安倍首相は自衛隊について、「今日、災害救助を含め命懸けで24時間、365日、領土・領海・領空、日本人の命を守り抜くその任務を果たしている」、それに対して「国民の信頼は9割をこえています。しかし多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は違憲かもしれないけれども、何かあれば命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任」、だから「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきである、と考えます」(17年5月3日、日本会議系の改憲団体の集会に寄せたビデオ・メッセージ)。また「いまや、国民の9割が敬意を持って自衛隊を認めている」。「全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整える・・・・私はその責任をしっかり果たしていく」(18年10月14日、自衛隊観閲式での訓辞)などと述べ改憲の必要性を説いている。最近では(3月17日)、防衛大学校卒業式で、「自衛隊の諸君が強い誇りをもって職務を全うできるよう環境を整えるため全力を尽くす」と訓示した。
自衛隊の活動分野には、災害救助や領土・領海・領空を守る領域警備の分野と、防衛出動(即ち軍事)の分野の2分野がある。前者は警察・海上保安庁・消防などと同様、国民(住民)の生命の安全と財産を守るという活動分野であり、自衛隊法では「従たる任務」とされているのに対して、後者は国防で、「国の平和と独立を守る」即ち国家を外敵から武力をもって守る軍事であるが、その方が「主たる任務」とされている。
首相は二つを一緒くたにして論じているが、国民の多くが「敬意を以て認めている」のは、どちらかといえば前者の方なのではあるまいか。また、憲法学者や政党の中に違憲とする議論があるのは軍事の方だろう。
自衛隊でも前者の活動分野なら、憲法上規定のない警察や消防と同様、憲法に規定する必要はないわけだが、安倍首相が憲法に敢て自衛隊を明記することによって、自衛隊を違憲とする議論に「終止符を打とう」とするのは自衛隊の軍事分野の方なのであり、そうすることによって自衛隊員は自分たちがやっていることは「違憲かもしれない」などと中途半端な気持ちでいることがなくなり、また警察や消防などのような単なる公務員ではない、それ以上の「国のため命を張って」戦う「軍人」として「強い誇りを持って任務を全うできるように」させられる、との思惑。つまり、この自衛隊加憲の狙いは、自衛隊の軍事分野とその拡大に正統性を持たせようとするところにあるのだろう。
自衛隊は、国民にとっては、国民の生命の安全と財産を災害やならず者から守ってもらう災害救助活動や領域警備活動の方を重視して、その点で期待と信頼を寄せている向きが多いのだろうが、安倍首相や国家の統治者にとっては、最重要なのは国防(軍事)であり(国民の生命・財産はその結果として守られているに過ぎないわけであり)、あくまで仮想敵(中国や北朝鮮など)に対して、戦争して勝てるように自衛隊の軍事力をもっと強くして、存分に戦えるようにする、そのための改憲にほかなるまい。