米沢 長南の声なき声


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そもそも北朝鮮はなぜ?―孫に訊かれて(再々加筆版)
2010年12月02日

 小4の孫が「北朝鮮と日本はどういう関係になってんなや?」と訊く。
「それはな」(地図を描いて―ここに日本があって、ここが朝鮮半島、ここが中国、ここがロシア、こっちの方にアメリカがあると)
 むかし、日本は朝鮮の国(大韓民国)をのっとった。そのいきさつは色々あるんだが―ほら、今、テレビで「坂の上の雲」というのをやっているだろう?あれに日清戦争とか日露戦争とか戦争の場面が出てくる。日清戦争は日本と中国の戦争だが、朝鮮の国は中国の属国になっていた。戦いは朝鮮半島とその傍の海(黄海)でやって日本が勝った。その後の日露戦争は日本とロシアの戦争だが、戦いは朝鮮の隣の満州と日本海でやって日本が勝った。この二つの戦争をきっかけに、朝鮮は日本の属国になり、さらには完全に日本領になった(日韓併合)。日本人が朝鮮の国を治め、学校では日本語が教えられた(皇民化教育)。その後日本は中国に攻め込んで、中国軍とそれに加勢するアメリカ・ロシアなど連合国と戦争した(日中戦争・太平洋戦争)。この間、朝鮮の人々は日本人から駆り出されて戦争を手伝わされ、戦わされ、日本に連れて来られ、こき使われもした(強制連行)。
 戦いは日本が負け降参して、日本人は中国からも朝鮮からも引き上げた。
 この後、朝鮮半島には南にアメリカ軍がのりこんで来、北にロシアの軍がのりこんで来て、南にはアメリア軍を後ろ盾に韓国ができ、北に北朝鮮の国できて、国が二つに分かれてしまった。それがぶつかって戦争(朝鮮戦争)になり、アメリカは韓国に加勢して、攻め込んできた北朝鮮を押し返し、中国との国境近くに迫ると、中国が北朝鮮を加勢して押し返した。アメリカ軍は日本の飛行場や港から出動していったんだ。押したり引いたりしながらやり合ったあげく、3年目になってもうやめようということになって、戦いは打ち切られた(休戦協定)。
 その後日本は韓国とは正式に仲直りして、以前、日本がそこで人々を支配し、土地を取り上げたり、人を駆り出してこき使ったりして迷惑をかけ、惨めな思いをさせた、そのお詫びをして、埋め合わせにお金を出したりした。
 ところが、北朝鮮に対しては未だに何もしていない。だから北朝鮮の人々は日本人を恨んでいるのだろう。その国の手の者から誘拐され連れて行かれた日本人が何人もいるんだ(拉致問題)。
 それに北朝鮮はアメリカと韓国とは、戦いは休止しているが、正式に仲直りしたわけではなく、半島の真ん中を横切る線(38度線)を挟んで睨み合ったままなんだ。
 今回その線が延びている海と島で韓国軍が演習をやったのに対して、北朝鮮軍が大砲をぶっぱなして死傷者が出、何人もの家が焼け落ちた。
 それに対して韓国軍が撃ち返し、その後、黄海でアメリカ軍と韓国軍が一緒に演習をやり、ついで日本の自衛隊もアメリカ軍と一緒に、日本近海でこれまでになく大がかりな演習をやったんだ。
 こんなことやり合って、いったい、いつ治まりつくというのだろうか。へたすると朝鮮戦争が再開され、あるいは日本にもミサイルが飛んでくるかもしれない。だから撃ち返す演習をやっているってが?百発百中みんな撃ち落せるなんてあり得るの?

 何が一番問題なのかといえば、それは・・・第一、北朝鮮とアメリカ・韓国との戦争(朝鮮戦争)は休止しているものの、未だに仲直りしてないし、武器や兵器・部隊・陣地もそのまま配置していて、づうっと睨み合いを続け、互いに演習をやり合っているんだ。北朝鮮側には北朝鮮軍しかいないが韓国側にはアメリカ軍もいるし、しょっちゅう一緒に演習をやり、アメリカ軍は日本にも基地を置いていて自衛隊とも一緒に演習をしている。北朝鮮はアメリカ・韓国・日本の同盟軍に対しては、鼠と虎・猫・犬のようなもので、力は比べものになるまいが、それを少しでもカバーしようとして、核兵器とミサイルをもとうとして開発・実験を試みているわけだ。
 さっさと(平和協定を結んで)仲直りすればいいものを。
 北朝鮮のほうは、強がりは言っても内心ではびくびく、ひいひい、一日も早くプレッシャーから逃れたい一心。それに対してアメリカは、北朝鮮など、中国や日本・韓国などに比べて、貿易などつき合う相手としてはとるに足りない国で、急いで仲直りしてつき合うようにしなければならない相手ではなく、北朝鮮のほうが仲直りしたいのであれば、その前に先ずは核兵器とミサイルの開発・実験をやめるのが先で、それがないかぎりだめだといって、仲直りしようとはしない。それに対して北朝鮮はいらだつ。
 北朝鮮にとってすがるものは核兵器とミサイルしかなく、それを手放してしまったら、かつて日本が(アメリカから原爆を落とされて)兵器をすべて手放して降参し、仲直りの条件を決めるにもすべてアメリカの言いなりになるしかなかった、それと同じことになるからだろう。(日本は無条件降伏を受け入れざるを得なかった。それでも「国体護持」―天皇制の維持―だけは最後まで受け容れてもらおうとねばった。北朝鮮はアメリカに「体制の保証」を求めているのだとよくいわれるが、それは日本のあの時の「国体護持」へのこだわりと同じことだろう。)

 北朝鮮には食糧も電力・燃料・産物も乏しく、外国から買うにもお金がなく、アメリカも韓国も日本も出してくれない。
 かわいそうなのは腹をすかせ寒さに震えている子どもたちだ。
 悪いのはそもそも、いったいどこの国の誰たちなのかな。

 これが、当方の孫の質問の答えての解説なのだが、マスコミでこのような解説・論評をしているところはほとんどあるまい。マスコミは専ら「『北』の挑発」「日米韓の防衛協力」「日米同盟の重要性」「中国の責任重大」など、そればかりだ。

今の朝鮮半島をめぐる現実は
①1950年朝鮮戦争(53年休戦協定)以来、南北両軍(南にはアメリカ軍も)が対峙していて戦争未終結状態にあるということ。
②北朝鮮は、中国・ソ連が韓国と国交して以来、中ソを後ろ盾として当てに出来なくなり(パックイン・ジャーナルのコメンテータ田岡氏によれば、中国からはあたかも最小限の「生活保護」のように食糧と重油などの供与は受けているが、軍事援助は受けていないし)、圧倒的な米韓の核戦力の前に、独自の核・ミサイル開発に邁進して米韓に対抗しようとする。
 その一方、アメリカに対して戦争終結のための平和協定を早く結んで両国関係を正常化し(北朝鮮国家の維持が保証され)、不安から解放されることを望む。
③これに対して、アメリカは、北朝鮮はまず核武装を放棄することが先決だとして、平和協定・関係正常化の交渉には応じず(「戦略的忍耐」と言うが、要するに無視政策)。アメリカにとっては北朝鮮に対しては、その核開発と核拡散を何が何でも阻止することだけが関心事なのであって、平和協定・両国関係正常化などは急がず、むしろ経済制裁と軍事的プレッシャーでぎゅうぎゅう締め付けて国が崩壊するのを待っていたほうがよいとの思惑があるのだろう。
 最近のウィキリークスによって明るみに出たアメリカ国務省の外交機密電文によれば、韓国外交通商省の高官が駐韓米大使に次のように語っている。「北朝鮮はキム・ジョンイル(脳卒中などの病気が悪化すれば2015年以前に死亡するだろう)が死亡すれば2~3年以内に崩壊する(中国にそれをくい止める能力はない)」と。
 日本政府の北朝鮮に対する関心事には拉致問題があるが、米韓と同様なスタンスだろう。
④もしも北朝鮮が崩壊したら―米ダートマス大学のジェニファー・リンド助教授(12月17日付け朝日に寄稿文掲載)によれば、北朝鮮崩壊で「無秩序状態や政治的空白が生まれれば、食糧不足から数十万人が餓死するような人道上の大災害が起きる可能性があり、膨大な数の難民が発生するだろう。北朝鮮の大量破壊兵器が国際的闇市場に流れる危険性もある。内戦が国境を越えて広がるかもしれない。」「もし、中国、韓国、米国がそれぞれ単独で介入したらどうなるだろうか。人民解放軍が南下し、米国・韓国軍が北上する」すなわち「朝鮮戦争の悪夢の再来」となる。
⑤北朝鮮は核・ミサイル実験を重ねるし、日米韓はその度に経済制裁。
⑥日・米・韓・朝・中・ロ6ヵ国協議、米朝協議も重ねられてきたが、国連の安保理の非難決議や制裁措置に北朝鮮が反発して、ここしばらく中断。
⑦互いに軍事演習(米韓合同演習、日米も)―互いに軍事挑発だと非難
⑧海上軍事境界線―韓国は北寄りのラインを、北朝鮮は南寄りのラインを主張―双方が主張するラインの中で双方の漁船が操業、米韓は軍事演習、度々トラブル。
 昨年11月北朝鮮側に犠牲者
 今年3月韓国哨戒艦沈没事件(北朝鮮の魚雷攻撃によると断定的に語られているが、それに対する疑問は依然として韓国内外で提起し続けられている。)
 今回、砲撃戦(韓国軍が演習を始めようとしているのに対して「取りやめよ、さまなくば」と通告のうえ、韓国軍が予定通り開始したのに対して砲撃)
 その後、韓国軍事演習・米韓合同軍事演習・日米共同統合演習も(それを北朝鮮とそれぞれ自国民にテレビで見せ付けている)
 中国は北朝鮮に対してコメ支援、重油支援、中朝国境をまたいだ経済協力(北朝鮮側では中国による開発、中国側では工場に北朝鮮労働者を雇用)、これらによって北朝鮮に対して影響力を持つ。 
 その中国は「6ヵ国協議の首席代表の緊急会合」提案。日米韓は応じず軍事演習。
 日米の演習は中国の軍事に対するけん制のためもあり。

 日米韓側は「北朝鮮が武力挑発をやめ非核化への具体的行動をとることが先決。中国は北朝鮮にそれを働きかけるべきだ」と。
 それに対して中国は「中国に責任を押し付けている」と。

 12月2日の朝日新聞に掲載された投稿(「南北分断の哀しみ分かち合おう」)に次のようにあった。「一体誰が同じ言葉を話し、同じ文化を持つ同じ民族が住んでいた朝鮮半島を分断するという残酷なことをしたのか。北緯38度線による民族の分断を朝鮮半島の人々の誰が望んだのか、望んでいるのか」「北朝鮮による今回の砲撃事件を、南北分断の仕掛け人への憤りの表れととらえるのは間違いだろうか。」

 日本が朝鮮半島を植民地支配し、満州をも支配し、日中戦争を起こし、アメリカとも戦争をして、ソ連軍の侵入まで招いた。それが日本降伏後の朝鮮半島の米ソ分割占領・分断国家の成立を招いたのだ。

 韓国軍は、軍事演習をやって北朝鮮軍から砲撃を受けたヨンピョン島で、再度射撃訓練を行った、その際、李大統領いわく、「軍事的に対峙している分断国家が、領土防衛のために軍事訓練するのは当然のことだ」と。これに対して北朝鮮側も同じ論理で軍事的に対抗し、たえず一触即発の緊張を強いられている。朝鮮民族はこのような現実におかれているということだ。

 日本では、朝鮮半島情勢については日本による植民地支配からの歴史を抜きにして論評されることが多く、NHK・朝日などマスコミの報道と解説は極めて偏っている(北朝鮮のアナウンサーは大げさで居丈高な口調なのに引きかえ、日本のアナウンサーは穏やかな語り口調ではあるが、その内容たるや「北朝鮮の脅威」と「中国の脅威」は強調するが、相手側にとってはアメリカや日本のほうが脅威なのだということなど度外視したアン・フェアな論調)。日米韓3国の同盟も、合同軍事演習も、原子力空母も、沖縄基地も、これらを国民世論が肯定し、それらは「中国と北朝鮮から日本を守ってもらうために必要だ」という意識を植え付けるような報道がほとんどだ。
 孫よ、ごまかされて洗脳されるなよ!この調子では、戦争と植民地支配に対する痛切な反省の上に二度と戦争しないという決意のもとに制定された憲法から、ますますかけ離れ、またまた戦争にひっぱられてしまいかねないぞ。そんなことは許さん!


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