最大の争点―基地問題―名護市辺野古の新基地建設(そこに宜野湾市の普天間飛行場を移設)の是非―佐喜真候補(前宜野湾市長で政権与党が支援)は建設推進を容認、それに対して玉城候補(前衆議院議員で「オール沖縄」支援の翁長前知事の後継候補)は建設反対・阻止(普天間飛行場は無条件閉鎖・撤去)を主張。(佐喜真候補は、宜野湾市の住宅密集地にあって「世界一危険な基地」と称される普天間基地を同県内の他所に移設することを条件に返還を日米両政府が合意していたのにしたがって、とにかく宜野湾市から撤去さえできればそれでよく、移設先が名護市辺野古で、そこにもキャンプ・シュワブという基地が既にあって、それを拡張するかたちでそこの沿岸部に新基地を建設がされることになるが、それは容認。それに対して翁長前知事は「普天間基地は、太平洋戦争中の沖縄戦で日本軍がそこを撤退したあと米軍に投降した住民が連行されて収容施設に入れられている間に、米軍に土地を強制的に接収されて造られた基地。その土地は自分たちの土地であり、とられた土地を返してもらうのに、なぜ代替基地を提供しなければならないのか、無条件で返還するのが筋というものだ」という考えで、玉城候補はその考えを受け継ぐ。)
県民―告示後の地元メディアなどの合同世論調査では―重視する政策は「基地問題」が4割で最多(次いで「経済・景気・雇用」が26.7%、「医療・福祉」が13%、「教育・子育て」が7.5%)、普天間基地の辺野古など「県内移設」には反対が7割(そのうち県外移設28.1%、国外移設21.2%、無条件閉鎖・撤去19.7%。琉球新報の調査では辺野古基地建設に伴う沿岸部埋め立て承認の撤回には7割が賛成)。こうして見ると辺野古新基地建設には大多数が反対というわけ。
ところがそれが、知事選の投票となると、辺野古新基地建設の阻止を主張する玉城候補にそのまま7割が入るとは限らないのだ。(先の名護市長選挙では建設反対・阻止の方針をとってきた稲嶺前市長の方が敗れ、自公推薦候補の方が当選するという全く逆の結果となった。)
そこには次のような投票者とりわけ若者の意向があることが指摘されている。
「基地問題よりも経済振興だ」という考え―基地には幾ら反対しても、どうにもならない。基地建設は止められないし、現実は何も変わらない(といった「割り切れない」思いと諦め、閉塞感)。先の見えない国との対立にもう疲れはて、これ以上対立を煽ってほしくない(などと嫌気をさし、反対運動には敬遠むしろ反発)。とりわけ、若い層にその傾向が顕著。野添・沖縄国際大学の准教授によれば「ある世代以上は」「沖縄戦や米軍統治という歴史的・構造的な視点で捉え」「強制的に土地を奪われて基地が建設された経緯など、基地問題を歴史の中で位置づけ」て考える。ところが「若い人たちの多くは」「米軍基地は生まれた時から存在」し、「なぜ基地があるのか、なぜ沖縄に集中しているのかといった構造には目が向きにくい(「既成事実として受け流している様子」)。その結果、主に経済や就職できるかといったことに関心が向かって」いく。(2016年にうるま市で起きた米軍属の一人による女性殺害事件も、学生たちの間では「一個人の事件であって、『基地問題』としてとらえるのはおかしい」「政治的に利用するな」といった反応が目立った、とのこと。)
彼らにとっては、沖縄の県民所得が全国最低であることの方が問題であり、政府の計らいによる国からの交付金・補助金で経済を振興し、雇用や仕事を増やして所得を引き上げてもらう、といったことの方が重要で、基地問題は「二に次」だというわけである。(沖縄経済の貧困状況については、それを招いてきた責任はむしろ在日米軍基地を長年押し付けてきた歴代自民党政権にあり、それでも翁長県政は沖縄がアジアと日本本土との中継地点に位置するという地理的条件を活かして基地に頼らない自立した経済を追求し、沖縄経済はこのところはむしろ好調で、一人当たり県民所得も、前の仲井間知事当時の12年度で197万円だったのから18年度には237万円に増える見込み。翁長県政を引き継ぐ玉城候補はやはり地理的条件を活かした観光・文化・スポーツ・交易・国際交流など自立的な経済発展をめざし、基地はむしろその阻害要因だとして基地と交付金依存経済からの脱却を打ち出している。)
「若い人たちの多くは、現在の問題を『現在の問題』としてとらえがち」だが、過去の歴史を知らずして、現実を的確に見極めることはできず、未来を展望することもできないわけである。
いずれにしろ、政権側支援候補に投票した人は、その理由を、「辺野古の基地建設工事はいくら反対したって阻止なんかできっこないし、割り切れない思いもあるが、普天間の基地だけでも無くなってくれればそれでよいとして、とにかく政権と親密な候補に知事になってもらった方が、国からの交付金・補助金や企業誘致に有利でカネや仕事や就職にあり付けるから」などと弁明するのかもしれない。しかし、どう言い訳しようとも、その投票は、結局は辺野古基地の新設・沖縄基地確保を目指す安倍政権と米軍に屈服したことになる。そして、結果その候補が当選して知事になれば、政権は思い通り辺野古基地建設工事を推し進め加速させることになり、それが完成すれば以後100年~200年もその基地は存続し、沖縄県民は子や孫たち代々に渡って基地に悩まされながら暮らさなければならないことになるわけである。
「辺野古の基地建設工事は阻止なんかできっこない」というが、現に沿岸部160ヘクタール(東京ディズニーランド3個分)の埋め立ては仲井間前々知事が与えた承認を翁長前知事の遺志で副知事が8月末に撤回したことによって工事は止まっている。さらに埋め立て予定海域には軟弱地盤が存在することが分かっており、仮に政府の「法的措置」によって工事が再開されても、大規模な地盤改良が必要であり、それにも知事の承認が必要不可欠となる。また国から設計変更申請がなされたとしても、県知事に許諾権があり、それを無視して工事することは違法であり、強行はできない。要するに知事しだいで、工事をストップさせ、断念に追い込むこともできる、ということなのだ。さて沖縄の有権者に方々は、どのような判断をして投票するのか、そして辺野古新基地建設を容認する知事候補と阻止を貫く候補のどちらに投票するのかだ。
<参考―9月22日付朝日新聞のオピニオン・耕論欄「分断の沖縄と若者たち」>