今回の米朝首脳会談でトランプ大統領は北朝鮮に対して(完全な非核化を行うならばとして)安全の保証(休戦協定を平和協定に切り換えること)を約束し、キム・ジョンウン委員長は朝鮮半島の完全な非核化に対する「揺るぎない決意」を表明した。
今後は、①非核化についてはCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)と期限や方法など具体策の協議と合意、②朝鮮戦争の終結の平和協定の締結、これらが課題となる。(1)保阪正康氏の論評
16日付け毎日新聞・オピニオン欄シリーズ保阪氏正康の「昭和史のかたち」に、その保坂氏(ノンフィクション作家)の論評が出ていた。
「米朝首脳会談の核心―朝鮮戦争、休戦から終戦の段階に」と題して、次のように書いてあった。
それが「世紀の歴史会談になるか否かは、実は北朝鮮の非核化や米国による体制保証にあるのではない。もっと重要な点は朝鮮戦争になんらかの形でピリオドを打つ、それが歴史的会談のゆえんではないかと思って注視してきた。しかし、共同声明にそれはなかった。惜しまれる。」
朝鮮戦争の休戦協定(1953年)では「朝鮮からの外国軍の撤退や平和的関係維持のための『高度な政治会談を開催する』ように求めてもいた。」「しかし、現実には、軍事境界線が『l国境』とみなされ、政治会談や平和協定移行への動きは65年間なかったのである。12日の米朝の首脳会談は、その意味ではまさに画期的であった。」「結果的に(平和協定への)署名までには至らなかったにせよ、平和協定は北朝鮮の非核化、米国による体制保証の前提でもあり、この方向が確認されたこと自体、朝鮮戦争は休戦から終戦の段階に入り、いわば両国間の戦争状態は終わったとの言い方もできるであろう」と。
どうやらこれは、当方がこのブログに書いた評論、前回の『北朝鮮問題は過去の歴史に向き合って』と軌を一にする論評のようだ。尚、柳澤協二(元内閣官房副長官補)はサンデー毎日6月24日号で次のように述べている。
「朝鮮戦争を終わらせる」、それで「構造的な対立関係は解消」され、北朝鮮にとっては「滅ぼされる心配も、核を持つ必要もなくなる」。そして「核放棄が不可逆的な流れになる」。以前(1954年)のような「枠組み合意」と違って首脳間の合意であり、簡単には後戻りできない重みがある」と。(2)今こそ日朝首脳会談の時
米朝首脳会談の実現で対話路線がスタートし、これまでのような火を噴きかねない極度の緊張から緩和へ(アメリカは米韓合同軍事演習を中止に踏み切った)。
そこで、日本も(これまでアメリカに合わせて、否、むしろ「対話のための対話は意味がない」などと言って、より強硬に「最大限圧力」をトランプ大統領にけしかけてきたかのようだったが、それでは立ち行かぬことになった)この際、対話路線に転換し、日朝首脳会談に踏み切って、拉致問題解決を急がなければなるまい。(米朝会談に際してトランプ大統領に拉致問題のことを是非話しに出して欲しいと頼み込んで、大統領もその旨先方に伝えたというが、今度は直接自らが首脳会談に臨み、その件を話し合わなければなるまい。北朝鮮の非核化の問題はアメリカに任せ―とはいっても、核弾頭の運搬手段である弾道ミサイルの廃棄は大陸間弾道ミサイルICBMだけでなく、日本に届く中距離弾道ミサイルも含めた話が必要だが、日本人拉致問題は日本の首相自らがかけあうしかないわけである。)
日朝間にはこの他にも諸懸案―過去(日本による植民地支配に伴う損害)の清算、国交正常化など―があり、それらをも念頭に「包括的に解決する」立場(小泉・金正日によるピョンヤン宣言で合意した方針)で臨まなければならないが、拉致問題は現在生存中の被害者とその家族の存命に係わる人道上の問題であり、時間的に最優先で取り組まなければならない問題である。
取り組まなければならないのは拉致被害者の行方・所在の調査・確認から日本への帰還(家族に還す)まで、それらを両国政府の責任で早急に取りかかってもらわなければならない。
とにかく日朝首脳会談、当面の目標は拉致問題の解決であろう。
(尚、拉致被害者の人数は日本政府認定で17名、うち5人はすでに帰国。
ところが、北朝鮮側はそのうち4名は入国が確認されておらず、8名は死亡―うち2名の遺骨は返還、他は死亡情報を提供しており、解決済みだとしている。しかし、日本政府はそれら北朝鮮側の死亡認定の根拠は不自然であり、全員生存しているものとして対処。また17名以外にも、行方不明者で「拉致されたのかもしれない」という「特定失踪者」も多数いる。)首脳会談といっても、双方互いに「信用がおける人間か」という問題があろう。向こうの若い独裁者(祖父は日本の植民地支配下で抗日独立闘争を指導し、朝鮮民主主義人民共和国を建国したキム・イルソンで、その孫)もさることながら、こちらのトップ(祖父は太平洋戦争開戦当時は東條内閣の重要閣僚で、戦後、自民党の初代幹事長となり、その後首相となった岸信介で、その孫)は、このところ「信なくば立たず」と自分でいいながら、国内ではモリ・カケ問題で信用が失墜している。どうも、それが問題なんだな・・・・・
それに、首脳同士の信頼関係もさることながら、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」(憲法前文)という国民間の温かい眼差しもあって然るべきだろう。