「民共共闘」批判―それは、民進党と共産党とは理念も基本政策も違うのに、安倍政権に反対なだけで手を組むのは、無原則・無責任な「野合」にすぎない、というものだが、その場合の論法は「共産党は日米安保条約の廃止と、自衛隊を憲法違反と見なしてその解散を主張している党なんですよ」といって共産党をやり玉にあげて批判するやり方だ。
それに対する共産党側の弁明は、日米安保条約(廃棄)と自衛隊については、そういう考え(日米安保は日米友好条約に切り替え、自衛隊は将来的に全ての国と平和的な関係をつくったうえで国民の合意のもとに段階的に解消するという考え)を持ってはいるが、今はそれは横に置いて、目下直面している焦眉の課題は安保法制の廃止と立憲主義回復の問題であり、そのために憲法をないがしろにし安保法制を強行成立させた安倍政権を打倒しなければならないという大義で一致する野党同士が共闘・協力すると言うのは「野合」なんかではない、というものだ。しかし、自公側は、今、北朝鮮の核・ミサイルや中国の脅威に晒されているこの時に日米同盟の強化は不可欠であり、又相次ぐ自然災害に出動して大いに役立っている自衛隊は必要不可欠なのに、それを解消・「解散」すべきだと考えているのが共産党だ、と言い立てる。
このような安倍政権与党側の野党共闘批判に影響される有権者は少なくないだろう。どっちの言い分が納得し易いかといえば、それは一見して安倍政権与党側の言い分の方が尤もで、共産党の言い分はどうも解りにくく苦しい弁明のように思う向きも少なくあるまい。(違憲だというなら、熊本への自衛隊出動に反対しないのはおかしいのでは?などと安倍首相をはじめ「矛盾」を指摘する向きも。)
共産党側の言い分は、憲法(9条)解釈としてはハッキリしていて正論だと思える。憲法学者も自衛隊を違憲と考える学者が大勢を占めている。(15年7月11日朝日新聞社による憲法学者へのアンケートでも、それは明らか―209名中122名が回答―「現在の自衛隊の存在は違憲と考えるか否か」の問いに対して「違反にあたる」は41%、「違反にあたる可能性がある」は22%、「違反にあたらない」は23%、「違反にはあたらない可能性がある」は11%。尚、「9条の改正についてどう考えるか」の問いには、「改正する必要ない」は83%、「改正する必要ある」は5%)
しかし、自衛隊は今では国民の大方から災害出動或いは領海・領空侵犯に(海上保安庁と共に)対応する警備活動などではなくてはならない存在と見なされている。それならそれと初めから「災害救援隊」とか「国土警備隊」として設置すればよかったものを、日米安保条約と結びついた(米軍を補完する)軍事組織として設けられて、その方が本務(「主たる任務」は「国の防衛」)とされ、災害派遣などはあくまで副務(「従たる任務」)として運用されてきたにすぎない。そうして自衛隊は軍事を禁じている憲法9条と矛盾する存在となってきた。その矛盾を完全に解消するには9条(2項)を変えるか軍事組織としての自衛隊を解消(改編)するか、どちらかしかないわけである。
さて、そのどちらにするか。自民党の考えは9条のほうを変えて自衛隊を名実ともに軍隊として認められるようにするという考えであり、共産党は自衛隊の方を解消しても9条を守り通すという考え。自民党の方は9条を変える、共産党は変えない、という違いはあるものの、9条と現在の自衛隊の在り方には矛盾があるとの思いは憲法学者はもとより自民党も共産党も民主党その他どの党も大なり小なり矛盾を感じており、自民党も自ら創設して運用してきた自衛隊の在り方が現行憲法9条との間に全く矛盾がなく完全に合憲だとは言い切れず、自衛隊をそのままにしておくのには無理があるとの思いがあることは確かで、だからこそ憲法(9条)を変えなければとやっきになっているわけである。そう考えると自衛隊を憲法違反だと思っているのは共産党だけで、同党だけが自民党その他とは異なる特異な考え方をしているとはいえず、民進党が同党と組むのはおかしいとはいえまい。
ただ、共産党に求められるのは、自衛隊解消と言う場合、災害出動なども含めて丸ごと廃止するのか、それとも軍事機能以外は残して災害救助隊・国土警備隊などに再編するのか、「段階的に」というからには後者の方を考えているのかもしれないが、それならそれと、そのことを明らかにしてはっきり言明すべきなのである。さもないと、憲法解釈としては(現在のような)自衛隊は違憲だというのは正論ではあっても、現実に災害出動や領海・領空警備活動になどに役立っている自衛隊の存在を全否定していると受け取られ、自衛隊はまるっきり要らないということでは、多くの国民は納得し難く、支持を得られないだろう。
尚、自衛隊の存在を憲法違反だ、廃止すべきだと言っていながら、災害派遣には反対せず、万一武力攻撃や侵犯があったら利用・活用するというのでは、おかしい(むしがよすぎる)のでは、といった指摘に対しては、
自衛隊は、1954年に、自民党の前身であった党派によって多数決で成立して以来、既にそこにづうっと存在しており、それに対して自衛隊は憲法違反だと主張してその軍事には反対していても、それ(自衛隊)に要する税金(防衛費部分)は(その支払いを拒否することもできずに―かつて小国町にある基督教独立学園の鈴木すけよし校長がその訴訟を起こしたものの受け付けられなかった、その裁判を傍聴したことがある)等しく納税している、その人たちが、災害や急迫不正の侵害に遭遇した時には、同等に自衛隊を利活用する恩恵にあずかれる(その権利がある)と思って当然なのに、「違憲だと言って反対していながら都合のいい時だけ利用しようとするのはおかしい」かのように言い立てる、そのほうがおかしいだろう。いずれにしても矛盾が感じられるとしたら、その矛盾は自衛隊を自らの主導で創設・拡充してきた自民党が作り出したものなのであって、創設・拡充に異をとなえてきた人たちのせいではあるまい。彼らが異をとなえてきたのは、憲法の規定に反する自衛隊の軍事的な側面であり、災害出動や国土警備活動など非軍事的役割に対してではあるまい。
安倍自民党や改憲派は、自衛隊を憲法違反だという者は隊員の人たちのプライドを傷つけるもので、怪しからんではないか、と反感を煽っているのだろうが、自衛隊の諸君には「戦場に行って花と散る」だとかキレイごとよりも、命が大事なんだ、“Let's live in peace not to kill or die for , nothing is more important than life”といって何が悪いということだろう。いずれにしても、自民党は、9条は現行の2項を削除し、自衛隊を「国防軍」として正式に交戦権を持つ軍隊として、集団的自衛権の行使も無限定に認められるように文言を変えるという考え。それに対して共産党は、9条は1・2項ともにそのまま堅持するという考えで、正反対。民進党も9条改定と安倍改憲(自民党のそのような改憲)には反対であり、集団的自衛権の限定的行使を認める新安保法制の廃止をもめざしており、その点では民・共・社民・生活の党も一致しており、そこに矛盾はない。だからこそ共闘が成立しているのである。