかならず、「それが政府・自民党の方針なのではないか」と志位氏が指摘している。
 野党は年金制度の危機と向き合うことが重要だとして解決策もきちんと提案していた。ところが首相はそれらにまともに答えることなく的外れな答えを長々と弁じたが、マクロ経済スライド続行の方針は強弁した。
 マクロ経済スライドとは、公的年金制度を長期的・安定的に維持・運営できるように、給付と負担を均衡させる調整装置で、年金額の伸びを自動的に調整する(引き下げる)仕掛け。
 安倍政権の方針は、要するに今後もマクロ経済スライドを続け、2040年度には基礎年金(国民年金)を(25兆円から18兆円に)7兆円削減、一人当たり満額月6万5千円から4万5千円に2万円引き下げる。消費税増税と引き換えに年金額が月6万5千円の人には(月5千円で)年6万円を支給。加入10年で月1万6千円の人には月1250円支給など年金額が低い人ほど少額、というもの。こんな程度のことしか打ち出されていない。
 ところが首相問責決議案に対する反対演説で与党議員は「年金を政争の具にしないで頂きたい」「高齢者の皆様の生活への切実な不安を煽らないで頂きたい」「野党のみなさんは年金を増やす具体的な政策を持っているのでしょうか」「今年の年金支給額はプラスになった。年金積立金の運用益はアベノミックス効果で6年間で44兆円となった。年金制度は安倍内閣の下で間違いなく強固で安心なものになっている。」「無年金者の問題に対しては払込期間を25年から10年に短縮し、60万を超える皆さまに新たな年金を支給した。低年金者には今年10月から最大年6万円の給付金を支給」などと大見得を切った。
 
 この年金問題は庶民にとっては死活的な大問題であり、政府の対応に対してどうするのか、どうすればよいのかと議論を起こすのは当然のこと。不安の種をつくっておいて、それを「なかったこと」にして不問にしようとする政権与党に非があり、野党がそれを糺そうとするのも当然のこと。「今年の年金支給額はプラスになった」というが、それは名目で0.1%増えはしても、実質では0.9%減で、安倍政権の7年で6.1%も減っているのが実態。
 首相はマクロ経済スライドで給付削減を続けて、年金制度の「100年」維持だけに固執し、老後は公的年金だけでは何千万円も足りなくなるから私的年金と貯蓄・投資でまかなうようにするか、さもなければ老骨に鞭打って働き続けるなど自助努力でしのぐ以外には、不安を解消するような具体策はなく、「年金を増やす打ち出の小づちなど存在しない」と居直り、野党に対して「具体的な対案もなく、ただ不安だけを煽る無責任な議論は決してあってはならない」などと言い立てている。

 野党の対案のうち首相が「ばかげた案」だと突っぱねている共産党案とはどのようなものか。
(1)まずはマクロ経済スライドを廃止して「減らない年金」を提案。どうやってそれをやるかといえば、高所得者の年金保険料負担の優遇措置を是正することで、財源を確保してそれをやる、というもの。
 首相はマクロ経済スライドを廃止には「7兆円の財源が必要」だと言ったが(受給者からみれば、それはマクロ経済スライドで年金が7兆円減らされるということにほかならないのだが)そのようなマクロ経済スライドを廃止するための3つ財源を提案。
①高額所得者の年金保険料負担の是正―厚生年金の本人分の保険料率は9.15%だが、高所得者は年収1000万円を上限にそれを超えても(年収5000万円でも1億円でも)保険料負担は一律95.5万円で、それ以上は納めなくてもよいという不公平な仕組みになっている。そこで、その高所得者の年金保険料負担の上限を(健康保険の場合と同じく)年収2000万円に引き上げれば、保険料収入は1兆6000億円増えことになる。ただし、保険料の上限を引き上げると、給付も増えることになる。そこで、米国の「ベンポイント」と呼ばれる方式を取りいれて年金給付の伸びを抑えれば、差し引き約1兆円の財源が出てくる。(保険料の上限引き上げと「ベンポイント」方式は、厚労省の審議会でも検討されてきたもの。)
②年金積立金(約200兆円)を取り崩し、年金給付に充てる―ヨーロッパ諸国では年金積立金は(イギリスやドイツでは)給付費の数か月分(フランスではほとんど積立てなし)。ところが日本では4年分(200兆円)も積立てて、株式市場などで投機的に運用し、18年10~12月期には約15兆円という過去最悪の損失を出している。この異常に貯め込まれた年金積立金を計画的に取り崩して活用する。
③年金の支え手である現役労働者の賃上げ(最低賃金を1000円に引き上げ、1500円を目指す)と非正規労働者(労働者の約4割、その半数は基礎年金にしか入っていない)の正社員化で、保険料収入と加入者を増やし年金財政を安定化させる。
 低年金者の底上げ―基礎年金額(月6.5万円)以下の低収入の年金生活者に一律月5000円、年間6万円を上乗せ給付。その財源は、大企業にせめて中小企業並みの負担を求め、富裕層を優遇する税制を改めるなど「消費税に頼らない別の道」で7.5兆円を確保する財源案を示しているが、そのうち7000億円を充てれば実現可能。

(2)低年金・無年金者の問題を解決する抜本的改革として最低保障年金の導入を目指す―全額国庫負担ですべての高齢者に月額5万円を保障し、払った保険料に応じた額を上乗せする制度。その場合の財源規模は5兆~6兆円で、それを大企業・富裕層の優遇税制を是正することによって確保する以外に、所得税の累進を強化すること(富裕層の税率引き上げ)によって税収を確保(消費税に頼らない税制改革で)。それに米軍の「思いやり予算」の廃止などによる確保も。

 このような野党の対案があるのだということ。


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