NHKスペシャル「病の起源」で「うつ病」(行動意欲の低下が2週間以上続く症状。日本では100万人がこれに)のことを取り上げていた。
うつ病の原因は脳の中にある扁桃体の活動がもたらすストレスホルモンの過剰分泌にあるという。
そもそも扁桃体は小さくてか弱い魚類から始まって爬虫類・哺乳類・人類が進化する過程で、天敵から身を守るために生まれた。その扁桃体があることによって天敵に遭遇するとそれ(扁桃体)が危険を察知して活動しストレスホルモンを分泌する(防衛本能)。すると全身の筋肉が活性化し運動能力を高め、素早く天敵から逃れる。天敵が去れば扁桃体の活動がおさまり、ストレスホルモンの分泌が止まる。
ところが、天敵の危険にいつまでもさらされ続けると、それが止まらなくなり、ストレスホルモンが過剰分泌し、脳の中の神経細胞に必要な栄養物質が減少し、神経細胞が栄養不足に陥って、脳が縮んでしまう(委縮)。つまり、うつ状態になる。
天敵に対して仲間と集団をなすことによって危険から身を守る。ところが、集団から隔離され、孤独状態に置かれると、不安・恐怖にさらされ続け、これがまた扁桃体の活動を激しくさせてストレスホルモンの過剰分泌をもたらし、脳を委縮させうつ状態に陥らせる。
記憶(脳の中の海馬に蓄えられるが、扁桃体は海馬に連動)―その多くは忘れ去られる(海馬から消え去る)が、衝撃的な出来事はいつまでも記憶に残り(海馬にこびりつき)、恐怖の記憶は消え去ることなく、繰り返し思い出される。その度に扁桃体の活動、ストレスホルモンの分泌をもたらす。
人類は言葉を覚える(言語をつかさどるブローカ野という部位が発達する)と、言葉で他人に伝え聞く。それで、自分が直接体験しなくても、他人から聞いた恐怖を記憶し、不安を覚える。これがまた扁桃体の活動、ストレスホルモンの分泌を促す。
おカネを分け合う実験(①自分が2円、相手が83円で自分が損する場合、②自分が66円、相手が6円で自分が得する場合、③自分が177円、相手が164円でほぼ公平な場合の三つのケース)で、①(自分が損)と②(自分が得)ともに扁桃体が激しく活動して(その活動量が大)、③(公平)だと扁桃体はほとんど反応しないのだそうである。
公平な行動は進化的に有利なのだ、というのである。
こういったことが「うつ病」の脳内におけるメカニズムのようである。アフリカのハッザという部族の人々にはうつ病を患う人はいないのだそうである。彼らは集団で、ライオンなどの猛獣から身を守り、狩猟採集して食糧をみんなで平等に分け合って暮らしている。
うつ状態テスト(暮らしの満足度、幸せ感、希望と不安、自信、よく眠れるかなどを質問。31 点以上は重いうつ状態、11点以上は軽いうつ状態)で日本人は8.7 、アメリカ人は7.7、それに対してハッザの人々 は2.2なのだそうである
人類の歴史で原始社会からメソポタミア文明などに始まる文明社会になって、平等社会が崩れ、私有、職業の分化、貧富格差、支配・被支配が生まれるようになって、うつ病が生まれるようになった、というわけである。
現代人でも、専門職(弁護士や医師など、自分で判断する仕事に携わっている)はうつ病の発症率は少なく、技能職も比較的少ないが、営業職・事務職など上司の命令で仕事する職業は発症率が(専門職・技能職の2倍)高い。社会的な立場の低い人は、高い人より常に強いストレスにさらされている、というわけである。うつ病を治すには、生活を改善し、人間本来の暮らしを取り入れること―分け隔てのない仲間との平等な結びつきを治療に応用(PLCという生活改善療法―スタッフとの信頼関係を築き地域活動に参加するなど社会的な結びつきを強める)、定期的な運動(ジョギングなど―委縮した脳の神経細胞を再生させる)、昼は太陽の光を浴び、夜はしっかり眠るなど規則正しい生活がストレスホルモンの正常な分泌をとり戻す、とのことである。
うつ病は資本主義の競争・格差社会、人間関係が希薄で孤立しがちな社会につきもので、その根本原因を無くすには、互いに家族のように助け合い分け合って暮らせる平等社会(これって共産制社会じゃん)が望ましい、ということになるのでは。