米沢 長南の声なき声


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「島を超領有地域とする」案に賛成(加筆版)
2012年10月23日

 朝日新聞の「声」欄に歴史学者・南塚氏の投稿で「島は超領有地域で紛争防止を」というのがあった。
 それは、「千島列島・竹島・尖閣諸島はどの国も領有権を放棄して、漁業・資源の計画的活用(共同利用・共同開発―引用者)・環境保護・安全(避難所設置、非軍事化)のための国際共同管理領域とするのがいいのでは」というもの。
 そもそも「地球上の領域を何らかの国家の排他的な領有地や勢力圏として確定するようになったのは19世紀中ごろ以降のこと」、帝国主義諸国の世界分割(争奪)でそうなったのであって、たかだか150年の間のことでしかない。*(千島・竹島・尖閣については下記に)
 それを、「島は我が国『固有の』領土だ」と主張し、その根拠(自らの言い分)の正当性と領土ナショナリズムにとらわれ、領有権に固執する。しかし、そうやって諸国(日・中・韓・ロ)が互いに領有権にこだわり、島の主権を守るためにと(物理的対応から軍事的対応へと)行動に出れば、相手国も同様の措置をとる。そんな突っ張り合いを続けていれば、そのことだけのために両国間・諸国間の貿易・経済・文化交流等々の努力の成果が台無しになり、どの国も国益にとって多大なマイナスとなる。
 それらのことを考えれば、「むしろ大きな度量と展望が必要な政策」と投稿者が書いているように、「グローバル化の進む今、もっと大きな全人類的な視野から、地球や宇宙の資源や環境や安全の問題を考えていかねば」というのはその通りで、そういった観点から関係諸国が協議・交渉して互いに「ウインウイン」(「五分五分の痛み分け」)で決着するのが一番だろう。
 それとも戦争(勝った方に領有権)で決着?(ロシアと日本は日露戦争で日本が勝って南樺太を奪い、第二次大戦ではロシアが勝って南樺太を奪い返しただけでなく千島列島まで奪い取ったが、日本が再び戦争を挑んで「北方領土」を奪い返すか?)しかし、勝てる保証はないし(アメリカが日本に加勢してくれる保証もない)、たとえ勝ったとしても、はかりしれない大損失・犠牲を被ることになる。
 それらを考えれば、はたしてどちらが現実的・合理的な解決法か?戦争のほう?それはないだろう。

*①千島列島―先住民―そこにはアイヌ人(北海道・東北にも住んでいた)その他が住んでいた。
 近代になってロシア人・日本人も入ってきて雑居地となった。
 1854年日露和親条約でエトロフとウルップ島間を国境としたが、1875年樺太・千島交換条約で樺太(サハリン)全島をロシア領、千島列島全島を日本領とした。
 1905年日露戦争が日本軍優勢のうちに結ばれたポーツマス講和条約で、サハリン南半分も日本領となった。
 ところが第二次大戦末期、サハリン南部は奪い返され、千島列島まで奪われることになった。
②竹島は1905年に隠岐島の一島民の要望に答えて明治政府は日本領として島根県に編入し、同島民に貸し下げた。しかし、それは日本海海戦などロシア軍と朝鮮半島の利権をめぐって戦った日露戦争の期間と重なっていた。
 韓国は既に1904年第一次日韓協約で事実上外交権を奪われ、日本に対して異議申し立てできない状況にあり、1910年には日韓併合条約で朝鮮半島と日本海は丸ごと日本領にされた。
③尖閣は、その昔沖縄にあった琉球王国に属する先島諸島(宮古島・八重山などの島々)の一部であった。
 琉球王国は独立王国だった。それが江戸時代には薩摩藩に服従させられたが、中国の清にも韓国と同様に服属していた。それが1872~79年に明治政府によって日本領に沖縄県として編入された。清はそれを認めなかった(琉球帰属問題)。
 1880年、中国の内地通商権(西洋人と同じ扱いをしてもらえる)とひきかえに、沖縄本島から先島諸島(尖閣が含まれる)を切り離して清に割譲する条約案に仮調印(「分島改約」)するも清が応じぬまま御破算に。
 清は1895年日清戦争で日本から敗れ、韓国に対する宗主権をうしない、沖縄はもとより(その日本領有に異議申し立てできなくなり)、台湾までも下関条約で日本に奪われることになった。この間(下関条約に先だって)、尖閣は日本領として編入された。
 日中戦争中、蒋介石は沖縄を中国領とするか信託統治領とすることを考えたが、1945年アメリカが
日本本土とともに占領した。
 日本本土は1951年に占領解除されたが、沖縄は1972年になって日本に施政権を返還した。
 日本政府は尖閣も沖縄とともに日本に返還されたものとみなしている。しかし中国はそうは思っていないわけだ。
 (参考―世界8月号の豊下楢彦氏の論文、同11月号の羽根次郎氏の論文)
④「固有の領土」という概念は、歴史的根拠がない場合が多く、そもそも国際法上の概念にはなっていない。だからその言葉を使うのは適切ではないということ。
⑤どちらの国に帰属するのか、双方に言い分があり、領有権は必ずしも明確とは言い難い。だから「両国間に領土問題は存在しない」と言い切るのには無理があるということ。


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