米沢 長南の声なき声


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人工知能による政治・投票と民主主義
2016年11月23日

 米大統領選挙にトランプが当選、「AI(人工知能)で投票すれば、こうはならなかったろうな」と「つぶやき」に書いたが、人工知能ならぬ人間たちのその頭脳によって判断・投票が行われたが故にそんな結果になったというわけだ。
 人工知能ならば、トランプとヒラリー両候補者の政策・信条・能力・資質・言動その他の大統領たるに相応しい要素に関わるありとあらゆるデータを把握し、計数化して総合評価し、どちらが適任かをより的確に判定するが、有権者である人間(米国の有権者約2億4千万人)の頭脳は、それぞれが把握しているデータには各人のキャパシティ(受容能力)と知識・情報に接することができる生活環境的条件(時間と場所)に限りがあって、それら(キャパシティと生活環境的条件)が充分な人と不十分な人との大きな差があり、大多数の人は人工知能にはとても及ばない。
 それに人工知能なら、有権者各人の利害損得にとってはどちらの候補者の政策が有利か不利かの判定も、候補者の公約や言動に対する真偽の識別も、候補者の性向(品性、「善人」か「悪人」かなど)や物の考え方・思想傾向の識別も、一定の基準に基づいた判定や識別は人間よりも的確にできるのだろうが、人間の場合には、理性的判断以外に、好き嫌い、痛快、不満・反感・鬱憤・怒りなど感情が働き、「一か八かの賭け」とか理屈抜きの直観的判断が加わる。
 このようなことから、理性的に考えればトランプが当選するはずがないと思われたのに、(主要なマスメディアの予想に反して)、それとは逆の結果になってしまっているわけである。
 民主主義―人民の人民による人民のための政治―とは「人民による」政治で「人間たちによる」投票であるかぎり、このような結果にならざるを得ないわけである。
 「お任せ民主主義」というなら、一層のこと人工知能にお任せしたら、より適切にやってくれるのでは、とも思えるのだが。
 木村草太教授の著書(『の創造力』NHK出版新書)に、次のようなことが書いてあった。それは“I, robot(われはロボット)”というSF小説(原作アイザック・アシモフ)で、高度のロボット技術によって繁栄するアメリカの話。そのロボットの人工知能には「人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」というロボット工学の第一原則が埋め込まれている。そのロボットを統括する「中枢人工知能」が、「人間に政治を任せておくとロクなことにならない(人間を危うくしてしまう結果になる)。」だから「政治を人間に委ねるのは、ロボット工学第一原則に反する」と考え、人間を支配しようとする話。その映画では、人間をロボットが暴力的に支配するようになって、それに対して人間が暴動を起こして「中枢人工知能」を破壊するという挙に及ぶという展開だが、原作では、それとは違って、「ロボットが人々の感情をコントロールする技術を身に付け、自ら計算した最適な政治の内容を、彼ら(人間)の感情をコントロールして人間自身の政治決定を通じて実現させる。人類は、自分たちで決めている、という感覚を維持しながら、優秀な人工知能の決定のもたらす利益を享受できるようにし、そうして人類は史上空前の繁栄を実現」するに至る、という展開。人間にはプライドがあり、(たとえ人工知能、或は外国軍による)どんなに素晴らしく客観的に正しい決定であっても、自らが十分に尊重される手続きを経ないかぎり、人間は従うことができない。国民一人一人が、かけがいのない存在として尊重され、平等に決定に関わることが認められれば、多くの国民は、決定結果に不満であっても、それを正統なものと感じることができるだろう、というわけである。
 いずれにしても、政治を、たとえ「賢明なる」有権者のはずだからといって他人任せにして(棄権しておいて、自分の意に反した投票結果や政治決定には「愚かなこと」と嘆き、後悔したりして)はなるまいし、また如何に人間以上に優秀だからといって人工知能任せにしてはなるまい。あくまで、各人とも自らの知性と感性を、よく磨き最大限発揮して主権を行使するようにし、投票はもとより、請願・署名・集会・デモなどにも極力参加して然るべきなのでは、と思うのである。

 尚、今回の米国大統領選の結果に対しては、米国民・有権者の愚かな投票行動だとは一概に言えまい。何故なら、(メディアの指摘にもあるように)そこには経済のグローバル化が進行する中で格差が拡大し、没落した白人中間層が、民主・共和2大政党の下で、長期にわたるエスタブリッシメント(既得権者)やエリート層が、それを食い止めようとせずに現状に安住し続けることに、我慢ならず、「反乱を起こした」とみられる、という指摘が妥当だとするならば、ある意味では、その投票行動(トランプを勝たせたいが故というよりも、クリントンを勝たせたくないが故の投票行動)には、米国民の意思表示としてそれなりに合理性のある判断だったとも言えるのだろう。

 因みに、仮に今、上記の"I, robot"のような優秀な人工知能が、この日本で完成しているとして、(選挙に際しては有権者が政党を選んで投票するのだとしても)ありとあらゆるデータ(日本の政党に関しては各党の綱領・理念・政策・組織・活動実態・党史など)をインプット・把握していて熟知している、そのロボットが計算して最適と評価する政党は、どの政党なのだろうか?大方の人間の頭に入っている各政党に関する知識・情報は非常に限られており、誤解・偏見に囚われてもいるだろう、そういう人々が最適と評価し支持率・得票率とも最も高いのは自民党なのだが。


 


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