米沢 長南の声なき声


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「安保反対は中国を利するのでは」に異論
2015年08月01日

 7月25日の朝日投稿に「安保反対は中国を利するのでは」と。それに対して異論
(1)安保関連法案は「中国のさらなる軍事力拡大に口実を与える」とは「思いません」とのこと。私は、法案は「中国側に口実を与える」という方に同感で、その意味では「安保賛成こそ中国を利する」のでは。
 中国の国防費の激増、海洋進出で「アジアの安定は大きく揺らいでいる」との指摘だが、 日本の防衛費は、中国に先行して高度成長期には10年で近年の中国と同じく4倍に膨らんでいた。また、南シナ海は日本が第一次大戦から南沙・西沙諸島とも占領し続けてポツダム宣言で放棄したものの、帰属先があいまいにされたため、その後、周辺諸国の間で領有権争いが生じ、中国が実効支配を制しようとしているが、ASEANと中国の間で武力行使・威嚇の禁止、平和的解決を合意しており、法的拘束力を持つ「南シナ海行動規範」を策定しようと協議を重ねてもいるのだ。
 いずれにしろ、賛成・反対どちらが中国を利するかといった議論は水掛け論的な言い合いになってしまうだけ。また「東シナ海で中国がガス田開発をしているから日本も」などと「相手がこうしたから、こっちも」といって張り合うのは子供のケンカ、とりわけ「軍事には軍事」で「やるならやるぞ」の如き対応は戦争を呼び込む結果となる。
(2)安保法案に反対するのは、それが日本国民を利するよりも害することの方が大きいと考えられ、戦争を抑止するよりも、むしろ戦争に近づける結果になってしまうことを恐れるからだろう。
 集団的自衛権・武力行使を事実上容認する安保法案は抑止力向上に資する、とりわけ米国にとっては軍事負担を日本が肩代わりしてくれるという点で最も利が得られるということもあるかもしれないが、日本国民にとっては次のような「害」もあり、むしろこの方が「利」を上回ると考えられるからだろう。
 ①自衛隊が米国など他国の戦争に事実上参戦、或いは海外で武力行使するようになり殺し殺されるリスクが格段に広がる。
 ②軍事対決に傾き、軍事衝突を招き、戦争を引き起こす結果にもなりがち。
 ③軍事力を背景にした外交、パワー・ポリテックスになりがち。
 ④中国・北朝鮮などを事実上「仮想敵国」と見なし、敵対関係が強まって、地域情勢が不安定化する。
 ⑤違憲立法は立憲主義をだいなしにする。
 ⑥平和国家ブランドを損ない、日本人に対する不信・憎悪が強まる。
 安保法案には、このような弊害があると思われるから反対するのであり、今、日本国民にとって焦眉の急を告げる大問題は事実上の解釈改憲に関わるこの法案の成立を許すか阻止するかなのであって、中国の国防費とか南シナ海などの問題ではあるまい。中国の軍事力拡大や海洋進出を糾弾し、中国に対して「軍事に頼ることなく地域の安定に取り組むように積極的に訴える」というのであれば、まずは自国政府に対して日米の「軍事力に頼ることなく」と訴えなければ説得力を持ち得ず、単なる「言いがかりだ」として逆に糾弾されることになるだろう。
 それに、「安保反対は中国を利する」というのは、反対するのは利敵行為だといって、反対運動を封じ込めようとする権力的発想とも受けとられよう。


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