米沢 長南の声なき声


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70年談話問題―先の戦争に対する認識(加筆版)
2015年06月01日

第二次世界大戦―1940年9月16日大本営政府連絡会議「日独伊枢軸強化に関する件」で、政府と軍部は、ドイツ、イタリアとともに世界再分割をめざし、日本が領土とすべき地域を「皇国の大東亜新秩序建設のための生存圏」として中国・インドからオーストラリア、ニュージーランドまでのアジア・太平洋地域を画定。これに基づいて日独伊三国同盟を結成。ドイツ・イタリアのヨーロッパでの支配権と日本のアジア・太平洋地域での支配権を互いに認め合ったうえで、それぞれに戦争を展開。
ポツダム宣言―大戦末期1945年7月26日米英中3国による対日降伏勧告
                 28日鈴木貫太郎首相(記者会見で)「黙殺」し、「戦争完遂にまで邁進するのみ」だと。
               8月6日広島に原爆
                 8日ソ連、対日宣戦布告
                 9日長崎に原爆                  
                14日日本政府受諾
 13項目
  第6項「吾等は無責任なる軍国主義が世界より駆逐せらるるに至る迄は平和・安全及び正義の新秩序が生じ得ざることを主張するものなるを以て日本国国民を欺瞞し之をして世界征服の挙に出ずるの過誤を犯さしめたる者の権力及び勢力は永久に除去せられざるべからず。」
  第8項「カイロ宣言(米英中3国は『日本の侵略を制止し、かつこれを罰するため今次の戦争をなしつつあるものなり。・・・・日本国は…暴力及び貪欲により日本国が略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべし。・・・・』―引用者加筆)の条項は履行・・・・・」
  第10項「一切の戦争犯罪人に対しては厳重なる処罰加えらるべし」
  第13項「吾等は日本国政府が直ちに全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し且つ右行動に於ける同政府の誠意に付き適当かつ充分なる保障を提供せんことを同政府に対し要求す。右以外の日本国の選択は迅速かつ完全なる壊滅あるのみとす。」

●5月20日党首討論で共産党の志位委員長は安倍首相に対して、ポ宣言で連合国側が示したこのような文言による認識すなわち日本が行った戦争は「侵略」であり「過誤」を犯した戦争だという認定を認めるのか否かを訊いた。ところが首相はポ宣言の「その部分をつまびらかに読んでおりませんので」論評は差し控えたいが、「いずれにせよ、まさに先の大戦の痛切な反省によって今日の歩みがあるわけでありまして、我々はそのことを忘れてはならないと思っております。」このポ宣言を「われわれは受け入れることによって、終戦を迎え」「これが戦争を終結させる道であったということであります。」それに対して志位委員長は、「私はポ宣言が認定している『間違った戦争』という認識を認めないのかと聞いたんですが、認めるとおっしゃらない。・・・・『侵略戦争』はおろか、『間違った戦争』だともお認めにならない。・・・・日本が過去にやった自らの戦争の善悪の判断もできない総理に、米国の戦争の判断ができるわけないじゃないですか。・・・・そういう総理が日本を『海外で戦争する国』につくり変える戦争法案だす資格はありません。」と。

●サンフランシスコ講和条約(11条)には、東京裁判の判決を日本政府が受諾したことを宣明。
 ところが、自民党の稲田政調会長などは、東京裁判の「判決主文(死刑)は受け入れたが、理由中の判断(犯罪事実の認定)に拘束されない(受け入れてはいない)」(カッコ内は筆者加筆)と。
 安倍首相自身も以前(06年10月8日、衆院予算委で)サ条約11条で「いわゆるA級、B級、C級と言われる人たちの犯罪者扱いを約束したものでは全くない」と述べている。

●安倍首相の祖父である岸元首相(東条内閣の商工大臣。A級戦犯被疑者として拘留されたが不起訴。東条ら7人には死刑判決。岸、いわく「今回の東京裁判はその理由において事実を曲げた一方的偏見・・・・」「大東亜戦争を以て日本の侵略戦争と云うは許すべからざるところなり」と。岸は公職追放は免れなかったもののサ条約発効とともに解除・復権。吉田退陣で国会議員となって、いわく、「憲法は改正しなきゃならん。アメリカ、マッカーサーがつくった憲法だ。日本の国体を維持するために認めただけの話」だと。自民党結成・幹事長となり、石橋首相の病気辞職で首相に就任。「自主憲法制定」をめざしつつ、日米安保体制を確立)以来、自民党の政治家は次のように思っているのだろう。
 あの時、日本は連合国の力に屈し、脅しに屈して「やむなく」「不本意に」、ポ宣言の場合は「降伏」だけを、東京裁判の場合は「受刑」だけを受諾したのであって、日本が侵略をしたとか過誤を犯したとは認めてはおらず、罪状は否認。
 日本の戦争は「自衛自存のための戦争であり、植民地解放の戦争」なのであって、「国民を欺瞞し、世界征服の挙に出ずる過誤を犯した」「侵略戦争」だなどとは思っていないのだ。(だから、A級戦犯を合祀している靖国神社に参拝や奉納をしても悪くないと。)
 安倍首相は、自民党幹事長代理だった2005年には、(月刊誌の対談で)「ポツダム宣言というのは、米国が原子爆弾を二発も落として日本に大変な惨状を与えた後、『どうだ』とばかりにたたきつけたものだ」と語っていた。東京裁判も、13年3月の国会で、「連合国側が勝者の判断によって、その断罪がなされたということだろう」と答えていたという。要するに米国の原爆など連合国の力に屈して、やむなく無条件降伏と戦犯の死刑判決等は受諾はしたものの、日本の行った戦争を「世界征服の挙」だとか「侵略」だと判断し、戦争指導者たちの行為を戦争犯罪だと断じたその判断は勝者の一方的な判断であり、そのようなことまで全て認めたわけではない、という思いなのだろう。
 (例えば学校の生徒指導で、生徒が「俺は悪くない、逆らったあいつの方が悪い、俺はやっていない、手伝っただけ、見ていただけだ、みんなやってるからやった、まずいことをした、申し訳ないとは思ってる」、(なんで申し訳ない?)「親や学校に迷惑をかけたから」「だから処分には従う」、などと言ってるようなもの。肝心の相手(被害者)に対して申し訳ないとは思わない。そのように反省が不徹底・不十分なまま処分を下しても、当人は「今度はドジを踏まずに巧くやる」とか、同じ行為が繰り返されてしまうことになる。被害者にとってはそれが恐怖なわけである。)
 間違った戦争でもなく、過誤を犯したのでもなかったのだとすれば、「同じことを繰り返してもかまわない」ということになるわけだ。だとすれば、日本と戦った相手の諸国は構えることになる。日本による再度の侵略戦争に備えなければならないと。そして、日本の政治家が「不戦の誓い」「不再戦」といっても、それは「バカな戦争はしない」「下手な戦争はしない」「負ける戦争はしない」ということだけで、今度やるときは「勝てる戦争をする」、だから「防衛力」(軍事力)とその体制を強化しているわけか、と不信にとらわれ続け、信頼関係が築けなくなる。(日本と戦った相手の諸国とは、中国だけでなく米英ロその他の連合国であり、国連を結成した国々。その国連には国連憲章に「旧敵国条項」があり日本はドイツ・イタリアなどとともに「旧敵国」あつかいで、今では有名無実にはなっているが、その条項は完全に削除されたわけではない。「旧敵国」視されるような不信感をいつまでも持たれてはかなうまい。) そこが問題なのである。
●村山元首相は次のように述べている。「単に被害感情の問題だけでなく、(「自虐」か「誇り」か等の問題でもなく―筆者)再び日本が同様の過ちを繰り返しかねない状況にあるかどうかという問題でもあり、簡単に譲れるような問題ではないということを、まず理解する必要がある。」「侵略と植民地支配という過ちを率直に認めて謝罪の念と再び過ちを繰り返されない決意を表明することによって、日本はアジアの一員として立場を回復できるのだ。」「国際社会が問題にしているのは、いまや戦時中の行為というよりも、現在の日本政府の姿勢」(世界6月号より)。

●広島の原爆慰霊碑には「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」と書かれてあるが、そこで問われるのは「過ちを犯したのは誰なのかだ」。
●安倍首相は、5月1日の国会(安全保障関連法案を審議する衆院特別委員会)では、民主党の細野政調会長の質問に答えて次のように述べている。「我々はポツダム宣言を受諾し、その後の東京裁判の諸判決を受け容れた。それに尽きる」、「6項の世界征服を含めて、当時の連合国の政治的意図を表明した文書だ。政府としては同項を含め、ポツダム宣言を受諾し、降伏したことに尽きる」。サ条約については「(日本は)極東国際軍事裁判所の判決を受諾しており、それに異議を唱える立場にはそもそもない」。指導者の責任については「戦争の惨禍を二度と繰り返してはならないという決意で、戦後の平和国家としての歩みを進めてきた。そうした結果を生み出した日本人の政治指導者には、それぞれの責任があるのは当然のことだろうと思う」と。
●さて戦後70年談話で安倍首相どう語られるのかだ。
 安倍首相や稲田政調会長らの政治家だけでなく、我々日本国民の認識も世界から問われよう。

●因みに、現在の国民の意識の一端を示すものとして最近の世論調査に次のような数字が見られる。(3月11日~4月10日、朝日新聞による世論調査で4月18日朝刊に掲載。その中から関連するものをピックアップ)
 「70年前に終わった戦争について」「日本がおこなったこの戦争は、どんな戦争だったと思いますか。」―「侵略戦争だった」30%、「自衛戦争だった」6%、「両方の面がある」46%、「よく知らない」15%
 「この戦争について、学校でしっかりと教わったと思いますか」―「しっかりと教わった」13%、「しっかりと教わらなかった」79%
 「『日本の歴史教育は、この戦争について否定的な見方が多く、自虐的だ』という意見がありますが、どう思いますか」―「その通りだ」35%、「そうは思わない」47%
 「なぜ日本がこの戦争をしたのか、日本人は自ら追及し解明する努力を十分にしてきたと思いますか」―「十分にしてきた」23%、「まだ不十分だ」65%
 「戦後、アメリカなどの連合国が日本の戦争指導者をA級戦犯として裁いた『極東国際軍事裁判』いわゆる『東京裁判』をどの程度知っていますか」―「内容をよく知っている」3%、「内容をある程度知っている」30%、「裁判があったことは知っているが、内容は知らない」47%、
                         「裁判があったことも知らない」16%
 「日本の首相が靖国神社を参拝することに」―「賛成」56%、「反対」26%
 「中国や韓国は、安倍首相の靖国神社参拝を批判しています。政府は、中国や韓国のこうした批判を重く受け止めるべきだと思いますか。それほどのことではないと思いますか」―「重く受け止めるべきだ」31%、「それ程の事ではない」55%
 「政府は戦後50年と60年に植民地支配や侵略で、アジアの人々に大きな苦しみを与えたとして、『痛切な反省』や『心からのお詫び』という言葉を入れた談話を発表したことは」―「妥当だった」74%、「妥当ではなかった」13%
 「日本は、戦争などで被害を与えた周辺国と、今、どの程度うまくいっていると思いますか」―「うまくいっている」46%(「大いにうまくいっている」1%、「ある程度うまくいっている」45%%)
 「うまくいっていない」50%(「あまりうまくいっていない」45%、「全くうまくいっていない」5%)
 尚、ドイツでも同国人に同様の質問―「うまくいっている」94%、「うまくいっていない」4%


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