自民党改憲草案
前文「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。」
第1条、天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴・・・
3条2項、日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
9条2項、・・・・・国防軍を保持する。
12条、・・・・自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
24条1、家族は、社会の自然かつ基礎的な単位・・・・。家族は、互いに助け合わなければならない。
etcこれらを、次のような現行憲法と対比して読むと、それに込められているイデオロギーの違いが歴然とするのでは。
(前文 「日本国民は・・・・・政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることにないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。・・・・・。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した。我らは、・・・・専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。我らは全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
我らは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、・・・・全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。」
第1条、天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴・・・
9条2項、・・・・陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
12条、・・・・自由及び権利は・・・国民は、・・・常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。
24条1項、婚姻は両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
etc )イデオロギーというと、それには広義・狭義といろいろな意味づけがなされ、左翼か右翼か、共産主義か反共か、保守か革新か中道かなどと分類されたりするが、ここでは価値観・倫理観・歴史観など、どんな物の見方・考え方をするかで次のような実利・情動派イデオロギーと良識派イデオロギーという二通りの傾向・タイプとして考えてみた。
実利・情動派イデオロギーとは、実利主義(目先の利益・快楽・安心を優先)・情動主義(理性や知性よりも感情や情緒・情念で動く―非合理主義・反知性主義)・自由競争(優勝劣敗)主義・学校序列主義・愛国主義・権威主義(権威や伝統を優先)・歴史修正主義(定説を否定して、自国の非や誤りを正当化・修正)・自国第一主義・軍事主義(力による平和、軍事的安全保障の考え方)などのイデオロギー傾向―これらは国民階層では上層(高所得層・経営管理職層)・中間層(正社員・中所得層、格差拡大によって下層に転落しかかっていながらも、中流意識を持ち続け、下層と一緒にされることを嫌う)の意識に即したイデオロギー傾向だろう―自民党改憲草案はこの立場
これに対して良識派イデオロギーとは、理性主義(合理主義・理想主義)・ヒューマニズム・権利平等主義・博愛主義・共同主義・協和主義・非軍事による平和安全保障の考え方などのイデオロギー傾向―中間層の良識派と下層(非正規労働者層・低所得層・米欧ではマイノリティーや移民)の意識に即したイデオロギー傾向―現行憲法はこの立場.前者(実利派)を代表するのが政権党である自民党、その他(維新の党・日本のこころを大切にする党)などである。
政権与党でも公明党、その支持母体(創価学会)は理念などイデオロギー的には必ずしも「実利派」とは言えないところがあるのだが、なのに自民党と政策・政権を共にしている、という分かりにくさがある。
又、前者を代表する最大組織で「草の根組織」とも言われるのが日本会議で、神道政治連盟とともにあり、改憲の急先鋒であり、自民党政権の最大の支持組織となっている。
マスメディアではNHK・読売・産経・日経は実利派メディアだが、情動主義とは言えない。
アメリカでは、トランプ次期大統領は前者―“アメリカン・ファスト”とか“Post Truth”―言ってることが真実かどうかやポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)などお構いなしで、ぬけぬけと嘘・ごまかしを語ってはばからない。日本でも総理大臣以下政治家に(首相答弁に「そもそも我が党において、結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」などと)嘘・ごまかしが多々みられるようになり、その風潮が心配される。
反知性主義は、アメリカでは反エリート・反エスタブリッシュメントと結びついて、その風潮がトランプ支持を促した。後者(良識派)を代表するのが共産党や社民党。
民進党は理念がはっきりせず、党内に色々なイデオロギー(考え)のメンバーを抱え、後者に近いメンバーもいるのだが、「一強」自民党に対抗するためには、「野党共闘」しかないと見られる。自由党(生活の党)も含めたこれら4野党共闘は、単なる野合ではなく、「良識派」としてイデオロギー的に共有するものがあるかぎり、選挙協力はもとより、政策的にも協力可能であり、政権を共有することも不可能ではあるまい。
マスメディアでは朝日・毎日は、どちらかといえばこの方(良識派)。闘い(政治闘争)はこの2大イデオロギー間の闘いにほかならないのでは。
尚、この間に非イデオロギーのノンポリと呼ばれる人たちもおり、かれらは政治など「どうでもよい」という口だろうが、「民主主義とはいっても、参政権はあっても行使せず、他の然るべき人たちに任せる「お任せ民主主義」でもいいのだとか、「政治のことなど、綺麗ごとを幾ら生真面目に考えても、どうせ無意味だ」といった考え方(ニヒリズム)も、それ自体が一つのイデオロギーだろう。現在、我が国では前者(実利派)が優勢で多数派。
アメリカでも前者が優勢ということだろう。
ヨーロッパでも前者が勢いを増している。個々の政治問題・課題(シングル・イシュー)については
原発問題―再稼働には、後者(良識派)は反対、前者(実利派)は「何が何でも電気の確保が必要だ」とか、立地自治体の地元における雇用・税収の確保などの実利優先の考えから賛成。
但し、これらどちらかのイデオロギイーや党派に関わらず、フクシマ原発事故で避難・移住を余儀なくされるなど、深刻な被害とダメージを被った人々は、その実体験から原発に拒否感をもち、その人たちの数の多さからも、原発の存続・再稼働には反対する人たちの方が、賛成派よりも多い。
改憲も9条に限っていえば、前者(実利派)でも安全保障を軍事力に頼ろうとする向きは9条改定賛成であり、沖縄基地も容認だが、後者(良識派)はもとより、戦争の惨禍を目の当りにした父祖たち以来日本人の心に焼き付いたトラウマから、戦争に対する拒否感が根強く、自衛隊は容認しても9条改定には反対だという人の方が多く、集団的自衛権行使容やPKO駆付け警護の容認など新安保法制にも反対の人が多い。
TPP問題―前者(実利派)は自由貿易から得られる利益の方を優先して賛成、後者(良識派)は経済主権・食糧主権が犠牲になることに反対。
カジノ解禁問題―後者(良識派)は反対、前者(実利派)は賛成。イデオロギーや党派に関わらず、パチンコ・競馬などのギャンブル依存症に苦しむ人その家族はカジノにも拒否感をもち、全体としてカジノ解禁には反対の人の方が多い。マスメディアは、読売・産経などまでも、ほとんどが反対論調。
社会保障費・教育予算は節減、防衛予算(軍事費)・国土強靭化予算(土木建設費)等は確保―そのような政策には前者(実利派)は賛成、後者(良識派)は反対。しかし、全体としては前者(実利派)の考え方をするイデオロギー傾向が優勢(多数派)で、その党派の政権とそのポリシーによって国政は運営される。後者(良識派)はそれに対決して闘わなばならないわけである。
「闘う」とは―論戦・運動(集会・デモ・署名・発信・アピールなど)・メディア(マスメディアとSNS)での論争。
それらはアメリカの大統領選や韓国における大統領糾弾の大規模集会などに見られ、日本でも、かつて60年安保闘争では韓国のあの程度の大デモは連日あったし、最近では昨年8月30日に国会周辺10万人、全国100万人規模の大デモがあった。その闘いの勝負―それは論理的正当性(説得力)と心情的正当性(共感)で勝り、より多く納得が得られ、共感が得られた方が勝ちとなるわけだ。