自民党と改憲政党の圧勝で、「自己都合」抜き打ち解散をした安倍首相の思惑通りの結果になった。
彼らの勝因には、まず国民の間に北朝鮮(核実験とミサイル発射の連発)それに中国(折から中国共産党大会が連日ニュースに)への脅威感がかきたてられていたこと、それがあるだろう。(内閣府の国民生活に関する調査では今の生活に満足しているという人74%で過去最高ということで)生活にさしたる不満のない多くの人々にとって何が不安かといえば、北朝鮮・中国の脅威だと思われ(同調査で、政府が力を入れるべき事柄としたのは「年金・医療など社会保障」が65%、「景気対策」が51%、「高齢社会対策」が51%、それらに次いで多いのが「防衛・安全保障」36%で過去最高)、その脅威にどう対応すべきかを最大争点として掲げ、「安定政権」によって「国難を突破するのだ」とアジる首相の弁舌が功を奏したのだろう(麻生氏いわく「(選挙で大勝したのは)明らかに北朝鮮のおかげ」と)。
それに折からの株式市場の好調(これまた20年ぶりの高値だとか、バブル期以来の連続上昇とか)がアベノミクス効果としてプラスした。
そして何よりも、野党の準備体制が整わないうちにと抜き打ち解散・総選挙に打って出たその作戦はものの見事に当たった。つまり小池新党「希望の党」のにわかな結党に前原民進党の「合流」、それに対する枝野派の反発・「立憲民主党」結成、(小池・前原による分断で)市民連合と野党共闘のつまづき、これらが敵失(政権批判票の分散)として自民党を利する「漁夫の利」という結果になったことである。与党の街頭演説は、このように「混迷・体たらくな野党には任せられない」ということと、「北朝鮮の脅威に立ち向かえるのは自公の安定政権しかない」という、この二つのことを言いたてさえすれば、あとのことは(森友・加計問題とか改憲問題とか原発問題など)言わなくても、多くの人は「そうだな、やはり自民党しかないな」とならざるをえないわけか。
山形2区では、当初は、先の参院選に野党共闘で大勝した時と同様に市民連合と4野党が統一候補で臨むものと思われたが、その民進党前職候補は、共闘合意と矛盾する「希望の党」の方に走ったばかりに共闘体制は崩れ、彼は比例復活さえできずに落選した。
しかし、沖縄・北海道・新潟など立憲野党の共闘体制を堅持したところは善戦して勝を制したところが多く、立憲民主党と共産・社民3党が統一候補で臨んだところでは公示前38議席だったのが69議席へと躍進した。
(この間共産党は市民連合と立憲野党の共闘合意を守って、67選挙区で独自候補者を降ろして懸命に信義を貫き、立憲民主党を援護してその大躍進に貢献したものの、自党への比例票が他に流れ、自らの議席数を大きく減らした。愚直とはいえ、とかくこの世は正直者がバカをみる。もう一つ、この党には、そもそも根本理念が「万人の自由・平等」でリベラルのはずなのに、「自由がない」かのように言う俗説による誤解が根強く、それで損している。今後、その誤解を解く努力が同党には必要となろう)
国民の間では安倍一強政治に対する批判・疑問は少なくなかった(世論調査の内閣支持率は不支持の方が多いくらいで、朝日新聞の投票所出口調査では安倍政権継続を望まない人47%で、望む人46%を上回り、共同通信の出口調査では安倍首相を「信頼していない」51%で、「信頼している」44%を上回っている)のだが、結果的に(自民党は、棄権を含めた全有権者に占める絶対得票率では小選挙区では25%、比例区では17%しかないのに議席は61%も獲得)安倍政権信任・続投を許すという結果になっている。そして、その政権運営、憲法と国会をないがしろにする非立憲的・非民主的な政治手法や政治姿勢、改憲路線も容認された形となっている。ルールやモラルよりも己の欲望・利害で政治家が選ばれる「利益誘導型」傾向が根強いということだ。尚、投票率は53.68%で、戦後最低だった前回(3年前は52.66%)に次ぐ低さ。09年、民主党が勝った時は69%だった、それに比べれば、有権者の半分近くが棄権するという盛り上がりのなさ。安倍政権「信任」とはいっても敵失による消極的信任にすぎないということだ。
それに朝日新聞の事後(23、24日)世論調査では、内閣支持率では「支持」42%で「支持しない」39%だが、
与党の議席数は、「少なすぎる」3%、「ちょうどよい」32%に対して「多すぎる」51%。
自民党の大幅議席獲得は「安倍政権の政策が評価されたからか」では、「評価されたから」26%に対して「そうは思わない」65%。
「安倍氏に今後も首相を続けてほしいか」では「続けて欲しい」37%に対して「そうは思わない」47%。
安倍首相が進める政策に「期待」29%に対して「不安」54%。
9条に自衛隊明記する改憲に「賛成」36%に対して「反対」45%。
これらのことから言えることは、自民党と改憲政党の「圧勝」とか、安倍政権は「信任を得た」とは言っても、国民の多くは、その政策・路線を支持・信任しているわけではないということだろう。
要するに、安倍自民党の大勝の原因は小選挙区制度(小選挙区比例代表並立制だが、全議席の6割は小選挙区から。その各選挙区では一人づつしか当選せず、それ以外の候補者に投票した人の票はすべて切り捨てられ死票となる)と野党分断のおかげであることは確かだ。(もう一つ麻生氏の言う如く「北朝鮮のおかげ」もありか?)それでも安倍首相は(記者会見などでは)「力強い支持を国民からいただいた」と言っている。
このような選挙の結果、今後どうなるか。
安倍政権は継続、その政策・路線・諸懸案・手法とも継続することになる。
外交・安全保障政策―北朝鮮・中国に力(自衛隊と日米同盟)で対決―
誤算・偶発的衝突から戦争に発展しかねない危険をともなう。
改憲路線―(「スケジュールありきではない」とはいっているが)加速。
9条に自衛隊、明記へ(但し、改憲勢力は自公に希望・維新合わせ8割議席を占めるとはいっても、9条その他どこを変えるのか、考えはバラバラ)。
軍事主義・国家主義(統制・動員体制)強まる方向へ。
アベノミクスは継続―株高・雇用改善の裏で非正規が増え、賃金が増えず、格差が広がっているのに。
消費税2019年10月から10%に。
原発は再稼働を強行。
核兵器禁止条約に背を向け続ける(のだとすれば「あなたはいったいどこの国の総理なのですか」と言われ続けることになる)。
森友・加計疑惑はうやむやで済まされるか。
等々、その手法は「真摯に謙虚に丁寧に」などと言いながら、結局は数の力で押し切るやり方(「これからはもっと丁寧嘘をつけ」「謙虚から暴挙へ変わるすぐ変わる」と朝日川柳)。これらが継続されることになる。
我々国民は、これにどう立ち向かうかだ。そして市民連合は立憲野党(立憲民主党・共産・社民・無所属)との共闘を維持・発展させられるか。巨大与党に対抗するには与党の倍以上の努力(市民連合には野党を育て、後押しする努力)がないと勝てないといわれるが。
尚、リベラル野党共闘・市民連合について確認すれば次のようなことが言えるのでは。
リベラルとは(定義づけは色々あるが、この場合は(安倍自民党の国権主義・軍事主義・対米追従主義・財界本位主義に対して)自由・人権平等主義・民主主義・立憲主義・平和主義。
共通スローガン―安保法制の廃止、立憲主義の回復、原発再稼働反対、9条改憲反対。
リベラル野党(立憲民主党・大塚民進党・共産党・社民党)が自公政権に対決―選挙協力・統一候補擁立(候補者一本化)、国会協力へ。
希望の党、維新の会(自公政権に対して「是々非々」と称して時と場合によって批判したり、すり寄ったりする補完政党などとは一線画す。
保守二大政党は不合理―保守票は結局自民党(保守で同じような党だったら確実性のある方)に集中することになるし、(仮にもし「自民党と希望の党」など)改憲推進政党が二大政党になったら、一気に改憲合意して発議されてしまうことになる。
「市民連合に支えられたリベラル野党」が、政権に対する不満票・与党批判票の受け皿とならなければならないのだ。それにつけても、気になるのは若年層。
投票率は、有権者全体では53.68%なのに対して、18歳50.74%、19歳32.34%とさらに低い(両年代平均41.51%で全体より12.1ポイント低い。昨年の参院選でも46.78%と全体より7.92ポイント低くかった)。それだけ若年層全体として政治に対する関心は低いということだが、少ないながらも投票した人たちに限っていえば、30代以下の若い層は、総じて安倍政権への評価が高い。
朝日新聞の出口調査では次の通り。
比例区で自民党に投票した者、10代46%、20代47%、30代39%。
選挙区で自民党に投票した者、10代52%、20代55%、30代51%。
「安倍政権が続くのがよい」が、10代58%、20代61%、30代54%。
「アベノミクスを評価する」が、10代60%、20代62%、30代56%。
「9条に自衛隊する憲法改正」に賛成が10代52%、20代56%、30代52%で、反対を上回っている。
どうしてこうなのかだ。おそらくは、次のようなことか?
若者層―知識・経験が浅い?(「戦争を知らない、朝鮮戦争も知らない」「民主党政権の失敗しか知らず、それに比べれば自民党の方がましだ」「北朝鮮のようなとんでもない国や中国のような傲慢で嫌な国から見ればこの国は真ともであり、ジャイアンのような荒っぽいアメリカの大統領に比べれば、この国の首相は(スネオみたいなものなのに)まだましだ」と)。現状にはそこそこに満足、高望みはしない?視野狭く、目先の利益に留まりがち?(就活最優先、求人倍率好調など)―現実主義
ニュース情報は専らネットやテレビからで浅薄・表層的?
少数の「意識高い系」と大多数の無関心系(ノンポリ)
野党に対して誤解?―行政府をチェックし、矛盾や疑惑を正す政権批判こそが野党の役割りなのに「政権・与党の批判、足引っ張りばかりしてる」「対案がない」、データ情報の多くは政権の独占されていて、政権担当の機会が与えられて来ない野党に実績が乏しいのは当たり前なのに「政権担当能力も実績もない」と。これらの問題点もありなのでは。