米沢 長南の声なき声


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消費税について(加筆版)
2012年05月01日

1、日本は財政危機に瀕しており、消費税増税は避けて通れない、という。
 財政危機―ギリシャのように大ピンチに瀕しかねない。家計にたとえて、「借金のつけを孫子に残してはいけない」、だから「消費税増税はしかたない」って。これ本当か?
 
(1)「国の借金」―債務総額(粗債務09年末で、国・地方合わせて872兆円、12年末には937兆円、対GDP比195%)では確かに先進国で最悪。 (以下の数字はいずれも09年末のもの)
 しかし、債務総額の約半分は二重にカウントされている(加藤寛―90~2000年政府税制調査会長が指摘)―政府が国債などによって集めた資金や年金基金などからも他の政府機関や地方自治体・外国政府などへまた貸ししているが、それも負債として加算されている)。
 日本政府の金融資産(513兆円、米国債などの外貨準備、郵政株など有価証券、特殊法人への出資金、国民が積み立てた年金・健康保険など社会保障基金)は世界一 ―GDPに匹敵(欧米諸国は15~20%程度しか)。
 {粗債務(872兆円)-金融資産(513兆円)=純債務(359兆円)}―一国の財政状況をはかる指標としてはこの方が国際的常識。
 個人の場合でもそうで、1000万円の借金があるといっても、1500万円の預金を持っている人にとっては全くどうということはないわけである。
 家計のバランスシートで言えば、例えば、200万円の借金をしていて他に何も資産を持っていないA氏と、500万円の借金をしているが、預貯金や株式などの金融資産400万円を持っているB氏(その純債務は100万円)とでは、危機的な状況にいるのはA氏のほうで、借金の総額はどんなに大きくても、それだけでB氏のほうが大変だということにはならない(参考:京都弁証法認識論研究会のブログ)。
 日本政府(国と自治体合わせて)のバランスシートも資産(2010年12月末、金融資産494 兆円、固定資産―土地・建物など国有財産―579兆円、合計 1073兆円)のほうが負債(借入金・国債など合計1037兆円)を上まわっている。仮に返済不能となったら、外債や公有財産を売却すればよいだけの話し(山家悠紀夫『消費税増税の大ウソ』大月書店)。
 (2)財政と家計は違う
 家の借金は収入の範囲内でしか借りられない。借りたら本人が生きている間に全額返済しなければならず(返済しなければ資産が差し押さえられ)、子や孫に付けを回すことはできない。
 しかし、国の借金は、国が国民に(家計が赤字で借金返済に苦しみ生活困難な人も生きていかれるように)生存権を保障し、社会保障・教育・福祉・公衆衛生など公共サ-ビスを提供しなければならず(それらは税収の範囲内にとどめるというわけにいかず、税収で足りなければ借金をしてでもやらなければならない)、そのために必要だからおこなうもの。それに政府に寿命があるわけではないし、親たちの代に全額返済しなければならないというわけではなく、子や孫の代に返済を先送りする(「借金の付けを回す」)ことはできる。しかし、子や孫たちの代の国民は借金だけを引き継ぐわけではなく、合わせて金融資産や固定資産をも引き継ぎ、子孫に財産(国有財産)として残る。

(3)ギリシャなどと比べて
 日本の貯蓄・生命保険など国民の金融資産は1,400兆円(世界一、国内の銀行や保険会社などの金融機関はそれを元手に政府の国債を引き受けているが、今のところ、その債務残高900兆円をまだ大きく上まわっている)、その内の海外への投資分(対外純資産)は266兆円で世界一。(但し、高齢者が貯蓄を取り崩すなど、現在それは低下しているので、長期的には安全とはいえない―だから国債の発行残高が際限なく増え続けることは問題)。
 日本の国債は9割以上を国内の金融機関などがもっている。それでもなお、日本国内には世界一の余剰資金(国民が所得を得て、そのなかから消費し、残りを貯蓄に回す。そのカネを使って住宅投資・企業の設備投資・公共事業などを行い、なおも余っているカネ)が(2010年末で、2位中国が167兆円、3位ドイツが114兆円なのに対して251兆円以上も)あるのだという。これまでの毎年の動き(余剰資金が10兆円以上生まれている)を見ても、政府などが新しく借りた額よりも家計など民間が貯蓄した額のほうが多いという状況が続いている。政府は大きな借金を抱えているが、それでもなお借りられるだけの余裕があるのだということ(山家悠紀夫、同上)。
 ギリシャもアメリカも財政赤字だけでなく経常収支(貿易収支と貿易外収支)も赤字なのだが(むしろこの方が重大)、日本は、経常収支はまだ黒字(貿易収支は昨年度は震災による輸出の減少や原発停止にともなう燃料の輸入増という特殊事情もあって過去最大の4.4兆円の赤字になったが、貿易外収支のうち外国証券や海外子会社などからの利子・配当収入で所得収支が黒字なので、トータルでは10兆円弱の黒字)。
 海外投資家からの債務(いわば「あかの他人からの借金」)は、ギリシャは7割以上、アメリカ・ドイツも半分以上占めるが、日本はわずか7%だけで、9割以上が国内の投資家からのもので(いわば「身内からの借金」で、円建てで借りており、日本国債の金利―今は1%弱で安定―が上がる事態になったとしても国債は日銀から買ってもらえる)、ヘッジファンドなど海外投資家からの投機的な売買に振り回されることが少なく、利子も海外流出はわずかで国内に回り、景気への影響も少ない。

(4)ところが、最近のNHK「クローズアップ現代『2012年岐路に立つ世界経済』」で、次のようなことを解説していた。
 IMFが日本国債についての報告書で、海外投資家が日本国債の先物を扱う(デリバティブ)市場で売りを仕掛けてくる(ターゲットになる)可能性があると指摘、その結果、安定して推移している国債の金利を上昇させる恐れがあるというのだ。そうすると(国債の先物といったデリバティブから崩れていけば)、「国内の投資家も、一斉に投資スタンスを変えなければいけなくなり、今いっぱい持っている国債を投売りし始めるようになる、これが一番大きな問題だ」というわけ。
 日本国債は今、いくつかの条件が満たされているので金利1%以下に保たれているが(10年もの国債の利回りでは、ギリシャ国債は34.96%、イタリア国債は7.108%だが、日本国債は0.988%)、それが崩れるとヨーロッパのような危機に陥る可能性がある(マーケットというのは一度弾みがつきはじめると誰が何と言おうと信用されなくなる)。いつまでもつか、早ければ数年(倉都康行・国際金融アナリスト)、家計貯蓄がこれから減ってくるということを考えれば5年もつかだと(伊藤隆敏・東大教授)。日本国債の信用維持のためには「健全な財政」に早く戻す「財政再建」(それは避けて通れない道)の明確な道筋・方向性を示すメッセージを国としてしっかり出していくことが必要だ。それがないと市場が不安がる、というわけ。
 日本国債は世界の債券市場では優良銘柄で、格付け会社によって最上位(トリプルA)と見なされてきたが、このところ巨額の債務を理由に、一段下(ダブルAプラス)へ格下げられている。今、国内の金融機関の間でも日本国債に対して慎重な見方が広がりつつあるという。
 金利1%上がれば1兆円超の利払い費がかさみ、わずかな金利上昇でも利払いが膨らみ、財政をさらに圧迫する。 
 だから、そうならないうちに早く消費税増税を決めてしまえ、というわけか。
要するに、政府が何か手を打たないと、ヘッジファンドなど海外投資家が日本国債の先物市場で売りを仕掛けてくる可能性がある(その結果、安定して推移している国債の金利を上昇させる恐れがある)、だから、政府が消費税の増税を敢えて強行するのを国民は甘受せよというわけか。ヘッジファンドによる「仕掛け」(いわば陰謀)など投機マネーに振り回されることを恐れて庶民増税、そんなの理不尽だ。
 尚、NHKの同番組(「クローズアップ現代」)では、ロナルド・ドーア氏(イギリス人・政治経済学者で日本に留学、半世紀以上にわたって日本の資本主義と文化研究)にインタビュー、氏は「世界経済全体が金融化されていて、金融業者の支配下に置かれている。それが災いの根源。(まともな投資家)そういう資本を持っている投資家が今の世の中に少なくなっていて、ほとんどが投機家。銀行が投資家の役割を果たして、ただギャンブルする投機家の役割ができないような制度に変えるべきだ」と語っていた。

(5)日本政府の債務膨張・財政赤字の拡大が日本国債の信用を失墜させる結果になりかねないのも事実。
 その債務膨張を招いた原因は?
 それには高齢化による社会保障費の膨張もあるが、これはしかたのないこと。不要不急な無駄遣いとは事が違い、カネが無ければ借金してでも用立てなければならないもの。社会保障関係費は一般会計予算の中では最も大きいが、それにカネのかけ過ぎどころか、世界の主要国と比べればむしろ最も少ない。(社会保障への公費負担のGDPに対する割合は、イギリス13.5%、イタリア11% 、ドイツ10.5%、フランス9.4%に対して、日本は6%に過ぎない。)
 
 問題はつぎの三つ
①自民党政権以来重ねてきた不要不急の大型公共事業と米軍への思いやり予算などを含めた軍事費などの無駄―ゼネコンや日米の軍需産業への大盤振る舞い。
②大企業・富裕層への優遇税制(この15年間、法人税減税、所得税や相続税の最高税率を切り下げるなど、取るべきところから取らない)―それはまた直接税(所得税や法人税など)のビルト・イン・スタビライザー機能(「自動安定化装置」―不況期に財政赤字が増えても、好況期には企業利益や賃金が増えるので税収が増えて赤字が減るという機能)を働かなくしたこと。
③長期にわたる景気悪化とデフレ・スパイラル―消費の落ち込み、内需停滞、賃金ダウンで税収が減ったこと(消費税アップで税収を増やしても、消費マインドが低下して景気が悪化すれば所得税・法人税などの税収が減って税収総額は増えないことになる)。
この三つである。
 このやり方を是正し、財政健全化(赤字削減・基礎的財政収支プライマリーバランスの黒字化)に努めること(無駄な大型公共事業や軍事費を削減すること、大企業・富裕層への優遇税制をやめること、内需拡大による景気回復をはかって労働者の賃金・中小企業の収益をアップすること)、それは不可欠。それなしに単に借金の穴埋めするために「取りやすいところから取る式」の消費税増税は理不尽である。
 
2、財政赤字の縮小(「財政再建」)と社会保障の充実のために、必要不可欠なのは?
(1)消費税の増税―むしろ逆効果なのでは?
 経産省とマスコミの宣伝―消費税のメリット
 ①「広く薄く課税し、世代に偏らない―公平性」
  所得税のように「クロヨン(9・6・4)」などサラリーマンと自営業者・農家との間で捕捉率の不公平がない、とか 
 ②「国民みんなが互いの生活を支え合う社会保障財源に相応しい」
 ③「所得税や法人税と比べて、景気の良し悪しに左右されない―安定性」        「増税分を福祉などの分野にあて、生活の安定と雇用を増すことで消費が増加して景気が回復して税収も増え、経済が成長」
 ④「シンプル(やり方が簡単)で安定財源」だと。

消費税は公平か? 
 平均的な家庭で、(09年)消費額が月25.4万円で、5%消費税は1.3万円、年間では消費額300万円で、消費税15万円だが、(年収300万円の家庭と年収1,500万円の家庭とでは)所得の低い人ほど、所得のうち消費にあてる割合が高い(逆進性―消費税が10%になれば、年間の支払額が手取り収入に占める割合は、年収250万円未満の家庭では5.4%、年収700万円~ 750万円の家庭では5.1%、年収1500万円の家庭では4.7%)―この点では、消費税は社会保障財源としてはむしろ最も相応しくない。
 消費税というのは、いわば低所得者や所得の無い子供からまで合法的にカネをまきあげるもの。(政府・民主党は今度10%に上げた場合、低所得者には軽減税率ではなく、所得税額を減らしたり、所得税額ゼロの人に給付金を渡したりする方針。)
 企業にとっては、法人税は赤字なら払わなくてもいいが、消費税は(税務署から「業者は消費税のお金を預かっているだけだから支払え」と迫られ)借金までして、自腹で払わされる。
 そして、売買で強い立場にあるほうが得をする(取引先との力関係で弱い中小零細の、とりわけ自営業者により重い負担を強いる)―メーカー・部品メーカー・卸業者・小売業者はそれぞれ消費税を価格に上乗せ(転嫁)して売り渡すことになっているが、下請けなど中小零細企業や自営業者は大口顧客(大手メーカー・大手百貨店・ス-パー・チェーン店など)から値引きを強要されて、それ(価格上乗せ)がなかなかできず、結局自分でかぶる(自腹を切る)か、滞納せざるを得なくなる、といったことが多くなる(滞納額はあらゆる税のなかで消費税がワーストワン―諸税の滞納額合計約6800億円のうち半分が消費税の滞納)。日本商工会議所によると、税率が今後引き上げられれば、売上高5千万円以下の事業者の6割以上は転嫁できないと。
 消費税が増税されれば、材料費も上がる。下請け企業は、部品を大企業に納める時、増税分を上乗せした代金を請求すればいいはずなのだが、大企業から(コスト削減のためと)値上げを拒まれて、増税分を自分でかぶらなければならないことになる。
 (自殺は12年連続で3万人を超え続けているが、「自営業・家族従事者」は3,202人で全体の9.7%なのに対して、「被雇用者・勤め人」は27.9%なので、両者の比率は1対3だが、就業者全体にしめる「自営業者」と「被雇用者」の割合が1対7であるのに比べれば、自営業者の自殺率は非常に多い。)
 一方、大企業など輸出比率の高い企業は、輸出や国際輸送など輸出に類似する取引では売上に対して消費税は免除され(「仕入れ税額控除」)、仕入れで負担した消費税は還付される(「輸出戻し税」)ので、消費税は全くかからない。
 (尚、会社設立したばかりの2年間と年間売上1千万円を超えない事業所は、消費税は免税―「益税」) 
 「クロヨン」―原泉徴収でとられるサラリーマンに対して、申告納税で納める自営業者・農家に対する所得の捕捉が甘く不公平だとの見方があるが、実際は税務署の目は自営業者などに対してふし穴でもなく、甘くもないのだという(ジャーナリスト斉藤貴男氏)。申告納税のやり方のほうが、むしろ民主主義に相応しい徴税方法。
消費税は社会保障財源に相応しいか?
 消費税は貧しい人ほど負担が重く、社会保障にはむしろ相応しくない。
政府は消費税収を社会保障の経費に充てるもの(「社会保障目的税」)としている。現状でも国の消費税は建て前上「社会保障目的」になっている。しかし、消費税は社会保障の(特別会計を設置しての)「特定財源」ではなく、あくまでも自由に使える「一般財源」として徴収されており、結果として法人税減税の穴埋めにされてきた。
消費税は「景気の良し悪しに左右されない安定財源」か?
 確かにそのとおりだが、それは税を集める側にとって都合がいいだけの話し。税務署は事業者が経営赤字なら、法人税は取れないが、消費税なら借金させてでも取り立てることができる。労働者も、所得税なら、賃金が下がったら減額され、失業したら免除されるが、消費税には軽減も免除もない。
 所得税や法人税は賃金や売上の上がり下がりに応じて加減され、それによって景気調整がうながされるが、消費税はそれがなく、ただむしり取られ続ける一方で、景気は悪化する一方になる。
 保育・介護・救急医療などには確かに雇用が増えるが、それだけのことで、それだけで景気回復・経済成長を云々するのは机上の空論。
 消費税増税で消費が冷え込み(消費マインドが低下して)景気をガタンと悪化させる。
消費税はシンプルか?
 一般の消費者は店に代金とともに支払うだけだが、税務署に自己申告して直接納めに行く事業者は課税の事実を証明できる帳簿や請求書の類を保存しておかなければならず、書類作成の事務負担が非常に煩雑。
 「シンプルで安定財源」だというのは徴税する側の都合。
 それに消費税には派遣社員の増大をもたらすという弊害がある―納税義務者(事業者)は、仕入れのために支払った消費税を差し引いた金額を税務署に納めることになっている(「仕入れ税額控除」)が、派遣社員や請負社員への報酬にも、物を仕入れたのと同様の消費税率(5%)控除が適用されるので、正社員を減らして派遣社員に切り替えれば、その分が節税できることになっているから。(2,000年11月の朝日新聞だが、1989年消費税導入以来、人材派遣事業所は2倍に増えている。)
日本の消費税は低すぎるか?
 消費税の税率(5%)はヨーロッパ(20%前後、イギリスは17.5%)に比べれば確かに低いが、国税収入全体に占める消費税の割合から見れば22.1%で、イギリス22.5%、スウェーデン22.1%とほぼ同じ。ヨーロッパの税収が税率ほど高くないのは、食料品・生活必需品など広範な分野に完全非課税や軽減税率が適用されているからだ。(日本は、家賃、土地や有価証券の売買、預貯金の利子、学校の入学金・授業料・教科書代、郵便切手、介護保険サービス、医療費などは非課税だが、食料品など生活必需品への軽減税率はない。)
 それに、ヨーロッパ諸国が消費税(「付加価値税」)を取るようになったのは、帝国主義の戦争時代、戦費調達とともに、銃後を守る女性や子供・老人たちが安心して生活できるだけの社会保障が整っていないと、戦争に兵士を動員できなくなるから、といった理由から始ったのであって、戦争にともなう歴史的な背景があったことを考慮しなければならない。だから高福祉・高負担なのである。
 逆にアメリカでは、州によっては「小売り売上税」(小売店だけが顧客から預かって納める形の消費税で、他の流通段階には適用されない)を導入しているところもあるが、国税としては消費税も付加価値税もない(かつてレーガン大統領当時、税制改革案に関連して財務省は大統領に報告書を提出したことがあったが、その時、消費税の欠陥を指摘して次のように書いている。「もし、付加価値税がすべての消費購入に均一税率で適用されるならば、租税の相当部分は貧困レベル以下の人々によって担われることになる。平均的に言って、消費目的のために使われる所得の割合は、所得が増すにつれて低下するから、このような租税は逆進的である」と。その結果、大統領提案の税制改革案には、この税の導入は盛り込まれなかったという。ブッシュ大統領の時にも、その導入は見送られている。)
増税は必要だとしても、それがなぜ消費税でなければならないのか?
 消費税以外に法人税・所得税などいろんな税があるのに、増税と言えば、なぜ消費税しかないかのように言うのか。
 それは財界・富裕層にとって、その方が得だからにほかならない。法人税減税や所得税最高税率の低さや証券優遇税制などで優遇されている彼らにとっては、消費税の導入・増税で、それによって社会保障財源が賄われようになれば、自らにかかる法人税の減税など大企業・富裕層遇税制が維持できるからだ。
「社会保障と税の一体改革」と称して消費税増税、それは法人税減税のためにほかならないということなのだ。
 そもそも1989年消費税が「福祉の拡充」を掲げて初めて導入されると同時に法人税が下げられはじめ、97年消費税率が3%から5%に引き上げられとその翌年、法人税のほうはさらに引き下げられ、99年には所得税の定率減税とあいまって法人税はさらに引き下げられた。(所得税の定率減税のほうは06~07年打ち切られたが、法人税減税はそのまま。)
 消費税は社会保障財源に当てるため、といった「福祉目的税」化は、結局は、所得税や法人税など他の税は軍事費や公共事業費などに当てられ、あとは「借金返済」に注ぎ込まれるだけということになってしまう。
消費税を増税すれば社会保障の充実・安定化により、将来不安をなくすことでかえって消費は増え景気回復・経済成長にもつながっていく、というが、はたしてそうか?
 消費税増税は国民の消費を冷え込ませ(需要不足→生産・投資・雇用の連鎖的悪化を招き)、さらなる景気悪化を招き、税収を落ち込ませ、かえって財政危機を強めこそすれ、財政再建にはならない。

(2)法人税は?
 法人税(企業の利益に課税)は1980年代には40%台だったのが、99年以降30%に減税されている。
  民主党政府は、その30%をさらに25.5%に引き下げ(12年度から実施なのを震災復興のため3年間凍結して)15年度から実施することにしている。当面3年間は、震災復興財源として、引き下げた後の税率(25.5%)にその10%(2.25%)の付加税を上乗せして(28.05%)かける。(ということは、当面3年間は現行の30%から1.95%だけ減税、それ以降4年目からは4.5%が減税)

 財界とマスコミは、日本の法人税は「世界一高い」、これでは「国際競争力が損なわれる」、「工場の海外移転が増え」「海外からの投資が損なわれる」と。
 しかし、実効税率は(ヨーロッパよりは高いが)アメリカよりは低い―財界内部から(税務弘報10年1月号鼎談「あるべき税制論議」で、経団連の阿部泰久経済基盤本部長)「日本の法人税は決して高くはない」「表面税率は高いが、いろいろな政策税制あるいは減価償却から考えたら、実はそんなに高くはない。・・・・特に製造業であれば欧米並み・・・。日本の法人税負担は、税率は高いが税率を補う部分できちんと調整されている」と。実際、大企業は研究開発減税や外国税額控除をはじめとする幾多の優遇措置を受け実質的な税負担率は平均で30%程度にとどまっている。アメリカ(カリフォルニア州など)は40%で日本より高い。

 法人税だけの比較ではなく、それに社会保険料を加えた企業負担(税+社会保険料)を比べれば、日本企業の負担はドイツやフランスの企業より2・3割少ない。
 法人税を減税すれば、その分を雇用や投資に回せるというが、その保証・見込みはなく、溜め込み(内部留保-剰余金・積立金)として証券運用などに回るだけ。減税しても内部留保が増えるだけで、国際競争力にプラスにはならない。(大企業の内部留保は09年度末200兆円超で、12年間で倍増している。税の負担能力は格段に高まっているということだ。なのに、それは税金には当てられず、設備投資にも、人件費アップにも、中小企業の下請け単価アップにも当てられてはいない。)
 工場の海外移転は、必ずしも日本の法人税が高いからという理由ではなく、むしろ人件費(労働コスト)、海外市場の将来性、それに円高のほうが大きな理由なのだ。

 法人税減税で中小企業は助かるか?中小企業は一定の所得までは軽減税率(18%)が適用されるため、法人税の基本税率(30%)引き下げの恩恵はない。それに中小企業は内需低迷や大企業の下請け単価の買いたたきで赤字決算のため、そもそも法人税を払える状態ではないのだ。
 ところが、三大メガバンク(三菱UFJ・三井住友・みずほ)グループ傘下の6銀行は10年以上、法人税ゼロとして済まされている(企業は「欠損金の繰越控除」で、法人税納付に際して過去の損失を7年間繰り越して黒字と相殺することができることになっていて、不良債権処理で発生した巨額の損失を繰越すことで、課税所得が相殺されて法人税納付ゼロが続いていたため)。

(3)所得税は?
 「応能負担の原則」を踏まえた累進課税で、所得に応じて税率が高く、所得の多い人は多く納め、所得の少ない人は少なく納めるというやり方。以前(1970年代)には19段階にも分けられ、最高税率は75%(住民税と合わせると93%)だった。ところがそれが段々、段階が減らされ、98年以前は最高税率50%(住民税と合わせると65%)だったが、今では6段階、最高税率は40%(住民税を合わせて50%)に引き下げられている。つまり課税所得が195万円以下の人は5%(最低税率)、1800万円を上回れば、どんな高額所得者でも40%しか取られなくなっている。そっちの方(富裕層の所得税)を上げるべきなのでは?
 民主党政府案には、15年から最高税率40%を45%に上げることにしているが、それでは不十分。(少なくとも98年以前の最高税率65%に戻すべき。)
 「富裕層に課税を」は世界の流れ―いま、アメリカでもヨーロッパでも富裕層自身が「もっと税金をとってくれ」と言っている状況。
 社会保障は、本来は弱者支援が基本―そのための政策手段は「再分配の強化」が基本。「所得の再分配機能」をもつのは所得税の累進課税なのだから、所得税こそが社会保障財源として最も相応しいはず。ところが今は、最高税率の引き下げと段階縮減で所得再分配機能が低下してしまっている。

(4)証券優遇税制は?
 「証券優遇税制」―株式など金融資産の譲渡益・配当に対する税率20%だったのが10%に引き下げられていて、その措置を11年6月からさらに2年間延長している。

(5)相続税は?
 80年代後半のバブル景気で土地の価格が高騰し、相続税の負担が大変だとなって、減税が繰り返されてきた。(基礎控除額は80年代「2000万円+相続人1人あたり400万円」が段々と引き上げられて94年に今の「5000万円+相続人1人1000万円」となり、最高税率も80年代後半「課税対象額5億円超に70%」だったのが03年に今の「3億円超に50%」に引き下げられた。
 よほどの金持ちでなければ払わなくてもよくなっている。(相続人が配偶者と子ども2人で、遺産が8千万円以下なら課税対象額はゼロ)。
 遺産に相続税がかかっていたのは、87年には亡くなった人のうち8%いたが、09年には亡くなった人のうち4%しかいない。
 相続税収は93年度2.9兆円だったのが、12年度には1.4兆円(消費税収の1割)。
 政府・民主党は15年から基礎控除を「3000万円+相続人1人600万円」にして課税対象を増やし、最高税率も「課税対象額6億円超に55%」へと上げることにしている。
(6)ムダの削減
大型公共事業
 高速道路・新幹線の建設など、日米構造協議でアメリカの要求に応じて盛んに行われてきた。そもそも、それが財政赤字を大きくした最大の原因。
 民主党は政権公約に「コンクリートから人へ」と言ってきたはずなのに。
 八ッ場ダム本体工事
 高速道建設―新名神高速・東京外環道(「1メートル1億円」)
 整備新幹線の未着工区間
 それら凍結していた建設工事を次々再開へ、何兆円も予算化。
軍事費―「防衛費」と称して聖域扱い
 米軍への軍事費負担(4411億円)は、アメリカの同盟国27カ国が米軍のために負担した総額の半分以上を占める。
 ここにも大きなムダ。
 米軍への「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担)―そもそも条約上は日本側に支払い義務のないもの―今年も1867億円。
 米海兵隊のグアム移転費―なんで日本が払わなければならないのか?
 ミサイル防衛(BMD)―米国では迎撃実験の失敗が相次いでいる(米政府監査院の11年報告書は「目標を達成したものは一つもない」と)にもかかわらず、技術開発が不十分なまま製造しており、「迎撃するのは不可能」ともいわれている(孫崎・元防衛大教授)―そんなものに95~12年累計で1兆円。
 F35―次期戦闘機として買い入れ―重大な欠陥が指摘され完成もしていないのに。
原発推進予算―4200億円
3、「消費税増税はやむをえないとしても、その前に『ムダを削れ』『身を削れ』」と称して公務員のリストラ、議員定数の削減を言い立てる向きが多いが、
(1)公務員のリストラ・人件費削減はいいことか?
 国と地方の総支出に占める公務員の総人件費の割合は(デンマーク33.3%、アメリカ26.2%、フランス23.8%、イギリス23.5%で)、日本(15%)はOECD27ヵ国中最も少ない。
 労働力人口に占める公務員数の割合は(ノルウェー34.5%、フランス24.4%、アメリカ14.6%で)、日本(7.9%)はOECD27か国中最低なのだ。
 なのに、それを削減すれば、公共サービスはさらに低下、災害などに際しても対応しきれない人手不足に陥ることになる。
(2)議員定数の削減はいいことか? アメリカを除けば、ヨーロッパなど他国と比べて日本は最も少ないほう(削減肯定論者はとかくアメリカとだけ比べてヨーロッパとは比べない。それにアメリカは連邦国家で、州が日本の県よりも独立性が強く、独自の軍隊さえもち、上下両院の議会をもっている。その州議会議員数を考慮にいれずに、連邦議会の議員数とだけ比較してもはじまらない)。議員定数、それも比例区のほうの定数を削減すればますます、少数政党に代表される多様な民意が切り捨てられることになる。
 それに、100人減らしても70億円で、政党助成費の4分の1にも満たない。
 政党助成費(320億円)を廃止したほうがましなのだ。


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