米沢 長南の声なき声


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北朝鮮の核・ミサイル実験で勢いづく改憲派(修正版)
2016年02月09日

 北朝鮮のロケット打ち上げ(衛星打ち上げ用であることは事実―実戦用ミサイルなら、あんな直ぐ判るようなところに発射台をくんで燃料注入に時間をかけて打ち上げたりはしないし、大気圏外に打ち上げっぱなしで、地上に達するように大気圏内に再突入させることもないことから、それは明らか。しかし、たとえ衛星打ち上げ用だとしても、北朝鮮は国連安保理決議で「いかなる核実験または弾道ミサイル技術を使用した発射も」ダメだと禁止されているので違法は違法)。それに対して安倍政権は迎撃ミサイル等を配備・展開、全国市町村に発射・通過情報を送信。(そのP3の迎撃高度は数十キロ、北朝鮮ミサイルが沖縄南方の先島諸島上空を飛ぶ高度は500キロであり、そもそも届かない。予想軌道から外れた破片など軌道計算ができないものに当てようとしてもどうにもならない。市ヶ谷や習志野など方向違いの首都圏に配備したところで何の役にも立たない。しかし、全国どこの住民にも臨戦態勢に慣れさせるための「地ならし」になると思えば、それも有用といえば有用なのかも。)
 日朝双方ともそれぞれに、国内外に対してデモンストレーション。北朝鮮はアメリカであれ日韓であれどの国にも「負けないぞ!」という「抑止力」を見せつけ、日本は日本で、北朝鮮であれ中国であれどの国にも「負けないぞ!」(「やるならやってみろ、受けて立つぞ!」)とばかり「抑止力」を見せつけようとするデモンストレーション。
 中東などでの殺し合いもさることながら、神様から見れば、どいつもこいつも一体何やってんだ、というものだろう。
 安倍政権の場合は、今回の北朝鮮ミサイル打ち上げに対する「万全の対応をアピール」しつつ、さらに、これを奇貨として安保法制も改憲も合理化・正当化(「だからそれが必要なんだ」とアピール)でき、国民にそれらを容認しむけるチャンスととらえ、国民をその気にさせるデモンストレーションとなったわけだ。しかし、拉致被害者はますます取り残されるばかりだろう。こんなデモンストレーションの応酬(軍事的「抑止力」の見せつけ合い)をやっている限りラチ(埒)はあくまい。

 朝日新聞2月8日付に「北朝鮮といかに向き合う」と題して3人の識者の見解を載せていた。
①元日朝国交正常化交渉政府代表の美根慶樹氏
  北朝鮮にとって最大の問題は国(体制)の存続(指導層は寝ても覚めても自国の存続について恐怖心を抱いている)―そのための「生きるか死ぬか」をかけた核・ミサイル開発。
 だから、その(同国の存続に対する)保障がない限り核・ミサイル開発は放棄しないだろう。
 北朝鮮の生殺与奪権を握る中国は、厳しい制裁で過度に追い詰めてはならないという立場を取り続けている。
 このまま朝鮮半島で第二の戦争が起きたときの衝撃は計り知れない。核不拡散体制の維持を含め、交渉で得られる利益は莫大だと日本は米国に働きかけるべきだ。
 必要なのは休戦状態にある朝鮮戦争の終結について米国に北朝鮮との交渉を促すこと―そこで北朝鮮が核を放棄すればその地位(同国の存続・体制維持)を認めるかどうかを話し合う(その交渉が進めれば拉致問題の前進に貢献するはず)。
 ただ「けしからん」「国連決議違反だ」と非難し、制裁を加えるだけでは解決しない―核を放棄しなければ話し合いに応じないという門前払いはすべきでない。
 国連制裁を重視しつつも、それだけでは解決しないことも考えるべきだ。
②元米国務次官補のロバート・アィンホーン氏
 北朝鮮は食糧・燃料・貿易のどれも中国に依存しており、中国は北朝鮮に決定的な圧力をかけられる立場なのに、そうしてこなかった。それは中国が、北朝鮮が核兵器を持つことよりも朝鮮半島が不安定化することを恐れているからだ。
 日米韓をはじめとする国際社会は国連安保理決議があろうとなかろうと、北朝鮮を罰する行動をとる以外にない。
 日米韓(同盟国)はミサイル防衛システムなど防衛力(核抑止力)を強化して北朝鮮に対する圧力(制裁)と関与(交渉準備―最終目標は非核化だが、短期的には核とミサイルの能力を凍結する話し合いが第一歩)を同時に進めるアプローチを、中国を巻き込んで(北朝鮮に対する制裁・圧力と関与に中国にも協力させて)やっていかなければならない。(中国の企業や銀行などは、北朝鮮が核やミサイル開発に関連する品目を入手し、外貨を得るのを手助けしてきたが、こうした中国の北朝鮮との取引をやめなければ、中国をも制裁対象にしなければならない。)
③元韓国外交通商相の尹永寛氏
 北朝鮮の弾道ミサイル開発は米国を脅して朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に変えるための交渉に引っ張り出すため。北朝鮮は冷戦が終わり、国際的に孤立している。経済困難のなか、敵に取り囲まれているという過度な危機意識を持っており、対決的な威嚇外交を生んでいる。
 これに対し、しっかりとした軍事安全保障で対応しつつ、一方では対話の門を開いて説得に努力を続けなければならない。軍事安全保障問題だけに限って扱うのではなく、外交・政治・経済など絡み合った多元的な問題で包括的なアプローチが必要だ。
 北朝鮮は欧米などとの経済的関係がほとんどないが、中国はほぼ唯一、経済的な関係のある国で、自らの戦略的な理由から突っ込んだ制裁に同意していない。(このため北朝鮮に対する制裁はさほど効果は上げていない。)中国は北朝鮮の核・ミサイルの脅威を取り除くことより、北朝鮮の体制を存続させることを優先している。米国はその反対だ(北朝鮮の核・ミサイルの脅威を取り除くことが先決だとしている)。
 現在は、どの周辺国も北朝鮮問題を本格的に解決しようとする政治的な意思も、決断も持っていない。

 以上の三つのうち、②の元米国務次官補の考えには賛成しかねる。彼は北朝鮮の核・ミサイル開発を単なる「弱小国の強がり」と見なし、北朝鮮を(真ともでないことは確かだとはいえ)ただ単に「ならずもの国家」だとか、無法国家と決めつけて、核・ミサイルの開発には罰する行動を取る以外になく、核兵器開発を無条件に放棄するか否か以外には交渉に応じてはならないというが、それには70年前日本の植民地支配から解放されはしたものの冷戦下に南北分断から朝鮮戦争~休戦協定は行われるも、北朝鮮は降伏したわけではなく、未だ戦争は終結していないという歴史的経緯と北朝鮮の立場があることを全く無視・度外視した超大国の傲慢(「上から目線」の一方的な決めつけ)が感じられるからだ。
 北朝鮮の核・ミサイル開発は、アメリカ等の大国が核兵器を独善的・独占的に大量に持ち続けているのと同様に、常軌を逸しており、無謀であることには違いないが、北朝鮮にとっては、それなりの止むを得ざる理由(アメリカ等が北朝鮮にそうせざるを得なくしていると彼らに思わせる理由)があるからであり、それを考慮することなしに、ただ傍若無人の暴挙だと決めつけるのでは、相手は「何を言うか」と反発を強めるばかりで、どんなに非難を浴びても素直に従うことはないのでは。

 当方の考えに一番近いのは①の美根氏の見解である。


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