米沢 長南の声なき声


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北朝鮮の核・ミサイル開発の目的は?(修正・完成版)
2013年03月13日

 3月7日国連安保理は北朝鮮が先月強行した3度目の核実験を非難して経済制裁を強化し、各国にその実施を義務付けた決議を(中国を含む)全会一致で採択した。(ただし、その決議には「対話を通じた平和的で包括的な解決」を促進し、「事態を悪化させるいかなる行動も控える」とも。)
 ところが11日、米韓は合同軍事演習(「キー・リゾルブ」、その後「フォール・イーグル」も)を(定例のものだとしながら)開始(韓国国民からは、この演習に反対する抗議の声が上がっている。尚、韓国は1月30日に人工衛星搭載ロケット打ち上げを3度目にして成功。2月13日には、「北」の核実験を受けて北朝鮮全域を射程とする巡航ミサイルを実戦配備、それに加えて射程を延長した弾道ミサイルも開発を加速化することを明らかにしている)。
 北朝鮮はこれらに反発して朝鮮戦争の休戦協定は「白紙化された」「今や戦時態勢にあり」と宣言し、南北不可侵合意も破棄するとして板門店の南北直通電話と国連軍との電話回線を遮断した。朝鮮半島の緊張がエスカレートしつつある。・・・・・・・「レッドライン」を越えた?
 
 そもそも北朝鮮はいったい何が目的でそんなことを。
 3月12日付朝日は、11面に、見出しを「北朝鮮、緊張演出」として次のようなことを書いている(貝瀬記者)。
 北朝鮮は「今後、体制保障に向けた交渉に米国を引っ張り出そうと、緊張を極限まで高める『瀬戸際』の駆け引きに出ると見られる。」「北朝鮮の目標は休戦協定を平和協定に転換し、体制保障を勝ち取ることだ。そのためにはカギを握る米国を交渉に引き出すしかない。北朝鮮はこれまでも核開発などで緊張を高めることで、米国を協議に応じさせてきたが、目標は実現できていない。
 今回協定の白紙化を宣言したのも、緊張を高める戦略の一環だ。」
 「韓国政府関係者は『最初は領海内での射撃や短距離ミサイル発射などで様子を見て、徐々に脅しを強めていく可能性がある』とみる。大陸間弾道ミサイル級と推定される新型ミサイルの発射実験や、さらなる核実験の可能性を指摘する声もある」と。
 つまり北朝鮮の目的は平和協定と体制保障なのだというわけである。 
 国力(経済力・軍事力)の弱小な北朝鮮にとっては、その(体制保障の)保証がないかぎり、「核抑止力」以外に国家(体制)を守る手段はないと思っている(「イラクのサダム・フセインは核兵器を持たないばかりにやられた」と)。だから、ただひたすら核ミサイルにすがりついているのだろう。
 ところが、アメリカには北朝鮮のキム独裁政権の体制保障などしたくないし、こんな国との国交正常化などどうでもいい、撃つなら撃つがいい、北朝鮮のミサイルなんか、どうせ大したことはない(韓国や日本には多少の被害はあってもアメリカは大丈夫)との思いがある(とみられる)。
だから日米韓側はこの北朝鮮が望んでいる平和協定・体制保障などのことには取り合わず、ただ「挑発行為は許さない」と言って突っぱねるのみで、もっぱら経済制裁と軍事的圧力の強化でしか対応を見せていない。安倍政権は北朝鮮と中国の軍事挑発・軍事脅威に対抗しなければならないとして、ひたすら日米同盟体制の強化―普天間基地は名護市辺野古に移設強行を企図、オスプレイを自衛隊にも導入企図、集団的自衛権の行使(米軍への協力のための武力行使)容認に加え、国連の集団安全保障(「国連軍」)への参加を企図。それにプルトニウム生産のための原発維持も。

 北朝鮮は、強がりは言っても戦争になれば、たちまち惨敗して体制崩壊することは分かっているだろう。だからと言って戦争しないわけでもあるまい。追い込まれれば苦し紛れに「窮鼠猫をも噛む」で「破れかぶれ」になって先制攻撃の挙に出、戦争に突入することはあり得る。
 それに対して米日韓の方はといえば、「戦争になったらなったでかまわない。負けることは絶対ないし、楽勝できるという余裕があるので、何が何でも戦争は回避し、平和協定と体制保障の交渉に応じなければならないという切実感はない」。
 しかし、戦争になれば、ワシントンが「火の海」になることはあり得ない?としても、ソウルが「火の海」になることはあり得るし、日本が戦災に見舞われることもあり得る(もしかして既に実戦配備している中距離ミサイル「ノドン」或いは「ムスダン」が日本のどこかの原発か東京などに飛んで来ないともかぎらない)。
 
 米日韓側は、(イランの核開発とともに)北朝鮮の核開発に対しては「直ちに放棄」ということにこだわるが、アメリカの核は(中ロ英仏の核とも)全く度外視している。
 それに、北朝鮮とともに中国の「脅威」に対する「抑止力」が必要だとして、中国や北朝鮮との間に緊張があることによって、その脅威・緊張を、アメリカはアジア戦略上の軍事覇権(圧倒的な軍事力)維持に利用でき、日本も日米同盟体制の維持強化(9条改憲)に利用できるという思惑が日米側には働いている。
 そのような態度・思惑をもち続けるかぎり、事は収まらないだろう。

 北朝鮮の「休戦協定の破棄」「戦時態勢」宣言、新型ミサイル(KN-08)の配備、さらなる核実験の示唆―それらを単に「強がり」「だだっこ」「わるあがき」「やけくそになっている」などと侮って取り合わなかったり、それらを重大・深刻に受け止めはしても「受けて立つ」という対抗的な軍事対応をとるのでは、かえって北朝鮮の「挑発行為」(反抗的対応)をエスカレートさせ、ひいては攻撃を誘うことになって開戦。そんなことになったら・・・・・。
 そんなことにならないようにするには、侮ることなく、身構えて対決することもなく、真摯に向き合って北朝鮮が望む平和協定と体制保障の交渉に応じる。そして核・ミサイルを放棄させ朝鮮半島を非核化する、という交渉に踏み切る以外にはあるまい

 それとも、「戦争・戦乱になってもやむをえない、あんな政権といくら交渉しても埒があかないし、あんな「ならずもの政権」の体制保障なんてとんでもない、転覆するか崩壊を加速するしかない」といって、このまま制裁圧力と軍事的圧力を強める方向でいくのか?
 拉致問題の早期解決にとっては、はたしてどちらがいいのか。

 尚、『世界』4月号にジャーナリストの平井久志氏は次のようなことを書いている。
 北朝鮮は「朝鮮半島の非核化」を論議する対話には応じない(米国を含め世界の非核化が実現されるまでは朝鮮半島の非核化は不可能だから)としながらも、「朝鮮半島を含む地域の平和と安全を保障するための対話と協議」には応じるとしている。(05年の六者協議で合意した「9.19共同声明」―北朝鮮は、それは「もはや存在しない」としているが―その4項には「朝鮮戦争の直接の当事者は、もう一つのフォーラムで朝鮮半島における恒久的な平和体制について協議する」としていた。)
 日本は(朝鮮戦争の当事者ではないためフォーラムには参加できないが)02年の「日朝ピョンヤン宣言」(核・ミサイル問題を含む安全保障上の問題とともに拉致問題も協議を行っていくとした合意)を活用すべきで、日朝二国間協議をおこなうべきだと。
 同誌(『世界』)の「ドキュメント激動の南北朝鮮」には次のようなことが書いてある。「拉致被害者家族からは核問題とは別途に拉致問題を確実に協議できる道筋を確保してほしいという切実な声が明らかにされている。」「安倍首相は『対話と圧力』としばしば語ってきたが、実際には圧力をかけ続けてうまくいかなかったというのが、これまでの安倍首相のやり方であった」と。
 平井氏は「一方的な制裁強化だけでは挑発と制裁、さらなる挑発と制裁という悪循環を繰り返し、危険の水準を高めていくだけだ」とも書いている。

 北朝鮮が休戦協定を破棄、「戦時態勢」に入ると宣言したことは、いわば「再宣戦布告」も同然であり、軍は攻撃開始命令を待つのみ、という事態に立ち至っている。
 このような時に、アメリカも韓国も、そして日本も、そういう北朝鮮に対して、相手が攻撃をしかけてくるのを、迎撃態勢を敷いて(準備を整えて)「やるならやってみろ。やったらお終いだぞ」とばかりにただ黙って待っているだけでよいのか。

 たしかに、攻撃・開戦したら、たちまち反撃されて北朝鮮国家(体制)は崩壊する。そうなることは、相手も解っている。だから無謀な攻撃・開戦にはしるようなことはすまいし、そのうち制裁が効いて苦しくなり音を上げて泣きついてくる、それまで黙って見ていれば(静観していれば)いい、というのだろうか。
 しかし、苦し紛れに自暴自棄的(破れかぶれの)攻撃の暴挙に出てくる可能性もある。そうなったら、戦災に巻き込まれる韓国国民の被害は計り知れないし、日本国民の被害も軽微では済むまい。「それはやむをえない。そうなったらなったで、しかたない」といって済まされるのか。済まされまい。そのような事態はなんとしても回避しなければなるまい。
 だとすれば、黙って座して待っているのではなく、今すぐにでも緊急協議(二国間でも何国間でも)を呼びかけて交渉にはいるべきなのだ

 17日北朝鮮の労働党機関紙は「(北朝鮮は日本が独自制裁を検討していることなどに反発して)日本も(核先制攻撃など)攻撃の対象になる。」「(朝鮮半島で戦火が起きたときに)自衛隊が介入する場合、日本は無事だと考えるなら、それに勝る誤算はない」と報じている。それに対して、日米間側には「挑発や脅しには乗らない」と言って突き放すばかりで、対話・交渉の意思はみられない
 ああ、危機迫る
 


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