米沢 長南の声なき声


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核兵器禁止条約への核保有国と我が国の反対・不参加
2017年07月25日

 核兵器禁止条約に核保有国とその同盟国(NATO諸国や韓国などとともに)我が国が反対・不参加。その理由はNPT核拡散防止条約に基づく核保有国と非保有国の合意・協力体制に支障をきたすことになるからだというものだろう。NPTとは、米ロ中英仏の5大国にだけ核保有を認めつつ核軍縮への努力義務を課し、それ以外の国には一切核保有を認めないことにした条約で、そのNPT体制の下で、我が国は「最終的に核兵器廃絶」を目指すとは言ってきたが、又オバマ前大統領も「核なき世界」を提唱したものの、核軍縮はあまり進展をみていない。

 核保有国と我が国を含めたその同盟国(「核の傘」に入っている国)は要するに、自分たちだけが核兵器を独占して核抑止力を維持し、その他の国々には、それを持たせないように拡散・保有を禁ずることによって、核保有国は自らの安全保障を得るとともに、それぞれの同盟国には「核の傘」となって、それらの国々の安全をも保障するというわけである。
 NPTが1968年成立以来、西欧のNATO諸国と日韓はアメリカの「核の傘」に。(日本は1976年NPTに加盟。)東欧のWATO(ワルシャワ条約機構)加盟諸国はソ連の「核の傘」に。北朝鮮もソ連の「核の傘」に入って、1985年にはNPTに加盟。ところが1990年、ソ連が韓国と国交、1991年WATO解体、ソ連も解体。1992年には中国が韓国と国交正常化。北朝鮮はロシア・中国を後ろ盾として当てにできなくなり、1993年NPT脱退、核・ミサイルを自力で開発する意図を持つようになった(北朝鮮は敵対関係にある米韓に対抗して国家を存立・維持するには核兵器にすがるしかないとの考えになった)と思われる。
 イスラエル、インド、パキスタンは、初めからNPTには参加せず、独自に核兵器を開発・実験・保有。(インド・パキスタンは、NPTが5大国だけを核兵器国として認め、それ以外には認めない不平等条約であることを理由に。イスラエルは周辺のアラブ諸国とイランに敵対関係にあるその戦略上、不参加。)イスラエルに対抗するイランも核開発の可能性があるも、米欧側から阻止されている。
 いずれにしても、NPTは核軍縮・「核なき世界」の方向には働いておらず、それに業を煮やした非核保有国が核兵器禁止条約に乗り出したわけである。そして、この7月に122ヵ国(国連加盟国の3分の2)の賛成で条約が成立。批准を待つばかりとなったわけである。

 問題は、核保有国とその同盟国がそれに背を向けて反対、とりわけ唯一の被爆国であるにもかかわらず我が国が交渉にも不参加、反対していることである。
 そこには、核抑止論と「5大国の核独占は正当化、それ以外の国の核保有は違法化」論がある。それらは自国本位の「軍事の論理」に基づいて合理化しているように思われる。「軍事の論理」は軍事的に勝つこと、負けないことが至上目的で最優先され、人道とか平和的生存権などは二の次か、度外視される。兵器というものは、そもそも軍事目的(敵軍を撃破するため)に作られており、平和目的ではあり得ず、武力攻撃や戦争を抑止(威嚇)することだけが目的で、使うことが目的ではないなどということもあり得まい。なぜなら、威嚇は「もし攻撃を仕掛けて来たら、それを使って反撃するぞ」といった前提があるからこそ効果をもつのだから、である。核兵器も然りであり、けっして「張子の虎」ではあり得まい。
 アメリカを同盟国「核の傘」として軍事的に依存している日本政府にとっては、あくまでアメリカの核軍事力にすがり、それによって、とりあえずは北朝鮮からの攻撃、それに中国・ロシアなどからの攻撃も抑止して守ってもらえるようにしておかなければならないとの思惑があるのだ。唯一の被爆国であり、又大戦の最大の責任を負う国でありながら世界平和への責任などは二の次。
 しかし、北朝鮮・中ロも、米韓・日本に対して負けてはならないと、同じ論理で「核抑止力」の開発にやっきとなるか、維持・強化こだわり続けているわけだ。
 これでは、世界に、又アジアに「核なき世界」は訪れず、朝鮮半島非核化、北東アジア非核地帯も訪れはしないどころか、米朝間の核戦争さえも訪れかねないだろう。

 核保有国側は(日本政府も)核兵器禁止条約に対して、核抑止力の必要性(「世界の平和と秩序は核保有国間の相互抑止を基本に維持されてきた」、「核の傘に頼る国も多い」、「条約は核抑止政策と相容れない」などのこと)と北朝鮮の脅威(「(ヘイリー米国連大使)われわれ良いアクター(当事者)に核兵器を持たせないで、悪いアクター(北朝鮮)に持たせてよいのか」「条約は北朝鮮の脅威への解決策を何も生まない」「北朝鮮の核武装への対処に迫られている日本は受け入れられない」などのこと)を反対の理由にしている。

 核保有国側は核兵器禁止条約に反対し、自分たちの核兵器独占・維持には固執し、北朝鮮には一方的なその放棄を強要するとなれば、北朝鮮はそれを理不尽と考え、その制裁圧力に屈して核・ミサイルを放棄するよりも、むしろ、それを(自暴自棄になって「軍事の論理」・合理的計算などそっちのけにして)「自爆攻撃」のように使って核戦争に突入して果てる可能性の方が高いだろう。
 こちら側では、北朝鮮が脅威で、アメリカの抑止力「核の傘」が必要不可欠だと思っているが、向こうにとっては、アメリカこそがこの上もない脅威であり、それに対して唯一の対抗抑止力としてすがりついている核・ミサイルは、アメリカ・日本はもとより国連安保理などが、いくら圧力を加えて放棄させようとしても、それに応じさせることは難しい(リビアやイラクの「二の舞」は御免だと思っているのだろうから)。
 このような北朝鮮に対しては圧力も軍事的抑止力も効かない。ならば、いっそのこと、極限まで圧力をかけまくって追い詰め、自暴自棄にさせて戦争に誘い込み、一気に無条件降伏に追い込む、という手もあることはあるのだろうが、それには計り知れないリスク(北朝鮮側だけでなく韓国側も戦災に見舞われ、幾万幾十万の犠牲を被り、日本にまでミサイル攻撃の被害が及ぶ可能性)がともなう。
 これらのことを考えれば、北朝鮮に対しては核抑止力の効果は薄く、核軍事力は問題解決の手段にはなり得まい。
 尚、北朝鮮もそうだが、そのような弱小国家以下の存在ともいうべきテロリストは命も何も失うことを厭わない、そのような非対称な相手には核抑止など通用しない。

 北朝鮮もそうだが、核保有国には核抑止力の効果・有用性に思い込みがあるが、「軍事的抑止力」というものにそもそも実効性はあるのか、だ。
 キッシンジャー(元国務長官)いわく、「抑止の効果は、実際には(攻撃・戦争が)“起こらない”ことによって、消極的な方法で試される。しかし、それが、なぜ起こらないかを立証することは絶対不可能である」(戦争が起きた原因は立証できるが、起きない原因は立証できないのだから)と。
 軍事力の「抑止効果」なるものは、実際、はたして効いているのかどうか、それは撤廃してみないと分からない(撤廃してみたら、そのとたんに敵が攻め込んできたという事実を見なければ)。しかし、それを実験としてやるわけにはいかない(撤廃して攻め込まれたらお終いだから)。
 核抑止は、実際、はたして効いているのか、それは撤廃してみないと分からない。しかし、撤廃したとたんに、相手から核攻撃されてはお終いだとなれば、それを試すわけにはいいくまい、というわけだ。
 北朝鮮は、自らの核武装をアメリカからの攻撃を抑止するためだという。アメリカも自らの核戦力を相手からの攻撃を抑止するためだと、お互いに自らの核開発・保有を正当化。しかし、いずれも、その抑止効果は立証できないわけである。互いに主観的に「抑止力」だと思い込んでいるだけにすぎない。その効果は心理的効果にほかなるまい。
 中国も北朝鮮も日本を攻撃・侵略しないのは日米同盟の抑止力が効いているからだといっても、それは立証のできない、都合のいい結果論にすぎないのだ
 
 ところで、軍事力が抑止力として実効性を持つのは、その兵力と兵器を「いざという時には(もし、攻撃をしかけられたら)必ず使う」という確信的な意思が前提としてある場合に限られ、それなくして、その兵力・兵器を単に保有しているだけで「張子の虎」の如きものだと相手側から見なされるならば、抑止力は実効性を持たないわけである。
 それでは(通常兵器ならともかく)核兵器に抑止力として実効性はあるのかといえば、あるとはいえないだろう。なぜなら、それは大量破壊兵器といわれるが、その極みともいうべきものであり、無差別「皆殺し」兵器で、実際にそれを使ったら、数多の人命の犠牲とインフラの破壊をもたらし、被害が環境汚染を含めて(国境を超えた)広範な地域に及び、復旧には莫大な費用と年数を要し、計り知れない破滅的事態とダメージをもたらすことが明らかだからである。アメリカの元陸軍大将で国務長官であったパウエル氏は(2013年7月朝日のインタビュー記事で)いわく「(核兵器は)極めてむごい兵器」で「まともなリーダーならば」使えない「軍事的に無用な存在」だと。彼はかつて(国務長官在任中)インドとパキスタン両国が核武装をして緊張が高まった際、パキスタン首脳と話し、広島・長崎の惨害を引き合いに出して「あなたも私も核など使えないことはわかっているはずだ」と述べて自重を促したことがあった。
 尚、日本には自衛隊があり、日米同盟を結んでいて米軍基地も置いているが、日本国民には「いざという時には必ず、それを使う」という確信的な意思があるとは思えない。大戦の悲惨と自責の念が骨身に沁みた日本人であり、憲法に不戦を誓った、その民族的良心がそれを許さないだろうからである。したがって、それら(自衛隊と日米同盟)はあっても、抑止力として実効性は乏しいと考えられ、ましてやアメリカの核兵器を北朝鮮に対しても中国に対しても「いざという時には使ってもよい」などと思っている者は日本人ならあり得ないだろう。
 
 「相互確証破壊」論に基づく核均衡抑止政策というものがあるが、それは要するに、対立する両国が双方とも核兵器を保有し、一方から核による先制第一撃があっても、他方には報復第二撃能力(確証破壊能力)が温存されていて反撃、互いに相手の国民や経済に耐えがたい損害を与えることのできる核戦力を持ち合っているという場合は、その核兵器を有るだけ使えば相互にとって共倒れか、同様の惨害を被る結果となるから、互いに攻撃は控えるしかない、ということで戦争を抑止し合うというもの。
 今、米ロなどが持っている核兵器(米ソ冷戦時代来、「相互確証破壊」論による核均衡抑止政策の下に、シーソーゲームのようにして互いに持ち合ってきて、ロシア7,000発、アメリカ 6,800発、フランス 300発、中国 270発、イギリス 215発、イスラエル 80発、パキスタン 120~ 130発、インド 110~ 120発、北朝鮮 ? に達している)は「威嚇用に、ただ持っているだけ」でなく実際「使う時は使う」のだとしたら、地球的規模の自殺行為。それは狂気の沙汰だろうし、使えもしないものを唯持っているだけだとしたら究極のバカ(やはり狂気の沙汰)という以外にないわけである。
 「核保有国間の相互抑止による平和維持」などと綺麗ごとを言っても、要するに核兵器は「使えない、使わない無用の長物」を唯持ち合っているというだけの無意味かつ危険極まりない核爆発物の貯蔵にしかならない愚策の極み、それが核抑止政策というものだろう。
 いずれにしても核抑止力は実効性を持たないということだ。
 
 こうしてみると、核兵器禁止条約に対する核保有国側の反対理由には正当性もなければ、現実性もない、といえるだろう。
 反対派は「核保有国と非保有国の対立を深める」とか「禁止条約は実効性がない」というが、それは保有国側の責任であり、正当性は条約賛成国側にあり反対国側にはなく、条約に反する核兵器保有・開発・核抑止政策(核兵器による威嚇)を続けることが違法と見なされることになり、それに無視を決め込むことは許されなくなるわけである。
 唯一の被爆国でありながら反対に回った日本政府は、世界の諸国民から不信を買うことになる。日本政府は、これまで唯一の被爆国として「核保有国と非核保有国の橋渡し」役を自任していながら、この禁止条約には「核保有国が参加せず、実効性は乏しいうえに、両者の対立を深める結果となり、核廃絶にはかえって逆効果だ」との理由で反対
 しかし、禁止条約に反対して、アメリカの「核の傘」に入ったままで、「橋渡し」といっても、何ができるだろう。
 本当に核廃絶をめざして「橋渡し」役を務めようとするのであれば、少なくとも(出来ることならアメリカとの同盟から離脱して、フリーで中立な立場で物が言えるのが一番なのだが、そこまでいかずに同盟関係は維持したままでも)米軍による日本防衛には核兵器だけは使用を控えてもらう(「核の傘」をはずしてもらう)ようにアメリカと合意のうえ国際公約し、非保有国と同じ非核の立場に立って、核保有国に対して核軍縮を加速するように働きかけるようにする。それは禁止条約に参加しても矛盾なく両立できるはず。
 そもそも、自国が憲法(前文)に「国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う」とか「自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる」などと定めておきながら、それと裏腹な態度をとって、自らは被爆を受けた当の原爆投下国アメリカの「核の傘」「核抑止力」に頼り続けている、そんな虫のいい卑屈な国の「橋渡し」に応じる非保有国などありえないだろう。
 北朝鮮に関してこの条約に対する日本政府の対応をいうならば、「『北朝鮮が核開発をしている時に禁止条約に賛成できない』ではなくて、『北朝鮮が核開発をしている時だからこそ禁止条約に参加する』ことが、いよいよ大切」、「日本政府が、この条約に参加して『日本は「核による安全保障」はもう放棄した、だからあなたも核を捨てなさい』―こう北朝鮮に迫ってこそ、最も強い立場に立てるのではないでしょうか」と安保理事会(核禁止条約採択の国連会議が開かれていた間、北朝鮮問題を議題として開かれていた)でウルグアイ代表が述べたというが、このほうが当を得ていると思われる。

 こういうふうに見てくると、核兵器禁止条約に反対する核保有国とその同盟国とりわけ日本政府の言い分に正当性があるとは、到底思えまい。


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