憲法上の日本国民の決意―「二度と戦争はしない」の確認から―軍事的手段に訴える選択肢なしと。
実際問題としても、現代戦争は勝っても負けてもよい結果を生まず、惨害と遺恨を残すだけ。戦争で決着をつけるという問題解決こそが非現実的なのだ。
交渉なくして経済的・軍事的圧力だけでは解決つかない。
●中国に対して
1972 年日中国交正常化(周恩来・田中会談)、78年日中平和友好条約(鄧小平・福田会談)以来、尖閣は中国側としては中国領であることを認識しつつも、日本による実効支配の現状を容認し、これを軍事力で変更するようなことはしないという暗黙の了解(事実上の棚上げ)で合意してきた。
2010年(尖閣沖で中国漁船と海保巡視艇の衝突事件があって)前原・当時外務大臣は国会等で「棚上げは中国の主張。日本は同意していない」と答弁
2012年、石原・当時都知事が尖閣(個人所有だった島)を東京都が買い取ると言明。それに対して野田・当時首相は国が買うと(国有化)決定。それに対して中国側が反発、島は中国領だと主張、監視船を尖閣海域にくりだし、日本側が主張している領海と「接続水域」に侵入を繰り返し、海保巡視艇とにらみ合い(互いに監視・警告)―長期化・常態化(毎日のようにそれがニュースになっている)。
本年1月30日には中国海軍フリゲート艦が日本海自の護衛艦に照準用レーダー照射(日本側が抗議、中国側は事実を否定)―安倍首相「一方的な挑発行為」と非難。「事態をエスカレートさせないよう自制を求める」、「中国は戦略的互恵関係の原則に立ち戻るべきだ」としつつも、「領土・領海は断固として守り抜く」と言って、予算も防衛費を増額。
(尚、レーダー照射については―軍事アナリストの田岡俊次氏の見解―冷戦時代の米ソ間では、互いに砲を向けたり、サーチライトやレーザー光線を当てたり、通信妨害をしたりの「嫌がらせ」「突っ張り合い」はしょっちゅうあって「海上事故防止協定」結んでそれらを禁止することにした。英仏など他の主要国もその協定を結んで、日本も結ぶようになったが、中国は結んでいない。それにその協定の禁止項目にはレーダー照射は入っていないという。)マスコミは日中間で「情報戦」「心理戦」に入っていると。
軍事評論家は軍事衝突すれば日中どちらが勝つかと解説―自衛隊関係者は「短期間の局地戦ならば日本が優勢」と(①艦艇などの装備が優れている②パイロットの飛行時間が中国より長く練度が高い③米軍との連携など)。これに対して中国側は「日本側は中国軍のミサイルの威力を考慮していない」とし、両国で海戦になった場合、最初に自衛隊の基地や港をミサイルで破壊して、戦闘能力を失わせる等の見方をしている。(朝日2月4日「中国軍解剖」)。日本の軍事評論家の中にも、配備・保有機数からみて日本側が東シナ海の制空権・制海権を握るのは難しいと見る人(田岡俊次氏)。
元外交官・防衛大学校教授の孫崎亨氏(著書「不愉快な現実」講談社現代新書)は「自衛隊独自では中国軍に対抗できない」、それに「中国が尖閣諸島を占拠しても、米軍は出てこない」(中国は台湾を念頭に少なくとも戦闘機330機、駆逐艦16隻、潜水艦 55隻を配備している。そうした状況では自衛隊にとてもこれに対抗できる力はない。中国のミサイル(80 の中・短弾道弾、350の巡航ミサイル)は嘉手納・横田・三沢など在日米軍基地を破壊できる。滑走路が破壊されれば、戦闘機は機能しない)と書いている。アメリカは「尖閣は日米安保の対象」とは言っているが、いざとなった時、尖閣のために命がけで戦ってくれるかといえば、それは疑問。中国はアメリカにとっては経済的に日本以上に大事なお得意様であり、軍事トラブルには巻き込まれたくないと見られる。
日米中3国の力と利害関係―GDPは、2010年、中国は日本を追い抜き、2020年にはアメリカを追い抜き、軍事力(軍事費・技術水準)でも追いつく可能性。
アメリカの対中輸出は対日輸出を大きく上回り、対中債務も対日債務を上回る。一方、中国の日本への輸出はアメリカ・EU・ASEANへの輸出を下回っている。危険―現場における軍の暴発→武力衝突(一触即発)の危険があることは事実
両国関係悪化―外交チャンネル(対話・協議)は日本政府の尖閣国有化以降、中断。経済的・文化的交流が著しく後退(貿易・観光など激減)。日本側は自民党政権→民主党政権→安倍・現政権を通じて「尖閣は日本固有の島であって日中間に領土問題は存在しない(だから交渉の余地なし―筆者)」と。
しかし、国際的に日本領と認知されているわけではなく、アメリカも1996年以降一貫して「尖閣諸島の主権問題では日中のいずれの立場も支持しない」としており、現実には「係争の地」。「領土問題は存在しない」などと言って交渉を突っぱねるような(施政方針演説では「私の対話のドアは常にオープンです」とも言っているが、中国側からは尖閣問題の交渉なら「門前払いだよ」と言っているように受け取られ、「日本は思い上がっている」と反発を招くような)そんな言い方をせずに、領土問題が現実に存在することを認め、国際司法裁判所への付託をも含めて交渉に入るべきなのではないか。
その間は両国ともに以前の日本側の実効支配の状態に戻るようにして、日本側は島に施設の建設、公務員の常駐などは行わずに、海保の巡視活動だけに留め、中国側は今やっているような監視船を頻繁にくり出して日本側実効支配海空域に侵入することを控える。そうして物理的・軍事的対応を控える、ということにすればいい―そう思うのだが。●北朝鮮に対して
北朝鮮の為政者にとって、ひたすら求めてやまない究極目標は「その生存が直接脅かされないこと」即ち国家及び政権が崩壊させられる恐れのないようにすることであり、その(「生存を直接脅かされない」という判断を下せる環境を整えてゆくことなのだろう。
北朝鮮にとってその最大の脅威はアメリカ―アメリカとは朝鮮戦争は、休戦協定は結んでいるが平和協定は未だに結んでおらず、戦争は終結していない。なので、アメリカとその平和協定を結び、安全保障を得ること、そして国交正常化し、両国間の貿易・経済関係を盛んにすること、それこそが最大の要求。その安全保障が得られない限り、核兵器を「抑止力」として開発・保有するしかないと。
日本に対しては戦前来うけた植民地支配の清算、戦後補償を要求。これに対してアメリカは北朝鮮が核・ミサイル開発・計画を放棄することがまず先だとして平和協定などの交渉には応じない。
日本は核・ミサイル放棄とともに拉致被害者の解放を要求。05 年6ヵ国協議の共同声明―北朝鮮は「すべての核兵器と既存の核計画を放棄」、アメリカは「北朝鮮への攻撃・侵略の意図ない」と約束。ところが06年、北朝鮮は核実験を強行。 これに対して国連安保理が制裁決議
09 年、北朝鮮は再び核実験、国連安保理も再び制裁決議
12年2月、北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結すると。ところが、「ロケット」発射実験(二度)―北朝鮮側は、それはミサイルではなく衛星ロケットだと。それに対してアメリカ・日韓側は「長距離弾道ミサイル」に違いなく、国連制裁決議違反として非難。
それに反発(日韓などの衛星打ち上げやアメリカの核実験を禁止せず、北朝鮮だけ安保理制裁決議するのは、「二重基準の極致」であり「国際法違反」だと)アメリカの「敵対行為」に対する「断固たる自衛措置」だと)して13年2月には核実験(三度目、ミサイル弾頭用に小型化)
日米韓側はそれを北朝鮮の常とう手段の「瀬戸際外交」だとして、交渉には応じず。
北朝鮮は軍事的対決しかなくなっている。(これからも核・ミサイル実験を重ねると。)対話・交渉はすべて中断―互いに圧力(制裁・挑発行為)一辺倒
拉致問題は全く進展なし。日本が北朝鮮に対して求めるもの、必要不可欠とするもの―北朝鮮が①日本を攻撃しないこと、核開発を行わないこと。②拉致被害者を解放すること。
日本は北朝鮮からの攻撃抑止のために自分の側の軍事的抑止力(日米同盟・日米韓軍事演習・ミサイル防衛、敵基地攻撃力など)にしか知恵をめぐらさないが、それは相手にとっては軍事的圧力としか映らず、反感を招く。
選択肢は交渉しかない。(「交渉こそが抑止力」、それは中国に対しても同じ)
日本がとるべき政策―北朝鮮の生存を直接脅かさないこと、その環境を整えていくこと、そして不信感を解くこと―できるだけ早期に関係正常化―国交を結び、経済関係―相互依存関係を深め、日本に軍事攻撃を行ったら大損するという関係を結ぶこと。
日本が、今やっていることは、その逆(経済的・軍事的圧力一辺倒)。北朝鮮にはアメリカ・日本に対しても根強い恐怖感・不信感があり、そのために核にしがみつく(北朝鮮にとっては、核は唯一のカード)。
その北朝鮮に本当に核を放棄させるためには、国際社会が本気で「核なき世界」実現をめざして、全面的な核兵器禁止条約(国連総会では圧倒的多数で可決している)を実効あるものにして、そのうえで「われわれは、もう核を捨てる。だからそちらも捨てなさい」と言うしかないのである。
幾度か対話・合意があったにもかかわらず北朝鮮側が違反を繰り返して御和算にしたことに対する制裁(武器輸出の禁止や関係する個人や団体の資産凍結などの措置)はやむをえないとしても、それをやるなら①国際社会が一致して、抜け穴のないように実効性をもって行うこと、②制裁は体制(政権)を崩壊させるためではなく、核を放棄させるための交渉のテーブルにつかせるために行う、ということにすべきだ。
拉致問題も、交渉なくして解決はつかない。●「断固として」「毅然として」とか「強い日本」とか、強がりの言葉と物理的・軍事的対応ばかりの事実上圧力一辺倒ではらちがあくまい。(拉致問題でも、蓮池透氏は日本政府の事実上の圧力一辺倒を批判している。)
中国に対しても、北朝鮮に対しても、まずは交渉、それ以外にない。