米沢 長南の声なき声


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朝鮮戦争終結交渉と北朝鮮の非核化どっちが先決(加筆修正版)
2018年05月01日

 安倍首相もマスコミも、北朝鮮問題・米朝首脳会談といえば、専ら北朝鮮が完全非核化に応じるか否かということと拉致問題のほうにばかり焦点が当てられて、朝鮮戦争終結の和平協定の問題は度外視か二の次で、国民もそこにはほとんど関心は向けないきらいがある。日本にとっては北朝鮮の非核化と拉致問題が最大の関心事であることは当然のことではある。しかし、全ての問題の根源にある根本問題は、朝鮮戦争すなわち長らく休戦中ではあるも未だ終わっておらず今にも再開されそうな戦争を終わらせ、北朝鮮と米韓それに日本との間の敵対関係を解消することであり、先ずはそこをどうするかに焦点を当てて然るべきなのではないだろうか。
日本人の気持ちとしては、北朝鮮に対しては核・ミサイルの放棄に加えて拉致問題が何よりも気が気でない焦眉の課題であることは当然だが、朝鮮戦争が対岸の火事ではない韓国人にとっては、それが再開されはしないかということのほうが気が気でないし、北朝鮮にとっては朝鮮戦争再開の不安さえ解消されれば、核兵器などに全てを犠牲にしてまで執着する必要はないわけだ。北朝鮮は日本に対しては、その以前植民地支配をうけたことで韓国のほうは既に日韓基本条約でけりがついているが、北朝鮮のほうは未だにけりがついていない上に、日本は朝鮮戦争の最中から現在に至るまで米軍に出撃基地を提供し日米同盟を結んでいてずうっと敵対関係にある、その関係に終止符を打ちたいと望んでやまないところだろう。
 また、朝鮮戦争終結の和平協定(相互不可侵協定)を日米政府やマスコミは、北朝鮮が非核化を実行したならば、それへの「見返り」の一つとして(制裁緩和などとともに)与える「体制保証」という言い方をするが、その言い方もおかしい。和平協定でで相互不可侵を約束したからには、米韓軍が北朝鮮に対して政権打倒や体制転覆の攻撃をかけるということはあり得ないことになる。そうなれば自ずから北朝鮮にとっては核抑止力など不要となり、非核化は当然のこと。それを「体制保証」などという言い方で、アメリカ政府(それに日本政府)が、上から目線で、或いはディール(取引)で、「見返り」として与えるという筋合いのものではあるまい。

 北朝鮮に対して圧力一辺倒(問答無用)か圧力とともに対話か
 アメリカ側(トランプ大統領)は先ず北朝鮮が核放棄(検証可能で不可逆的に完全非核化)する(そのことを単に約束するだけでなく)行動に踏み切ることが先で、それを果たすまで最大限圧力(制裁)をかけ続け、それが達成されれば和平協定を締結(休戦協定を和平協定に切り換えて、北朝鮮の政権と体制を保証)し、制裁解除・国交正常化することとする。それは要するに「先ず武装放棄すれば、政権の命と体制保証の話に応じてやる」というもので、北朝鮮側にとっては戦わずして政権の命の保証を条件に降伏させられるようなもの。それは「リビア方式」というもので、以前カダフィ政権の下で実現したが、同政権はその後崩壊の憂き目にあった。北朝鮮は「カダフィの二の舞は踏んでなるものか」と思っているのではとみられる。
 「最大限圧力」強硬姿勢と言っても、トランプ大統領は前任者オバマの「戦略的忍耐」方針つまり北朝鮮が核放棄の行動(措置)をとらない限り対話には応じないというやり方は間違いだったとしており(実際、その間北朝鮮の核開発はかえって進展する結果になってしまっているとして)、必ずしも「圧力一辺倒」ではなく「対話」には前向き。
 それに対して日本政府(安倍首相)は北朝鮮に対して圧力一辺倒で、核・ミサイル放棄だけでなく拉致問題でも被害者解放の行動をとる(措置を講じる)までは問答無用で対話には(「対話のための対話は時間稼ぎに過ぎず意味がない」として)応じずに最大限圧力をかけ続けるようトランプ大統領に促している。つまり、北朝鮮に対して、日本にとって脅威となっている核・ミサイルを放棄することに加えて拉致被害者を全員解放・帰国させること(それを約束するだけでなく具体的にその行動をとること)、それがないかぎり制裁解除・国交など関係正常化交渉には応じない、というものだ。
 それに対して韓国(ムン大統領)は、自国での冬季五輪開催に際して開会式で北朝鮮選手団と統一旗を掲げて合同行進したりアイスホッケーで統一チームを組むなどの交流が行われたのを契機にして、「対話」に乗り出し、米大統領了解のもとに北朝鮮に特使を派遣(日本政府は「ほほえみ外交」と揶揄)、キム国務委員長の米大統領との対話の意向を(訪朝した特使をワシントンに派遣して)トランプ大統領に伝えたうえで、南北首脳会談にこぎ付け、朝鮮半島の非核化の早期実現を期する事とともに朝鮮戦争終結を年内中にこぎ付けることに合意した(板門店宣言)。それと相まってトランプ大統領も、既にポンペオ氏(当時は中央情報局長官、現在国務長官)を平壌に派遣してキム委員長と極秘会談させ(感触を確かめ)ており近々米朝首脳会談に臨む意向を示している。この米朝首脳会談で南北首脳会談におけるムン大統領とキム委員長が話し合った朝鮮戦争終結の和平協定締結と朝鮮半島の非核化問題のさらに詰めた話を行うものとみられる。
 尚、キム委員長は南北首脳会談に先立って北京を訪れ中朝首脳会談を行っている。
 つまり、韓国・北朝鮮・アメリカ・中国の首脳たちは対話に乗り出し、米朝首脳会談はこれからだが、他はそれぞれに既に会談をもち、一定の合意を達している。最重要なのは米朝首脳会談だが、そこで合意に達すれば完結をみることになるわけである。即ち朝鮮戦争の完全終結と朝鮮半島の非核化が実現するということである。
 問題は日朝間、拉致問題はどうなるかである。今のところ、日本政府の方針は圧力一辺倒で、北朝鮮とは対話の場はなく(「対話のための対話は意味がない」と言って拒否)、専らアメリカ頼み(唯ひたすらトランプ大統領に「是非拉致問題のことも話して下さい」と人頼み)で、主体的、具体的な対応が全くみられない。拉致被害者・家族の方々は居ても立ってもいられまい。それなのに。
 当方が思うに、先ずは朝鮮戦争を終結(休戦協定から和平協定にこぎつけること)―南北首脳会談では北朝鮮は韓国との間で終戦宣言を行っただけだが、正式の和平協定(相互不可侵協定でもある)の締結は、休戦協定の時と同様にアメリカ(国連軍代表)と中国と北朝鮮の3者か、それに韓国を加えた4者が調印して行われなければならない。まずはそれをやり遂げることである。そうすれば、北朝鮮にとってはもはや「核抑止力」は不要となり、完全非核化をはじめ制裁解除・米朝国交正常化まで、あとのすべては実行可能となる。日朝間には既に小泉・キム=ジョンイル両首脳が交わしたピョンヤン宣言に明記された拉致問題も含めた懸案の包括的解決へのロードマップが存在しており、それにしたがって事を運べばよいのである。それらに各国とも全力をあげて取り組むこと、とりわけタイムリミットにある(これ以上待てないという)拉致問題を抱える日本政府は他力本願ではなく北朝鮮との主体的な直接アプローチが急がれよう。

 このところ北朝鮮のキム=ジョンウンがにわかに非核化の意向を示して首脳会談に動き出したのは圧力が効いたお蔭だとトランプ大統領も安倍首相も自らの強硬圧力政策を合理化するが、はたしてキム氏は、その圧力に屈してやむなく核武装放棄に踏み切ったのか、それとも核開発計画が(アメリカ本土まで届く大陸間弾道ミサイルとともに)完了し核抑止力保有を達成した、その自信からか。いずれにしろ、北朝鮮が完全非核化を果たせば、その「見返り」に制裁を緩和・解除して「体制保証」もしてやる、といった考え方には、どうも強者・官軍が弱者・賊軍に、迫るやりかたで、追いつめられて城に立てこもる賊軍を兵糧攻めにし、白旗をあげて降伏すれば、命と身分(体制・政権の延命)だけは保証してやるといった「上から目線」或いは高圧的態度を感じ、違和感どころか反発がつきまとう。
 軍事的オプション(選択肢)も含めた「最大限圧力」を「これでもか、これでもか」とばかりかけ続けるやり方だが、それでうまくいけば、北朝鮮は耐え切れずに、屈服して要求に全て(核放棄も拉致被害者の解放も)応じることも考えられるが、逆に「窮鼠猫をも噛む」「戦わずして屈服するよりも戦って討ち死にする方を選ぶ」となって暴発(戦争)を招いてしまう結果にもなりかねない、といったリスクがそれには付きまとう。そのような「最大限圧力」に物を言わせる高圧的やり方でよいのか、それとも相手の立場をも尊重した対等関係で臨んだ方がよいか、どちらが賢明なのかだろう。
 北朝鮮の立場に限らず、客観的に云っても、歴史的経緯から考えれば、そもそも朝鮮半島は、73年前の日本軍降伏以来、南北分断、朝鮮戦争、休戦協定は結ばれたものの、38度線を挟んで対峙、韓国それに日本にもアメリカ軍が引き続き基地に駐留し、北朝鮮にはソ連と中国が後ろ盾となっていたが、冷戦終結にともない中ソともに韓国と国交、北朝鮮はただ一国で米韓軍に立ち向かわなければならなくなった。通常戦力では圧倒的な米韓軍に対して北朝鮮は核戦力にすがるようになった。そこから考えれば、ただ単に核・ミサイルを放棄せよとばかり言い立て、完全非核化しないかぎり体制保証など「見返り」は一切与えない、というのには、どうも無理があるように思う。先ずやるべきことは、何を置いても朝鮮戦争以来の戦争状態(休戦協定にとどまって対峙している状態)を終わらせる和平交渉、平和協定締結を関係国が互いに対等の立場で行うことが先決なのである。それさえ果たされれば、核もミサイルも無用の長物となり、キム政権にとってそんなものにこれ以上すがりついている必要も、政権が打倒される心配もなくなるわけであり、日本に対しても拉致問題など深い怨みをかっている罪過をこれ以上抱え続ける必要はなく、即刻解放措置を講じて然るべきことになり、経済制裁解除・国交正常化も可能となる。
 とにかく、米朝首脳会談は、先ずは朝鮮戦争終結の話から始めるのが筋なのでは、ということだ。それに会談は対等な立場で対話し、交渉・説得が行われなければなるまい(アメリカ軍の戦力が圧倒的に強いからといって、強圧的に自国側に有利な条件で、在韓米軍・在日米軍とも、それらを全くそのまま維持して、北朝鮮にだけ核・ミサイルともに放棄せよと一方的に押し付けるようなことのないように)。そうして朝鮮戦争終結の和平協定の交渉が先ずは米朝間で対等の立場で話し合われて合意に達し、中国・韓国も調印して協定が結ばれれば、もはや互いの敵対関係は解消される。そうなったかぎり、経済関係正常化や国交正常化など、あとのことは「見返り」という交換条件ではなく、当然のこととして、それぞれの求めに応じて受け入れなければならないことになる。日本政府も北朝鮮との対話・交渉に踏み切れば、そこで直接拉致被害者を全員帰せと要求して当然だし、北朝鮮はそれに応じなければならない。それはそれとして北朝鮮からも日本に対して過去(日本によって行われた植民地支配にともなう被害・損害)の清算など求められれば、(韓国にたいしては既に行っているのと同様に)その求めに応じて清算するのは当然のことだろう。

 論理的には、朝鮮半島に関わる国々の間で全ての関係正常化と懸案解決の前提となる敵対関係の解消・信頼関係の構築が先決で、それさえできればあとのことはすんなりといく。その信頼関係構築のために先ずもって朝鮮戦争終結の和平協定締結が行われなければならないが、それ自体は首脳会談での合意から協定締結に至るまで手順にしたがった作業が必要であり、それには一定の時間(年内とか何か月以内とか)を要する。
 一方、拉致問題も、論理的にはそれも米朝が和平協定を結んで、それに伴って日朝間にも敵対関係が解消され信頼関係が築かれたうえで取り組まれるのが筋だが、この問題に限っては、拉致被害者・家族の生命が懸ったタイムリミットに直面していて一刻の猶予もないので、時間的優先順位としては、真っ先に取り組んで然るべきであり、解放・帰国に向けた措置を急いで講じてもらわなばければならない。したがって朝鮮戦争終結の平和協定は米朝首脳会談で双方とも合意に達してその意志を確認した段階で、協定締結に至るまでの作業は完了しない段階であっても、日本政府は米韓と北朝鮮の和平協定に向けた終戦合意を支持して、日本も北朝鮮に対して敵対関係をとり続けるのをやめて対話に転じ、早急に日朝交渉に着手し、拉致問題に決着をつけなければならない。とにかく、「アメリカ頼み」で、米朝首脳会談を「蚊帳の外」から様子見しているだけではだめで、自ら主体的積極的に動かなければなるまい。
 核・ミサイルの完全放棄(核施設の廃棄、検証など)も、国交正常化も、過去の清算も、それらが実現を見るまでには、いずれも年月・時間がかかるので、まずは包括的に話し合って合意し、それぞれ実行の意志を確認すればよいのである
 そのように事が運べばいいんだがな、いやそうすべきだ、ということ。

 とにかく北朝鮮と米韓との間で未だ終わっていない朝鮮戦争と、日本もアメリカとともに北朝鮮に対して敵対関係にある状態に終止符を打つことが先決だということだ。


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