米沢 長南の声なき声


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憲法9条に自衛隊が追記されるとどうなるか
2019年05月21日

 安倍首相は「9条に自衛隊を書くだけであって、何も変わらない」(権限も性質も変わらない)と言っているが、そうなのだろうか。
 「9条1項・2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という改憲案だが、その条文素案は次のようなものだ。
 憲法9条の条文は1項(戦争放棄)・2項(戦力不保持・交戦権否認)とも、そのまま維持したうえで、次のような条文を追加。
 「第9条の2(第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
 (第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」
 自衛隊が、このように憲法に明記されれば、国会・内閣・裁判所・会計検査院と並ぶ憲法上の国家機関として格上げされ、同じ実力組織でも警察など他の諸機関に対して優先的地位が与えられることになる。そしてその行動とそれに必要な措置は憲法上の要請となる。(それに対して「内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする」とか、「国会の承認その他の統制に服する」など文民統制とはいっても、軍事の専門分野や機密情報については、それらに疎い政治家の関与・コントロールは充分及ばない。或は無知なうえに好戦的で、統制どころか、かえってけしかける政治家さえもあり得る。)
 9条に追記されて、保持することが認められた自衛隊は「前条(現行の9条2項の戦力不保持)の規定」によって妨げられることなく必要な「自衛の措置」即ち軍事を行うことができるようになり、自衛隊の行動は「法律の定めるところにより」内閣総理大臣が指揮監督し、「国会の承認その他の統制に服する」といっても、法律の制定も国会の承認も、国会における採決に際しては多数議席を占める政権与党に主導権があるのだから、(つまり、自衛隊の行動とそれに対する統制は、国会の過半数で変えられる法律任せ、ということであり、国会で過半数を制する政権与党しだい、ということになり)結局は政権の意向に即して(政権の思うままに)自衛隊を(集団的自衛権行使にしても、海外派遣にしても)運用できるようになってしまう、ということだろう。

 それによって、自衛隊は、これまで装備・武器使用や海外派遣などに際して、憲法上さまざま制約があって、控え気味・遠慮気味にやってきた、その制約が解かれて、むしろ憲法の要請として遠慮なく堂々とやれるようになるわけである(自衛隊の活動範囲が拡大し、自衛の名目であらゆる必要な措置がとれることになる)。まずは次のようなことが。
 ①集団的自衛権の行使、他国軍への後方支援・参戦、国際協力活動での自衛隊の任務拡大と武器使用基準緩和。
 ②敵基地攻撃用の巡航ミサイルの導入、護衛艦(「いずも」「かが」など)の空母転用―それに搭載できる米国製ステルス戦闘機(F35)既に147機購入決定―など遠隔敵地先制攻撃型兵器の拡充。
 ③防衛予算(軍事費)―社会保障費などより優先―GDP比1%枠などの抑制に囚われなくなる。
 ④自衛隊員募集の強化―自治体に適齢者名簿提供などの協力義務付け。
 ⑤運輸、土木建築、医療、ロボット・サイバー技術などが利用され、それらの従事者が徴用。
 ⑥学校教育で教科書に自衛隊の記述が増やされ、自衛隊「体験学習」導入、生徒に国防意識を醸成。
 冒頭に記したように9条に自衛隊項目を追記するだけで、このようなことが行えるようになり、その改憲案が国民投票で国民の意志として成立すれば、それら自衛隊に関わって政府や防衛省がやろうとすることに反対したり批判したり、協力を拒んだりすれば「非国民」呼ばわりされる、そういうことにもなるのでは。


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