アベノミクスというが、安倍政権と黒田日銀は何もしないうちから、民主党前政権下で株価上昇と円安の動きは始まっていたのであって、それら(株価上昇・円安)はむしろ別の要因から発しているというのが実態。「景気が回復しつつある」といっても、前の第1次安倍政権当時はその前の小泉政権の時から戦後最長といわれる景気続きで、株価は1万8千円台、GDPの成長率も年率2%を記録していた。なのに実質賃金は減り続け、庶民にとっては「実感なき景気回復」だったのである。企業収益は上がっても、それが賃金や正規雇用にまわらず、むしろ派遣社員・非正規雇用の増加で賃金コストを下げることによって企業収益を上げ、それを企業は内部留保としてため込む、というやり方だったので、ほかならぬ労働者・庶民の賃金・所得の低下が 消費需要の低下・デフレを招いてきたのである。それを第2次安倍政権はまた繰り返している。しかし、外国人投資家と株を買うおカネのある富裕層が株を買いあさって株価が上がり、大企業などの企業収益は上がっても、労働者・庶民の賃金・収入が増え雇用が安定化しないかぎりデフレ脱却などできっこないのだ。
「アベノミクス、いいんじゃない」「憲法改正もいいんじゃない?」「原発、再稼働してもしょうがないんじゃない?」「消費税、増税もしょうがないんじゃない?」「TPPもしょうがないんじゃない?」など等。
安倍・自民党―「ちょっとどうかな」と思うようなところもあるが、かといってそれ以外に頼りになる政党はどこもないし(民主党はあのざまだし、維新も初めの勢いはもう薄らいで、公明・みんなの党もしょせん自民党の補完政党、共産・社民は「万年少数野党」でしかなく)、頼りがいのある政党は自民党しかない、となっている。
アメリカ・財界・業界・官界それにマスコミも長らく自民党になじんできたし、これらは皆、自民党に付いている。だから盤石(ばんじゃく)なんだ。
と思っている向きが多い。そして現状(現体制)に安住、そこで唯ひたすら保身とサバイバル競争勝ち残りに人生を懸けるしかなく「寄らば大樹」しかないと。
それに対して、そんな生き方に甘んじてなんかいられないと、ひたすら自由・平等の理想を追い求め現状変革をめざす人たち(理想主義者・ロマンチスト・リベラリストなど)は居はしても、少数。
大多数の人たちは自分自身を少数派だとは思いたくなく、多数派と思い込み、それに組しようとする。そこで多数派の党は自民党ということになる(民主党も二大政党ということで、もう一つの多数派政党と思われたが、一回政権交代してはみたものの、非自民党という看板だけで一つの理念でまとまってはおらず無力さかげんを暴露して退けられた)。
自分を少数派なら少数派でいい(「抵抗勢力」「偏屈者」と呼ぶなら呼ぶがいい)と自分の信念に徹している人々も少数いることはいる。
しかし、自分は自民党には組しないが、「万年少数野党なんか」に組しようとも思わない無党派。選挙は天気が悪けりゃ棄権する、という人たちの方が多い。このような人々を相手に安倍自民党は楽々と支持・得票をガバっと獲得できる。やり方は簡単。小泉流(「劇場政治」)が手本。
「郵政民営化で全てが変わる」「官から民へ」「聖域なき構造改革」「自民党をぶっ壊す」
「反対者は抵抗勢力だ」等々、何の根拠も論理も脈絡もない、単純なワンフレーズを並べ立て演説を繰り返せば、みんなその気になる。
これらの言葉を置き換えて「アベノミクスで景気が良くなれば全てがうまくいく」「アベノミクスは『三本の矢』で達成する」、「憲法を改正して日本を取り戻すのだ」或いは維新の会やみんなの党は「都構想を実現するのだ」「統治機構を変え、道州制・首相公選制・一院制にする大変革を実現する、そのために憲法を改正」等々も。
これらを庶民は真に受けて「いいんじゃない、いいんじゃない」。
「アベノミクスで株がどんどん上がって儲けられていいじゃん、いいじゃん」(自分には株を買うカネがなく、株など持ち合わせなくても、その気分になる。)
そして消費税増税も、原発再稼働も、TPPも「しかたないじゃん」となるのだ。
庶民にとって、これらにはいずれも、実は切実で深刻な問題をはらんでいるのだが、そこまで思考が及ばず、あたかも他人事であるかのような観客の気分でテレビやネットを見て、安倍首相ら主役を演じる政治家のそのセリフや演技を痛快がり、それに反対する発言や反対者は抵抗勢力か敵に見えて憎悪を覚える。選挙ともなれば、安倍自民党は、それでまんまと圧勝する。ああ、なんという国だ。なんという国民だ(当方もその一員なのだが)。