アベノミクス―安倍首相が打ち出した景気浮揚策―「デフレ脱却」のため「三本の矢」―(1)「大胆な金融緩和」、(2)「機動的な財政政策」―大型公共事業、(3)規制緩和中心の「成長戦略」
実は使い古しの経済政策(失敗経験)―過去20年にわたって続けられてきた政策で、「失われた20年」をもたらしたもの。
(1)「大胆な金融緩和」―これまでも既に行っているゼロ金利政策と量的金融緩和―日銀が、市中銀行が持っている国債などの金融資産を買い取って、貨幣を市中銀行に大量に流し込む(資金の供給量―マネタリー・ベース―を2年間で倍増)―モノの量よりお金(円)の量が増えて円の価値が下落―円高から円安へ転換
円安の原因←①貿易赤字の定着、経常黒字の縮小
②為替相場のトレンド(そろそろそっちへ向かう頃合だと)
③国際的な投機筋(ヘッジファンドなど)が円売りにはしる
円安になっても― 貿易収支の赤字(2月、輸出4%減、輸入12%増)
―円安で輸入コストがかさみ交易損失が膨らむ―貿易を通じて所得が海外に流出。
ドル(ドル建て決済)は輸出よりも輸入の際に多く使われている(輸出に使われる決済通貨は米ドルが51.5% 、円38.4% 、ユーロ5.4%、輸入に使われる通貨は米ドル72.5% 、円22.9% 、ユーロ3.0%)。なので円安の影響は輸出のメリットよりも輸入のデメリットとして、より大きく表れる。
日銀が国債(短期だけでなく長期国債も)・社債から不動産投資信託などリスク性資産までどんどん買い取る―金利が下がる―借り安くなる―銀行は貸し出しを増やし、企業の借り入れ→設備投資と雇用が増え、住宅ローンなどの借り入れも増えて活況へ向かうと。
また、「インフレターゲット」(物価の前年比上昇率目標)2%として緩やかなインフレを意図的に起こす(リフレーション)―人々は「いずれ物価が上がるから」と(思い込んで)、物価が上がる前に早めに買い物しようとする人(駆け込み需要)が増え、景気が上向いていくと。しかし、期待先行で―投機家・海外投資家(ヘッジファンドなど―日本の証券市場取引額の6割)が、低利で借りたお金を株や外貨・債券・不動産(購入)に投じ、短期の売買・転売で儲ける(マネーゲーム)→株高(「アベバブル」)―実体経済(生産や雇用・消費など―リーマンショック前より鉱工業生産指数・輸出額とも下がっており、賃金も下がり、完全失業率が上がっている)とはかけ離れた熱狂(「根拠なき熱狂」)
この金融緩和のやり方は、あたかも、居酒屋で、客が体調を考えて「これで十分」、もう飲めないというのに、銚子を際限なく追加するようなもの(山家悠紀夫氏)。企業も家計も銀行から資金を借りられる状況にはなく、日銀がジャブジャブお金を流し込んでも市中銀行に溜まるだけ。そのお金の多くは投機の方に向かう。(本来なら株式投資は生産的投資で、その企業の将来性や業績を中長期的スパンから見込んで行うものだが、投機は短期売買で利ザヤを稼ぐやり方で、「お金でお金をもうける」というやり方)。<二極化>
資産家・富裕層―株で設け―高額品・高級ブランド品を買いあさる―大手百貨店の売上は増える。
円安で自動車産業など輸出型大企業には利益。
内需型の中小企業は輸入原材料(仕入れ価格)・燃料・電気代の高騰で苦しく。
庶民も輸入燃料のガソリン・灯油・電気代・小麦・大豆・食品の高騰で苦しく。
(2)「機動的な財政政策」―「国土強靭化」政策―大型公共事業―ゼネコンは活況―しかし一時的(カンフル剤のようなもので、事業が終わった後まで続かない)。
建設国債発行で国の借金―巨額な財政赤字―はさらに増え、後にツケが回ってくる。
(3)成長戦略―規制緩和―「企業が世界で一番活動しやすい国にする」(「そうすることによって企業の収益を上がり、それが雇用や賃金の拡大につながる」と―トリクルダウン説)
しかし、大企業の競争力は強化されても、その多くは輸出産業か海外進出企業で、内需は不振のまま。
規制緩和―労働時間規制(ホワイトカラー・エグゼンプション―事務系労働者などの労働時間規制の適用除外など)、有期雇用・派遣労働の規制、解雇規制まで緩和を企図。保険外診療など社会保障の市場化も(保険のきく領域を狭め、介護保険のサービスも縮小)。
2000年代に経験済み(小泉内閣から第一次安倍内閣へと引き継がれた「構造改革」路線)―「いざなみ景気」で企業の収益は大いに上がったが(利益は株主の配当と内部留保のほうに回り)、雇用(非正規雇用は増え35.5%と先進国では異常に多くなり、正規雇用は大きく減少)・賃金の拡大にはつながらず(1997年のピーク以降下降)個人消費を中心とした国内需要は増えず。
法人税の引き下げ―それを納められるほどの売上・収益が乏しい中小零細企業には恩恵なし。
TPPへの加盟も―デメリットやリスクのほうが大
原発再稼働も企図―超巨大リスク
「新産業の創出」―今のところ「絵に描いた餅」
それら(金融緩和・公共事業・規制緩和)だけではデフレ脱出はダメ。以前にもそれをやってきたが、賃金を上げないできたためにデフレのままだった―第一次安倍内閣当時も含む02 ~07年、戦後最長で「いざなみ景気」といわれ、2%前後の成長、株価は1万8千円と好調だったにもかかわらず、雇用は悪化し、株主配当は上がっても賃金はむしろ下げられ(01~11年の10年間で10%ダウン)、利益は内部留保に回されるだけだった。デフレ(商品やサービスに対する貨幣の価値が上がって物価が下がる)―安倍政権は「それは市場に出回る貨幣量が少ないからだ」と短絡的な発想から、金融緩和で日銀が札を刷って市場にジャブジャブ流し込めば何とかなると。
しかし、その根本原因は賃金の低下(1998年以来上昇率はマイナスに)と雇用悪化―不安定雇用・非正規雇用の増加―による内需・個人消費の減少―その脱出には賃金アップと雇用改善が不可欠―それなしに物価引き上げ、そのうえに消費税・社会保険料などの引き上げが加わって可処分所得(使えるお金)が減れば、個人消費はさらに減り、企業の売上も減る。そうなれば賃金・雇用はまた減って消費需要は減り、企業売上げが減る・・・・という悪循環になる。安倍首相は経団連など財界に「従業員報酬引き上げ」(「賃金ベースアップ」とは言わず、ボーナスなど一時金にとどまる)を要請
<賃上げ>
春闘は大企業ではボーナスは満額回答で昨年を上回ってアップ、定期昇給は維持、しかしベース(基本給)アップは流通業界の一部にとどまる。
アップは正社員だけ、非正社員には及ばず。
それに7割を占める中小企業の従業員には及ばず。要するに―アベノリスク
①物価上昇と不況がかえって深刻化
ある試算では物価2%上がれば家計負担が9万円増えるとも。消費需要はさらに冷え込む。
②貧富格差の拡大
③赤字財政の拡大―長期金利の急上昇―国債の利払い困難となる。
日銀による大規模な国債の買い取りは赤字財政の穴埋め(財政ファイナンス)と受け取られ、日本政府の財政規律に対する(「放漫財政」とか「節度を失っている」とか)ダメージを与え、「日本の国債はいずれは返済してもらえなくなる」という懸念が広がり、信用が落ちて国債の価値が下がり(国債の格付けが下げられ)(海外投資家などが一気に売りに出て)金利が急騰しかねない。どうすればいいのか
まずは雇用改善と賃金アップの方が先。
政府ができることは、財界への雇用者報酬の引き上げ「要請」だけではなく、①最低賃金のアップ(現在の700円台から1,000円以上へ―中小企業でもそれができるように支援し、大企業との公正な取引ルールをつくってそれ以上の「下請け単価たたき」をやめさせるようにする)、②労働者派遣法を抜本改正するなど法規制を強化して非正規雇用の正規雇用化への切り替えを促進すること。
そして個人消費と内需を拡大する。
もう一つ大事なのは消費税(来年4月から4%、再来年10%―年間17万円負担増―に)。給料が上がっても消費税が取られるのでは、それは減殺されることになり、「デフレ脱却」は不可能となる。
―日銀の試算では、金融緩和による年間2%物価上昇と消費税アップとで、次のような順序で、物価は4年後には10%近く上がるという。
①14 年4月から消費税8%に増税されて物価が2%上がる。
②日銀の金融緩和で物価が3%(1年半分)上がる。
③15 年10月から消費税10%に増税されて物価が1.3%上がる。
④日銀の金融緩和で物価が3%(1年半分)上がる。アベノミクス―それはカジノ資本主義の、いわばバクチ経済政策ともいうべきもので、はたして丁と出るか半と出るか。
中には儲かる人もいるだろうが、大部分の人は・・・・・・・・・・・・・。