米沢 長南の声なき声


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開放的平和国家から軍事的秘密国家へ―特定秘密保護法案(加筆版)
2013年11月06日

(1)「厳しさを増す安全保障環境」―中国・北朝鮮との戦争・テロに対処
  情勢認識―安倍政権は北東アジアの安全保障環境は「厳しさ」(中国・北朝鮮の脅威)が増していると→「防衛」体制強化→秘密保護強化
  むこう側から見れば日本が「脅威」。(韓国の民間シンクタンク・峨山政策研究院―の世論調査では、同国市民の6割もが日本に対して軍事的脅威を感じている。)
  軍事的緊張を高めるやり方    
  (元外務省国際情報局長・孫崎氏は、「いま世界は、秘密の強化よりも偶発的に戦争が起きないよう、相手国に能力や意図を正確に知らせることが潮流になっている。米国と中国の関係でも。日本に必要なのは秘密保護よりも情報開示」だとしている。)
(2)国家安全保障戦略(NSS)―防衛・外交・経済の総合的な戦略
 原案―軍事分野に積極的に踏み出していく(軍事に対する縛りを解く)方向性(朝日社説の論評)
   武器輸出三原則の見直しの必要性を明記。
   防衛大綱には自衛隊に敵基地攻撃能力や海兵隊機能をもたせること等も。
日米軍事一体化―集団的自衛権の行使容認(9条解釈改憲)を視野に。
   国家安全保障会議(米国のNSCをまねて創設)―首相・外相・防衛相・官房長官4閣僚で構成―外交・安全保障の「司令塔」となる(官邸に情報集約、自衛隊最高指揮官たる首相のトップダウン体制)
   特定秘密保護法案 軍事情報・機密情報を日米で共有管理―米国(世界規模のスパイ・通信傍受・盗聴などで情報収集)から提供された機密情報を守る。日本側から米国へ機密情報を提供する―それらの断片情報の漏えいを防ぐため―秘密を取り扱う公務員を適性評価のための身辺調査<家族・親戚や交友関係・思想・趣味・飲酒癖・借金状態などまで>・監視などのことを定める。漏えいは最高10年の懲役(アメリカ並みに重罰)
   これらはかねてよりアメリカ側から求められてきたもの。
    (イラク戦争に際しては、ブッシュ政権下のNSCにはイラクのありもしない大量破壊兵器など大統領の開戦に前のめりだったその思惑にそくした情報だけが上がって、それを疑うような情報は度外視された。小泉首相は米国のその虚偽情報を真に受けて真っ先に開戦支持を表明して派兵したわけである。)
    (米国は日本をも監視対象にして大使館・米軍基地を拠点にNSA<国家安全保障局> やCIA<中央情報局>が通信傍受・盗聴―スノーデン元CIA職員の内部告発<NSAの機密文書を持ち出してウェブサイトに公表>で明らか。)
    (原発施設内に出入りする従業員の身辺調査を米国が要求。日本の電力会社が公安警察と一体で共産党員や支持者を特定し監視。)
 これまで既に国家公務員法(「守秘義務」違反、罰金50万円、懲役1年)・自衛隊法(懲役5年)・日米防衛秘密保護法(懲役10年)で―そのうえに、さらに「特定秘密保護法」で(懲役は最高10年に)
 教唆・扇動―ブログやツイッターで発信・拡散なども罪に。
 秘密を得ようと打ち合わせ、話し合っただけ(未遂)でも処罰(「共謀罪」)
特定秘密」―4分野①防衛②外交③特定有害活動(「安全脅威活動」、スパイ活動)④テロ活動 23項目それぞれに「その他重要な情報」と付け足されており、なんでも「その他」に入れられて秘密にされてしまいかねない。
     行政機関の長(各省大臣、警察庁長官など)が指定
     指定期間は5年だが何度でも延長できる。30年を超えても内閣の承認あれば解除されず、将来にわたって公開される保証がない(かつて軍の関係資料や文書が焼却されたように機密のまま廃棄されることも)。
     2011年末時点で、防衛秘密の指定事項数234件
     2010年末で、極秘文書:約8万2600点、特別防衛秘密:約12万9000点 
           各省の「消秘」173万9000点
   外交・安全保障に重大な影響を与えるとされている「特別管理秘密」総数は14年末現在で
     約42万件(特定秘密になるのは、その1割という政府高官も)。
     いずれにしろ、政府全体で万単位の情報が特定秘密に指定。 
     指定されなくても、その外側にある情報も隠ぺいされる(恣意的に情報を国民の目から覆い隠せる)―政府にとって都合の悪い情報が隠される
       秘密の指定・解除による情報操作・世論操作にも
        ふつうの市民の暮らしをめぐる調査活動も違法とされかねない
        真相究明、真実を知ろうとする調査・研究も抑制―社会を委縮させる
      
 谷垣禎一(現法務大臣)―以前1987年『中央公論』に(国家秘密法案-=「スパイ防止法案」に反対して)「わが国が自由と民主主義にもとづく国家体制を前提とする限り、国政に関する情報は主権者たる国民に対し基本的に開かれていなければならない。この国政に関する情報に防衛情報が含まれることも論をまたない」「刑罰で秘密を守ろうという場合は、よくよく絞りをかけておかないと、人の活動をいたずらに委縮させることになりかねない」と書き、スパイ防止法案に反対していた。―開放的平和国家の立場に立っていたはず。
 民主主義国家―国民が主権者、国民が(代表者・議員だけに任せず)話し合って決めるのが本来のあり方―それに必要な情報は国民に全て知らされなければならない(それが前提要件)―安全保障を含む国の政策の決定過程は主権者である国民に公開されなければ民主主義は成り立たないということだ―だから国民には「知る権利」「言論の自由」(オープン)、メディアには「取材・報道の自由」が必要不可欠なのだ。
 「ツワネ原則」:6月南アフリカのツワネで国連と70ヵ国以上の専門家で話し合う。
   軍事など必要なものは秘密にでき、それに対する市民の「知る権利」を制限することはできる。だとしても人道や人権に関わる国際法に違反する情報アクセスの制限は許されない。またそれが正当ならば、政府はそれを証明しなければならない(政府に証明責任)。
   すべての情報にアクセスできる独立した第三者の監視機関が必要。
   秘密にする期間を限らなければならず、解除後に検証できるようにしなければならない。
   人権などの公益性の高い内部告発をした人は保護されなければならない。
   等々のことを原則とした―これが「世界の潮流」と言えよう。   

 なのに
 政府が特定情報(指定)を隠して秘密にし、それに国会議員・ジャーナリストや市民(運動家)がアクセスしようとするのを忌避、漏えい・流出した公務員とそれを求めた議員やジャーナリスト・市民は処罰。
 「何が秘密かも秘密」(何を秘密にするかを政府が勝手に決め、国民には何が秘密かを知るすべがない)―秘密とは知らずにそれに触れてしまえば捕まる。防衛や最先端分野の仕事に関わる下請け業者・従業員が仕事上、機密に触れる場合があるが、彼らがそれで捕まったりも。
     基地や原発施設の写真を撮っただけでも、或いはそれらに関わる情報を得ようと誰かと話し合っただけでも逮捕されかねないことに。

 国会が「特定秘密」を議論する場合は「秘密会」で行い、それに参加した議員はその秘密を他で(同僚議員や秘書などに)漏らせば罰せられることになる。
 国会議員は国政調査権に基づく活動が十分できなくなり、ジャーナリストは(報道・取材の自由に十分に「配慮」し、「著しく不当な方法でなければ」取材は正当な業務として認めると明記はしても、それを判断するのは取り締まる当局側で)自由な取材ができなくなってしまう―政府に対して監視・チェック・批判が十分できなくなる―違反・処罰を恐れて二の足を踏む(委縮―忖度して<相手の意を酌んで>アクセス・追求を控える)。
 情報公開法で、公開の可否をめぐる訴訟に際して裁判官が職権によって非公開文書をその目で調べて非開示にすべきものかどうかを判断できる(インカメラ審査)の規定がないかぎり、市民が秘密文書の開示を求めても、裁判所は応じてくれない。その規定があったとしても、役所は裁判所への文書提出を拒むことができるのでは開示を求められないことになる。 
 裁判の過程で特定機密は開示されないとなると、「被疑者」や「被告人」はいったい何の被疑事実で自分が捕まったのか、何で裁かれれているのか、弁護人も判らず、裁判所のなかのごく一部の人(インカメラ手続きで非公開を前提に秘密事項の提供を受けた裁判官)しか判らない、ということになる。
 (1989 ~95年、那覇基地の自衛隊施設に関して建築工事計画書の付属資料を市民が情報公開条例に基づいて公開請求、それに那覇市当局が応じようとしたのに対して国側が「防衛上の秘密にあたる」として訴訟。その建物はごく普通の建物だということが明らかだったので、地裁判決は「資料が公開されても防衛行政に著しい支障が生じるとは認められない」として訴えを退けた。しかし、同法が成立すれば、今後そのようなケースで、国が秘密と言えば何でも秘密とされ、開示を求めても突っぱねられることになる。)
 (2007年~自衛隊情報保全隊の国民監視―イラク派兵反対運動など団体・市民を調査・監視、内部告発で発覚―差し止め訴訟―12年仙台地裁―5人の原告に対して人格権の侵害を認め、損害賠償を国に命ずる判決―仙台高裁で控訴審中。
 このようなケースも、もしこの秘密保護法が成立すれば、訴訟できなくなる―内部告発した者、それを公表し訴訟を起こした側が「秘密」を漏えいしたとして処罰される結果になるから。
 これらに対するマスコミ等の取材も自衛隊や警察など当局側の公式発表以外には取材できなくなる。秘密保護法は自衛隊などの違憲・違法な行為を隠す口実を与えるものとなる。―同差し止め訴訟原告弁護団事務局長・小野寺氏)
 
  民主主義は毀損され、憲法で開放的平和国家であるはずの我が国は軍事的秘密国家に化することになってしまう。どこかの国のように、或いはかつてのこの国のように。
   上智大・田島泰彦教授は「秘密主義国家」「情報独裁国家」になってしまうと。
   アメリカは「スパイ国家」という指摘も(朝日は「盗聴国家」と書いている)。



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