米沢 長南の声なき声


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北朝鮮問題は過去の歴史に向き合って
2018年06月06日

 首相も外相もマスコミも自国民の偏狭な(歴史的視点を欠いた)思い(国民感情)にとらわれて核・ミサイル問題と拉致問題だけに焦点が当てられ、北朝鮮にそれらを「放棄しろ」、拉致した日本人を「還せ」、さもなければ「最大限圧力」あるのみ、と言い放つだけのような論調が専らで、米朝首脳会談がどうなるかも、その観点からしか論評されない。日本国民にとって非核化と拉致被害者の解放は北朝鮮に対して求めてやまない最重要案件であることは勿論のことだが、それらをただ一方的に迫るだけでは埒があくまい。なぜなら、それらは彼の国が必ずしも傍若無人(道理など意に介さず勝手・気まま)にやってきたわけでもないだろうからである。
 そこには不幸な歴史がある。日本による植民地支配、それが終わったかと思うと、米ソによる分割占領・南北分断・冷戦から朝鮮戦争、休戦協定は結ばれるも戦争終結は未だ成らず、敵対関係は続き、いつ戦争が再開されるか分からない、という状態が続いている。強制連行・慰安婦問題・謀略・テロ・拉致など様々な事件や問題はその中での出来事として考えなければならないだろう。核・ミサイル問題も拉致問題も、その歴史的文脈で(冷戦・戦争・休戦から終結・敵対関係の解消へ)の道理に則して考え、解決策を講じなければなるまい。ただ単に「非核化(核・ミサイルを放棄)せよ」といくら言い立てても、朝鮮戦争が休戦協定にとどまっていて、いつ再開されるかも分からない状態が続いているかぎり、それ(核・放棄)はあり得まい。逆に戦争終結宣言・平和協定締結で敵対関係が解消されれば、武力攻撃に備える抑止力の必要もなくなり、核・ミサイルなど不要となり、非核化される。それが道理というものだろう。
 だから、その道理にたった方法でやるしかあるまい。つまり、完全非核化は米朝それに韓国と中国(朝鮮戦争参加国)も加わって和平協定を締結して朝鮮戦争が完全に終結し、敵対関係を解消されて、はじめてそれは実現可能となる。それに伴って(アメリカとともに)日本も北朝鮮との間に敵対関係が無くなり、日本が過去(植民地支配)の清算に踏み切れば関係は正常化し、拉致問題の解決も進展することになる。
 それが道理なのであって、「かけ引き」とか「取引き(要求に応じれば『見返り』を与える)」などという筋合いのものではないのである。
 北朝鮮問題は、そのような道理と相手に対するレスペクトがないかぎり、自国ファーストで自国民の感情や利害が先行し、相手国民の思いに心を致すことなく、圧力による「ごり押し」や「取引き」「かけ引き」だけではけっしてうまくはいくまい。

 韓国の文大統領は南北首脳会談で(「板門店宣言」に)朝鮮半島の非核化とともに休戦状態にある朝鮮戦争を年内中に終戦宣言を行うとし、停戦協定を平和協定に切り換えることにも言及している。

 日本のマスコミでも珍しく、今日6月6日朝日新聞が(オピニオン欄・「耕論」に「世界史の中の朝鮮戦争」と題して)朝鮮戦争のことを取り上げ、米朝首脳会談で朝鮮戦争「終結」の可能性があるとして3人の専門家・教授のインタビュー記事を掲載している。その中で菅英輝・九州大学名誉教授が「朝鮮戦争は・・・・その戦争が終わるかもしれないいま、大きな歴史的文脈で米国の論理をとらえ、日本が取るべき道を考える必要がある」と語っている。又、山本昭宏・神戸市外国語大学准教授は「冷戦後も朝鮮半島の分断が続いたことを、日本の政権は利用してきた。事あるごとに、北朝鮮という格好の「敵」に言及し、ナショナリズムを喚起して、国民の支持を『調達』してきた」、「米朝首脳会談で、朝鮮戦争が「終戦」したら、一番困るのは日本かもしれない。自民党政権は、会談後も北朝鮮の脅威を強調し続けるのでは」と。 
 そうか、だから日本政府は朝鮮戦争の終結に歓迎を示さないのか。そして、「そんなことよりも、とにかく、拉致した日本人を還せ、核・ミサイルを放棄せよ、それに応じない限り『最大限の圧力』をかけ続けるまでだ」ということなのだろうか。それで拉致被害者は還ってくる、核・ミサイルも放棄する、のだろうか?

 トランプ大統領は4日後の米朝首脳会談を控え、訪米した安倍首相との会談後の記者会見で「朝鮮戦争の終結に関する合意を結ぶ可能性がある。それが最初の第一歩になるかも」と語っている。まさに「我が意を得たり」の感。(尤も、トランプにとって本願は北朝鮮の完全非核化だが、その方法や時期など一回の交渉だけで一挙に決着をつけるのは非常に難しいが、平和協定は別として、とりあえず終戦宣言と合わせて言葉の上での非核化宣言なら合意は簡単だとか、国内で政権の信任投票でもある中間選挙を控えて自国民に「歴史的成果」をアピールする等の思惑があるとはいえ)道理に適った判断には違いあるまい。さて12日の会談はどうなるかだ。
 それにつけても、北朝鮮が非核化に応じれば「体制保証」してやるとか、安倍首相のように「北朝鮮が正しい道を歩むのであれば・・・・」といった上から目線ではうまくはいくまい。



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