米沢 長南の声なき声


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S君の新聞投稿「対中韓外交、政府は毅然と」
2012年10月04日

 それは山形新聞に掲載された。S君とは実は当方の教え子。全文紹介させてもらうと次のようなもの。
 「尖閣諸島を政府が国有化したことに対する中国の暴徒化に関し、日本政府の対応に憤りを覚える。正直言って情けない。なぜ東京都の石原知事のようにはっきり物申すことができないのか不思議でならない。
 尖閣だけでなく竹島問題も同じだ。首相をはじめ関係閣僚は決まり文句のように「遺憾である」に終始している。弱腰外交と批判される現状に、世界の中で日本がどう対応するのか、もう一度初心に戻って考える必要があるのではないか。
 今回の暴徒化を中国政府は容認しているように見える。いくら法律が違うといっても、警察や軍は見てみぬふりの口頭だけの注意と形だけの静止のみだ。日本で同じようなことをすれば即逮捕される。
 尖閣に不法上陸した者をすぐ釈放すること自体おかしいと思う。中国政府は日系企業への破壊行為の責任は日本政府にあると報じているが、容認すべきではないと思う。日系企業が中国人の雇用創出に大きく貢献していることを踏まえ、日本政府は厳に中国政府へ損害賠償を請求すべきだ。今後、日本政府と政権与党の民主党に対して、中国にいる日本人に対する身の安全確保と、毅然たる対応をしていただくよう強く要望したい。」
 要点は次の二つでは
(1)反日デモの「暴徒化」―中国政府の対応―「警察や軍は見て見ぬふり・口頭だけ注意」①
                       日本政府に責任を着せている。 
              日本政府は中国政府に損害賠償を請求すべきだ
(2)日本政府の対応―「弱腰」―「石原知事のようにはっきり物申す」べきだ
               不法上陸した者をすぐ釈放するなんておかしい
            毅然たる対応をとるべきだ。
 
 気持ち的には賛成で共感します。
 しかし、このような問題は相手国の実情、事の真相というか実態をよく(客観的に)見極めて判断すること大事かと。そこで、これらに関しては次のような見方・考え方もあるということ。
 ①について
9月の反日デモの実態(インターネットで調べてみると)
15日―50都市でデモ
16日―警備態勢・強化、デモ抑制に転ずるも、中小都市を含む少なくとも108都市・地域でデモ。全土で数十万人。
17日―暴徒の一部を特定し拘束へ
18日(柳条湖事件)―110都市でデモ
19日―各都市でデモ禁止・通達
 ある見方(インターネットのサイトに「ニュースの社会科学的な裏側」というのがあったが、それには)―「中国ではデモや暴動は日常茶飯事で、中国政府はその制御に苦労。警察の数が少数で暴徒から反撃を受けることも度々。」「中国共産党が反日デモや暴徒を裁量的に許可しているのは確かだが、それは、日本への揺さぶりのために許可しているというよりは、中国人民に中国共産党が敵視されないために許可した方が良いとの考えからだろう」
(そういえば、世界史を見てみると、中国では広大な国土を色んな王朝が治めてきたが、どの王朝でも反乱や民衆の暴動が絶えなかった。それにひきかえ、わが国の場合、一揆や暴動もなくはないが中国とはけた違い、我々の時代には「安保騒動」など激しい反米デモで機動隊との激突もあったが、今は皆すっかり「大人しくなった」というか、警察による制御にちゃんと従って行われている。)

 ②について
05年の反日デモの際は、日本大使館や日本料理店など日系企業の被害に対して、中国側は、大使館や総領事館に関しては補修費用を負担して原状回復、日系企業については個別に一部を補償している。今回に関しては(9月28日朝日新聞によれば、在日大使館の報道官の話として)「実際の状況にしたがって関連問題を適切に処理していく。」「被害の一部に対し賠償や原状回復に応じる可能性を示唆した」と。
 各個契約している損害保険が適用されることにもなるだろうが、いずれにしろ補償はあって然るべきだろう。

 ③について
石原都知事については、彼がアメリカ訪問中に記者会見でいきなり「尖閣諸島を購入することにした」と(「文句ありますか」とばかりに)言明したことが、そもそも今回の騒動のきっかけで、野田首相がそれに対して(いわば「売り言葉に買い言葉」のようにして)「それなら政府が買うことにしようじゃないか」となって、民主党代表選を控えて「毅然たる外交」姿勢を示したいという「思惑」(朝日新聞の記者がそう書いている)から「尖閣諸島の国有化」方針を決定した(野田首相の言い分では、島の現状の「平穏な安定維持・管理」のためには都が購入するより政府による国有化の方が好ましいとの判断からそう決めたのだと。)ところがその「国有化」が中国をさらに刺激したと見られている(それはとんでもない。到底受け入れられないと)。
 尚、石原知事に対しては「彼は沖縄基地問題ではアメリカにはノーと言わない」といった批判もある。(石垣市在住で尖閣列島戦時遭難者遺族会の会長をしておられる方は次のように述べている。(10月3日朝日)「石原知事の尖閣購入を支持する人たちは、日本の主権を守るためだと言っています。だけど米軍に治外法権的な特権を与えて米軍人による事件や事故の被害者は泣き寝入りさせられてきました。主権が侵されている、改定してほしいと私たちはずっとお願いしてきましたが・・・・。地元の反対を押し切って強行されるオスプレイの配備に反対の声をあげてくれたでしょうか。万が一、中国と事を構えることになった時、国境を接する私たちの生活がどうなるかを本当に考えてくれたことがあるのか」と。)

 ④について
日本人なら誰しもそう思う。しかし、中国人から見れば、そこを日本領だとは思っておらず、上陸を「不法」だとして逮捕したり拘留・処分する権限は日本側にはないと思っている。仮に拘留・送検・起訴して刑事裁判による処理をすれば、日本人漁業関係者らが相手国からの報復措置として拿捕されて同じような扱いを受けるような事態にもなりかねない。そのあたりを考えれば、今回のような問題では外交的・政治的に処理するしかないのでは。

 双方には島の「国有化」にも歴史問題にも認識の相違があり、互いに歩み寄ることなく自らの主張を押し通し続け、強硬措置を重ねていけば、ケンカ別れでは済まなくなり、船から水(放水)の掛け合いでは済まず、撃ち合い(軍事衝突)にも発展しかねない。それで死傷者が出るような事態となったら収まりつかなくなる。或は戦争とはいかないまでも、互いに経済制裁と報復措置の応酬で「音を上げるのは向こうのほうだ」などと、単に「勝てる」とか「負けない」とかでは済まない甚大な損失を双方とも被る結果になってしまう。それが一番恐ろしい。

 当方の新聞投稿はたまにしか載らないが、彼の投稿は度々載っている。今回のものは当方がこのところこのブログで何度か取り上げている問題なので論評、というよりは当方が目にしたインターネットや新聞の記事に、こんな事実や見方・考え方もあるんだなと思って、参考までに書き連ねさせてもらいました。 


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