米沢 長南の声なき声


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日本は軍備を持たなければ攻撃・占領されるのか(加筆修正版)
2014年07月15日

 安倍首相ら政府の言い方では「東アジアの安全保障環境(情勢)が厳しさ増している」―具体的には中国(軍事力増強、海洋進出・尖閣領有権主張、防空識別圏設定など)・北朝鮮(核・ミサイル開発・実験など)の脅威が増しているだから集団的自衛権の行使容認・日米同盟の強化は必要なのだと。
 マスコミ・ニュースは折からの南シナ海での中国とベトナムの警備船どうしの激突トラブル、北朝鮮のミサイル発射、それらに対処するかのような日米その他の共同軍事演習を報じ、「安全保障環境が厳しさを増している」印象を強くさせる。
 そして庶民も(街頭インタビューなどで)「中国や北朝鮮のことを考えたら、それ(集団的自衛権の行使容認)もしかたないんじゃない」などと、いとも簡単に言ったりする向きもある。
 しかし、この「中国・北朝鮮が脅威、だから集団的自衛権の行使容認」というのは短絡的。それら(中国や北朝鮮)の脅威があるからと言って直ちに、その(中国や北朝鮮からの)軍事攻撃を防ぐため、或いは抑止するために集団的自衛権行使を容認しなければならない、ということになるのか?
 麻生副総理の「いじめ」の例え話では「勉強ができない、けんかも弱い、だけど金持ちのせがれ、これが一番やられる」(「けんかは弱い、勉強はできない、おまけにカネがないとなったら無視だ」)。けんかが弱いといじめられる。日本は金持ちだがケンカが弱い。軍備を持たなかったり弱体だと、たちまちいじめられる。だから集団的自衛権でアメリカと組むんだというわけだ。あまりに単純・短絡的。

 日本が、仮に軍備(自衛隊と米軍基地)を持たなかったら(それに、もしも中国・韓国・北朝鮮などに対しては侵略・植民地支配の加害に誠意ある謝罪・反省の礼を尽くし、韓国のみならず北朝鮮にも「過去の清算・戦後補償」を果たしていたら、また無防備ではなく海上保安庁あるいは国土警備隊など領海・領空侵犯や不法上陸を阻止するのに充分なだけのそれなりの装備・人員は配備されているものとして)、はたしてソ連からも中国・北朝鮮からも、たちまち軍事攻撃・侵攻・占領されてしまっていただろうか?
 
 単なる可能性ではなく、「おそらく軍事占領されていたし、されるに相違あるまい」という蓋然性(必然的可能性)はあるのだろうか?あるとすれば、その根拠はどこにあるのだろうか?そこを検証・説明しなければならない。

 その国が、ある国に対して軍事攻撃・戦争をしかける、その根拠には3要件がある。
 ①軍事攻撃・侵攻しなければならない理由・必要性があること。それも国民・国際社会から納得・支持が得られる正当な理由(大義名分)があること。
 (例えば、かつて日中戦争や太平洋戦争の時の我が国のように「自存自衛のため」、「生命線の確保」―石油・資源・シーレーン確保のためだとか、「懲罰・制裁のため」だとか。それらは我が国の一人合点で国際社会からは受け入れられなかった。またアメリカは第二次大戦ではソ連とともに「ファシズムから自由と民主主義を守るため」という大義を掲げて勝利を博したが、ベトナム戦争などでは「共産主義の脅威から自由を守るため」、イラク戦争では「悪の枢軸を打ち倒すため」などといった大義を掲げて戦争を起こしたが、いずれも失敗。)
 ②その手段(軍備)をもつこと―それはその国から軍事攻撃・戦争が予想される根拠をなす一つの条件ではあるが十分条件ではない。相手国・周辺国にとっては、それが増強されたからといって、それだけでは恐れを感じさせる「脅威」にはなるが、当のその国では、それは攻撃・戦争をしかけるためではなく「抑止するための手段」だと考えている場合もあり、それを持つから(或いは増強したから)と言って即軍事攻撃必至という根拠にはならない。
 ③その気(攻撃意思・敵意)があること。
 この3つがそろわなければ、(②の軍備増強だけでは)日本に対してその国が軍事攻撃・戦争を仕掛けてくる事態が予想される根拠とはならないということなのであって、①(日本に攻撃を仕掛ける理由があるのか)と③(その意思があるのか)の点で十分説明のつく根拠がはたしてあるのかどうかを抜きにして、②(中国・北朝鮮などの軍備の増強)を言い立てるだけでは、それは単に脅威を煽ることにしかならず、今、安倍政権が自ら行おうとしている集団的自衛権の行使容認(憲法解釈変更)を正当化する根拠にはならない。

 それでは、中国と北朝鮮それに国際テロ組織などについて①と③を検討してみたい。
(1)中国:①(日本に軍事攻撃・戦争を仕掛けなければならない理由)について―
  中国にとっては台湾・チベット・新疆(ウイグル自治区)などとともに南シナ海・東シナ海など沿岸海域も「核心的利益」をなす大事なところだというが、岩しかない無人島の尖閣諸島までも「核心的利益」の一部だなどと称して領有権にこだわっている。
  尖閣諸島は日本が実効支配してはいるものの、領有権の決着は日中双方とも「棚上げ」にしてきたのが、石原前都知事が唐突に島を購入すると表明したのをきっかけに野田前首相が国有化を決定したのに対して中国が反発してその海域に日本の海上保安庁の巡視艇に対抗して監視船をしきりにくり出し、領海侵入も繰り返して我が方の海保巡視艇と警告「合戦」をやっている現状である。自分で勝手に「核心的利益」だなどと主張しても、それは我が国のみならず国際社会から認められるとは到底考えられない。にもかかわらず、もしも中国が強引に軍事攻撃をしかけ制圧して島を占領などしたら、一方的な侵略行為と見なされ、我が国民のみならず世界中(国際社会)から無法・非道が非難され様々に制裁を被り、かえって割に合わない結果を招く、そのことはわかり切ったこと。したがって尖閣のことで日本に軍事攻撃・戦争を仕掛けてくるとはおよそ考えられない。
  それから、日本の首相や閣僚が中国人民の嫌がる靖国神社(戦犯を祀って侵略戦争を肯定している神社)の参拝を強行し、日中戦争における加害行為に対して謝罪・反省の誠意が不十分だから「けしからん」といって、それだけで日本に軍事攻撃をしかけ侵攻したりするだろうか。
 他に何か日本に軍事攻撃を仕掛ける理由があるだろうか。無いだろう。
 ③について習近平や中国政府にその気(日本に軍事攻撃・戦争を仕掛ける意思)があるかといえば、あるとは考えられまい。
(2)北朝鮮:①(日本に軍事攻撃・戦争を仕掛けなければならない理由)について
 日本に対してはかつての植民地支配に恨みをもち、逆に拉致問題で日本から恨みをかい、内政・外政両面にわたる暴政によって四面楚歌。虚勢を張って「火の海にしてやる」とか脅し文句とともに核実験と弾道ミサイル打ち上げを時々やってみせるが、それは「自衛・抑止のためだ」とも言っており、自分の方から本気で仕掛ける意思があるわけではないことは分かり切っている。もしそんなことをやったら倍返しされ、たちまち自滅することは彼らも分かっているはずだからだ。
 或いはこの国を包囲する日米中韓ロなどの側の制裁圧力で追い込むそのやりようによっては、「窮鼠猫をも噛む」が如き自暴自棄的な暴発もなくはないが、それは北朝鮮を取り巻くこちら側のやり方の問題。
 ハリネズミのように、ひたすら自分を守る以外に、軍事攻撃を仕掛けなければならない理由はまず考えられまい。
 ③について金正恩にその気(日本に軍事攻撃・戦争を仕掛ける意思)があるかといえば、あるとは考えられない。
(3)国際テロ組織:①について
 憲法9条があるために中東などイスラム諸国における紛争では米英などNATO諸国やオーストラリア・韓国などと一線を画して戦闘地域では軍事介入を控えている日本人はターゲットにはされていない。
 ③について彼らのリーダーには日本や日本人を標的にテロ攻撃を加える意思はあるまい。(但し、今度の9条変質によって、これから集団的自衛権でアメリカと一体の行動が見られるようになれば、気が変わってくるだろう。)

 中国や北朝鮮その他に、それ以外に、日本に対して軍事攻撃・戦争をしかけずにはいられない必要かつ正当な理由はどこにあるというのだろうか。
 
 仮に当方などには、或いは日本人には思いもよらない(あり得ないと思われる)何らかの理由で、或いは理由もなく、ただ、相手(日本)が憲法9条をきまじめに守って警察力だけで軍隊・軍備を持たずに軍事対抗(交戦)をしない国だからといって、軍事的無抵抗に乗じて軍勢を侵入させて難なく制圧・軍事占領したとしても、世界中からごうごうたる非難・制裁それに日本国民の猛然たる反発・抵抗(非暴力ではあっても徹底した非協力・不服従)にあうことも必至であり、何の成果もあげられないどころか不利益だけを被る無意味な結果に終わることは分かり切っている。なのに、そこまでして日本に対して侵略行為を強行できるかといえば、そんなことはできっこあるまい。

 逆に、日本が中国や北朝鮮その他に対して軍事攻撃・戦争を仕掛けることはないのかである。 
 ①について中国にも北朝鮮にも、こちらから軍事攻撃・戦争をしかけなければならない理由はない。
 ②について、軍備は中期防衛力整備計画で防衛費の伸び率は中国などに比べてずっと低いとはいえ、集団的自衛権の行使容認で「自衛隊と米軍が『1+1=2』となって抑止力は高まる」(安倍首相の言)。しかしそれは相手側(中国や北朝鮮)の方からみれば圧倒的な脅威となり対抗上さらなる軍拡にはしらせることになる。(防衛省防衛研究所『東アジア戦略概観』2014年版には「自国の安全を高めようと意図した国防力の増強や対外的な安全保障関係の強化が他国にとっては脅威と懸念と見なされ、対抗的政策を引き起こし、結果的に軍事的緊張関係が高まり、全体として安全保障環境が悪化する状況を招いている」とある―世界8月号)
 ③について、安倍首相は集団的自衛権の行使容認は「抑止のためであって戦争するためではない」として、その気はないのだと言ってる。
  だとすれば、日中間にも日朝間にも戦争ないはずである。ただ、双方とも「抑止」のためと称して互いに軍備増強・軍事体制強化に向かうということになると、双方ともさしたる①(理由)もない③(敵意・攻撃意思)もないのに、双方の②(軍備・軍部隊)が対峙すれば互いに戦々恐々となり(ついつい引き金を引いてしまうか、発射ボタンを押してしまい)偶発的な軍事衝突から戦争に発展しかねないことになる。軍事的抑止力にはその危険がつきまとう。
  だったら、いっそのこと軍備・軍事体制強化は日本だけでもやめにして、(憲法9条制定による戦後国内外への戦争放棄公約の原点に戻って)日本国民は②も③も持たないこと(戦力不保持・交戦権否認)に徹して、軍事攻撃・戦争はしかけないし、しかけられもしない、ということにすれば、まさに、それこそが安全保障(軍事攻撃・戦争の回避)であり、「抑止力」(相手方に攻撃を思いとどまらせる力)となるだろう(戦力も戦う意思もない相手に戦いを挑んで軍事攻撃を仕掛ける道理はないのだから)。

 これらのことを考えると、中国・北朝鮮等の②(「軍備増強」「核・ミサイル開発」など)の脅威があるからといって、それだけでは直ちに自衛隊に集団的自衛権の行使容認が必要だとなる根拠にはなるまい。また、これら(中国・北朝鮮・テロ組織など)の国あるいは国際組織が、たとえ日本に9条の通り軍隊も米軍基地も無くしたからといって日本にいきなり軍事攻撃をしかけ、占領の挙におよぶとはどうも考えられない。なのに集団的自衛権の行使容認の解釈改憲閣議決定をわざわざ強行しようとするのは、戦中・戦後大臣・首相を務めた祖父(岸信介)の傷ついた名誉をとり戻し、その意思を受け継ぎ果そうとする安倍首相の野望にほかなるまい。

 今、我が国政府は憲法を都合よく解釈変更し、「戦争するためではなく抑止力を高めるため」と称して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行なった。これで我が国の自衛隊は「我が国と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け、我が国の存立が脅かされ、国民の生命・自由・幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」密接な関係にある国アメリカ等の戦争に(「後方支援」などと称して)参戦できることになる。
 アメリカはこれまで開戦の理由(あるいはベトナム戦争に際するトンキン湾事件のような口実)をつくってはあちこちで戦争してきたが、これからは日本もそのアメリカ同様に「明白な危険」事態だという判断理由をつくって参戦することになるわけである。
 戦争が起こる3条件①理由②手段③意思から考えれば、中国・北朝鮮などよりも、むしろ安倍首相ら日本政府の側に①アメリカの開戦理由作りとあわせた「明白な危険」判断理由(参戦理由)作り、②手段として日米同盟と集団的自衛権、そして③のやる気満々たる参戦意思と中国・北朝鮮に対する敵対意識など、脅威はむしろアベ日本のほうだ、ということにもなるのでは。

 平和主義の立場に立つなら、本来はアメリカに対して中国・北朝鮮への敵視・敵対政策をやめよ、控えよというべきなのに、それとは逆で米中対立を煽り、むしろアメリカから抑えろ(靖国参拝などひかえ、挑発的言動を慎んで)とたしなめられてれているぐらい。このようなアベ日本では、孫たちが心配でたまらない。

 我が家の孫どもにとっては、中国・北朝鮮とアベ日本のどちらが危ないか。どちらも危ないが、どちらかといえばアベ日本の方だ。なぜなら、この政権は不戦平和憲法を実質的に骨抜きにし、対中国・対北朝鮮対決政策をとり、国民を戦争に駆り立て、若者に血を流させようとしてはばからないのだとも思えるからだ。


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