「疑わしきは止める」
刑事裁判なら「疑わしきは罰せず」だが、原発の場合は?
大飯原発の敷地内にある破砕帯(岩盤の亀裂)は活断層によるものか、地滑りによるものか、「専門家の意見、分かれる」と。(ただし現時点では活断層説を打ち消す証拠はなく、調査団のメンバーには活断層の可能性を否定した人はいないという。)
放射線は微量なら被曝しても大丈夫なのか、大丈夫でないのか、(人体への影響の把握は困難であり)学者によって見解が分かれる。
うちの女房いわく、「キノコなら、毒キノコか、そうでないか、疑わしかったら食わないし、食わせまい」。
大飯原発は止めるべきだし、そこに限らず、日本中の原発は即ゼロにすべきだ。「疑わしきは止(や)める」にしくはない。柏崎刈羽原発(外観)を見学してきた(構内をバスで一巡。ゲートには「テロ警戒」の看板。見学申し込みには氏名に生年月日、運転免許証を持参して照合チェックを受ける。写真撮影は禁止)。
世界最大(7機821万Kw)の原発だという。原子力工学の粋が集中している所。
石原都知事は福島原発を視察して事故の有様を見てきて、いわく「人間がせっかく開発した技術体系を放り出すのは愚かだ」と。しかし、そこは2007年に中越沖地震(原発から14キロ沖、M6.8)があって、その時は極めて危ないところだった(新潟大の関根征士・名誉教授によれば「過酷事故一歩手前」)。それに原発敷地の直下に活断層があり、周辺住民の中には以前から「豆腐の上の原発」と呼ぶ向きもあったという。(真殿坂断層―東電は「活動性はない」と評価しているが、新潟大の立石雅昭・名誉教授は「動かないとされていた断層(いわき市域にある湯の岳断層など)が東北太平洋沖地震の余震(4月11日)で動いた」と指摘している)。
「原子炉直近の活断層が地震を起こせば、制御棒が作動する前に強い揺れが原子炉に到達し、緊急停止が出来ないという事態が発生する危険性もある。」「安全委員会によると、制御棒の挿入には、原子炉に設置してある地震計がある強さの地震動を感知してから2秒前後かかると計算されている」という(世界1月号「活断層と原子力発電所」東洋大の渡辺満久教授ほか)。
発電所の展示館に5分の1大に縮小した原子炉の模型があって、そこで制御棒が作動するところを見せてくれた。ガイド嬢は「1秒ちょっと」だと言っていたが、やはり時間がかかっていると感じた。その間(制御棒が作動する前)に揺れが原子炉に到達し制御棒が効かなくなるといった事態もあるのでは、と質問すると、ガイド嬢は「直下活断層地震は横揺れでなく縦揺れだから大丈夫」みたいなことを言っていたが。発電所の職員の方が耐震補強工事の状況を説明し、バスで構内を一巡して、かさ上げ建設中の防潮堤・防潮壁、高台に何台も並べてある電源車・発電機車、注水・冷却用のポンプ車・消防車等々を「これこのとおり万全を期して完備しておりますのでご心配にはおよびません」と言わんばかりに見せてくれた。
中越沖地震の時は敷地内の地面の隆起・陥没は10cmぐらい、通路・壁・天井・床の亀裂など約3,700箇所も壊れ、扉が開かなくなって肝心なところに入っていけないとか、コンクリート壁がひび割れ、核燃料プールの水が溢れ落ちたとか、低レベル放射性廃棄物の入った何百本ものドラム缶が倒れたとか、変圧器の出火などもあったが、過酷事故には至らずに済んだ。しかし、もっと大きな地震(M7.3の阪神淡路地震級あるいはそれ以上の地震)がきて通路が破断・寸断したら、電源車やポンプ車は入っていけなくなり、ケーブルや配管が破断、或いは燃料プールが崩落したらどうなるのだろうか。使用済み核燃料の貯蔵プールは、柏崎刈羽のばあい、再稼働すれば、あと3年半で満杯になるという。六ヶ所村の再処理工場は相次ぐトラブル続きで稼働延期。「死の灰」をガラス固化体にする技術も確立しておらず、「核のゴミ」の行き場はない。
福島原発からの避難者は16万人。
柏崎原発30キロ圏内の人口は43万人。
現在、全機(7機)とも停止中だが、東電は来年4月から順次再稼働を企図している。そんなこと許されるものか。石原氏は「人間がせっかく開発した技術体系を放り出すのは愚かだ」というが、せっかく開発した核兵器も廃棄するのは愚かだというのだろう。
彼が言うのは日米の原子炉メーカー・電気事業者・大手ゼネコン・鉄鋼メーカー・大手銀行・原発事業を推進してきた政治家・官僚・電力労組・立地自治体住民・マスコミなど、いわゆる原発利益共同体(原発利権集団)にとって「せっかく」ありついた既得権益にほかならず、それを「放り出すのは愚かだ」というわけだ。
しかし、それは核兵器と同様、人類にとっては「死の技術体系」なのであって、一日も早く廃棄すべきものであり、廃炉・廃棄のための技術以外には、これ以上開発・利用の余地のない技術体系なのだ。