参院選、結果は自公が大勝(過半数を大きく上回り)、改憲勢力が3分の2に達した。但し、投票率は54.7%(戦後4番目の低さ)で有権者の半数近くは棄権。(18歳は51.17%、19歳は39.66%しか投票していない。)棄権が多く、政権与党が楽勝できるということは、現政権の下での日本社会の動向に対して、国民の間に、さほど不安・危機感を覚えることなく安住している向きが多いということだろう。
開票後の14日朝日掲載の世論調査では、内閣支持率45%(不支持35%)で、支持と答えた人のその理由は①「他よりよさそうだから」46%、②「政策の面」25%、③「自民党中心の内閣だから」18%、④「首相が安倍さんだから」9%。
与党が大勝した理由には「安倍首相の政策が評価されたから」は15%、「野党に魅力がなかったから」が71%。
つまり、内閣支持も与党支持も、いずれも消極的理由からなのだ。
19日NHKニュースの世論調査結果では、内閣支持48、不支持36、支持の理由は①「他の内閣よりよさそうだから」43、②「実行力があるから」18、③「支持する政党だから」17。
同調査の政党支持率は、自民40.3、民進10.6、公明3.3、共産4.3、維新2.5、社民1.0、 生活0.4、こころ0.1、特になし31.0。
朝日新聞の開票当日の出口調査では「投票の際に重視した政策」を訊いているが、18才では「①景気・雇用、②社会保障、③憲法、④子育て支援、⑤消費税、⑥外交・安保」の順だが、70歳以上では「①社会保障、②景気・雇用、③憲法、④外交・安保、⑤消費税、⑥子育て支援」という順。投票前の世論調査でも(NHKなども)「投票の際に重視する政策」を同じような項目をあげて訊いていた。
同紙の開票後の調査での「首相に一番力を入れてほしい政策は」では、①景気・雇用29 ②社会保障32 ③教育13 ④外交・安保11 ⑤憲法改正6 ⑥原発・エネルギー5
19日NHKニュースの世論調査結果では、①社会保障26、②景気対策22、③財政再建・子育て支援・格差是正いずれも12、⑥外交・安保10。
NHKの開票当日の出口調査では、「アベノミクス」について、(それを「最大の争点となった」と決めつけて)その評価を訊いていて、「ある程度評価」48%、「あまり評価しない」31%、「まったく評価しない」12%、「大いに評価」8%。
19日NHKニュースの世論調査結果では、アベノミクスに「大いに期待する」9、「ある程度期待」37、「あまり期待しない」34、「まったく期待しない」14.
改憲については、NHKの開票当日の出口調査では、全体では「必要あり」33%、「必要なし」32%、「どちらとも云えない」36%。18・19歳は「必要あり」22%、「必要なし」26%、「どちらとも云えない」52%。
これらは投票所に行った人の出口調査であるが、半分近くを占める棄権者は、「どちらとも云えない」か「まるで分からない」かなのであり、いずれにしても「分からない」という人が一番多いということなのである。
19日ニュースのNHK世論調査結果では、改憲「必要あり」28%、「必要なし」32%、「どちらともいえない」30%。
同調査で、改憲勢力が3分の2議席を占めたのは「よかった」27、「よくなかった」29、「どちらともいえない」37。
14日朝日の開票後の調査では「安倍首相のもとで憲法改正を実現することに賛成か」では、賛成35、反対43
同調査の「今回の選挙で、民進党や共産党などの野党が統一候補を立てたのは、よかったと思うか」では、「よかった」39、「よくなかった」31。
19日NHKの調査結果では、4野党連携を「今後とも続けたほうがよい」26、「続けないほうがよい」24、「どちらとみえない」43。
自民党は、改憲、それにアベノミクスも必ずしも支持されてはいない。野党共闘には期待する人の方が、どちらかといえば多いものの、「受け皿」とはなり得ていない。
結果的に「一強多弱」のままになってしまっているのである。
本県の野党統一候補は善戦して当選を博し、野党共闘に好成果(野党4党の比例区合計得票の1.7倍の得票を獲得し、足し算以上の効果)たが、全国的には政権与党・改憲派が圧勝した。野党共闘派は何故勝てなかったのか。それは弱いからに決まっている。何故弱いのか。それは「(色男ならぬ)善人、カネと力はなかりけり」だからだ。この国はカネと力のある強き者の天下。カネと力なき者は、この国では勝てっこないのだ。それでもめげずに挑み闘うは天晴れ。勝ち(当選)はしなくても、少ないながらも当選者を増やし、得票を増やし、なんらかの前進があれば、それでいいのだ。
「カネと力」とは①カネ―支持する階層が大企業経営者・大株主・富裕層で、これらから献金を受けて、政治資金に恵まれ、大量宣伝・情報収集にカネをつぎ込み、大量のスタッフ・運動員をカネで雇って働かせることができる。②権力によって統轄する官公庁の人材(頭脳集団)や情報・データを握っていて、それを利活用でき、マスコミやメディアを有利に利用できる(これらは「中立公正」といっても、テレビや新聞に取り上げられる「露出」時間・スペースは決して均等ではなく、議席に比例し、政権党・大政党に有利。)
自民党は、これらの点で圧倒的に有利なのだ。
「一強多弱」―多弱が一強に太刀打ちするには力を合わせて共闘を組むしかあるまい。
有権者が選挙に際して政党や候補者を選ぶに際して、各党・各候補者はそれぞれどういう理念・憲法観・信念・歴史・経験・実績をもち、どういう人物なのか、それぞれが掲げる政策(アベノミクスとか、経済・税財政・金融政策、社会保障政策・外交・安保政策・教育政策・原発政策など)まで全てを分かった上で投票できる人などあり得まい。我が家の面々などは甚だ心もとなく、かくいう自分も分からないことの方が多い。
普通の有権者は、18歳から中高年に至るまで、日々の生活に追われ、知識・情報獲得能力・時間的余裕など非常に限られており、専門家でさえ議論が分かれるような難しい事柄を理解・判断することなどできない相談だ。したがって、どうしても党や人を選ぶ選挙となると、棄権するか、投票するにしても直感やあてずっぽうで選ぶ、といったようなことになる。
しかし、国民投票は一つのテーマ(課題)について賛否を問うものだが、選挙は代表者を選ぶもの。自分たち国民の代表者として信用して任せられる党・人物を選ぶのであり、商品のように並べられた政策やマニフェスト・公約を一々品定めして選ぶのではなく、代表者として相応しく信用して任せられる党・人物かどうかで選ぶのであって、一々(検討する時間的余裕も乏しく、予備知識・情報―それを提供する選挙報道も不十分で)分かりようのない政策や口先だけかもしれない公約や言葉よりも、そもそもその政党・人物そのものが本当に信用して任せられる党・人物なのか、それだけでもよく見定めて投票すればよいのだ。それにつけても、有権者はどうしてそんなに自民党にひかれるのか。しかも、若年層ほど。それは、有権者はその政党・候補者が自分にとって代表者として一番信用して任せられる党・人物なのかどうかをいったい何で判断するのかといえば、それは政治道徳ではなく政治力学で判断するからなのだろう。その党、その候補者は、道徳的に優れている(「弱きを助ける正義の味方」で真面目で一生懸命な)党だからとか善人だからとかではなく、政治力(力量・手腕)が一番ある(「やり手」だ)と思うからなのだ。
日本人はとかく理想主義というよりも現実主義、善悪に潔癖で原理・原則にとらわれるよりも実利(利害関係)で周りの人々に同調・迎合して動く傾向が強いといわれるが、だからなのだろうか。それでも若者は正義感が強く理想が高いものと以前は思われてきたものだが、今はどうやらそうでもなくなってきているのかもしれない。知識偏重の受験競争教育で。それにIT時代になって、ケータイやスマホで、仲間との同調性(没主体性)はさらに強まるも、交わされる話題に「政治がどうのこうのとか、憲法がどうのこうのとか」といった話は敬遠される、そのせいもあってか。
一概にそうだとは言えまいが、そういった日本人の傾向(実利主義・同調性・没主体性)が巨大与党に、人格的・道徳的には灰色かブラックなところ(問題)があっても、その勢力の強大さ故に、「勝ち馬に乗る」「寄らば大樹」「長いものに巻かれろ」(強い権力を持つ者や、強大な勢力を持つ者には、敵対せず傘下に入って従っておいたほうがよい)ということで、若年層から中高年に至るまで有権者の多くが支持を寄せる要因になっているのではあるまいか。
有権者は、以前「二大政党制」で自民党に対して政権党として取って代われることを期待して旧民主党を勝たせて一時政権交代を実現したものの、それが(東日本大震災など国難に遭遇した悲運だけでなく、普天間基地の県外移設断念、TPP交渉参加表明、消費税増税受け容れなど有権者の期待を裏切って)惨めな失敗に終わったと見なされ(それが未だに「民進党への不信感」として尾を引いて)、その後は「一強多弱」で、選挙となれば「やっぱり自民党しかない」(自民党に替わる「受け皿」がない)かのようにして自民党が毎回「圧勝」を博する結果になっている。
脳科学者の茂木健一郎氏は「『やっぱり自民党しかない』という思考停止は何ももたらさないと思う。しかし、そのような人が日本には多い。・・・・ぼくは、自民党というよりも、おそらくそんな日本に対してこそ違和感をもっている」とブログに書いている。そのような日本人のメンタリティに問題があるということであり、それが変わらないかぎり、どうにもならないということだろう。それを変えるには、そうあってはならないと思う(自覚した)人たち(市民連合と4野党)が、「やっぱり自民党しかない」とそれ以上考えられなくなってしまっている人々の心を動かすべく、闘いを、今後とも果敢に展開し成果をあげて、それを見せつける以外にあるまい。
今回、野党共闘は一定の成果(戦術的効果)をあげた。これを足掛かりに次回の衆院選でもそれができるかだ。衆院選の場合は政権選択が掛っており、単なる選挙協力だけでなく、政権を共にして推進する共通政策で合意して政策協定を結ぶことが必要だ。はたしてそれができるかだ。それができれば、それは単なる戦術的効果だけでなく、「政権交代可能な受け皿」を有権者の前に用意して見せられることになる、ということだろう。
それにつけても、4党の中には、戦前・戦後を通じて崇高な理念のもとに結党して最長の歴史を持ち、幾多の苦難に遭いながらも挫けることなく頑張り通してきた歴史を持つ党がある。
自分たち国民の代表者として本当に信用して任せられる党・人物を選ぶのが選挙だというからには、望むらくは、その崇高な理念・信念とともに、苦難の歴史と不屈の精神それに道徳的優位性①を、他党には無い貴重なブランドとして、最大限アピール(「売り」に)することを心掛けてはいかがなものか。(悪し様な逆宣伝―植え付けられた悪いイメージ宣伝―に抗して。)
(注釈①ネットで調べると、近年亡くなった哲学者の鶴見俊輔氏は、共産党の揺るがない社会的信頼と道徳的権威について、自らの立ち位置を測る「北斗七星」にたとえている。また、自民党の党内研修用の冊子『日本の政党』に「社会党を含めてほかの政党が何らかの形で戦争に協力したのにたいして、ひとり共産党は終始一貫して戦争に反対してきた。したがって共産党は他党にはない道徳的権威をもっていた」と書かれているという。)以上、参院選の結果を見て、こんな感想をもった次第。