米沢 長南の声なき声


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「朝まで生テレビ」『激論!米中新冷戦時代とニッポン』を見て―安保肯定誘導(加筆版)
2010年09月06日

●司会はいつもの田原氏。
●出演者―生方氏(民主党国会議員)・下地氏(国民新党国会議員)・浅尾氏(みんなの党国会議員)・井上氏(共産党国会議員)・山口氏(元自衛官陸将・現防衛大教授)・潮氏(元自衛官・防衛庁広報誌編集長・軍事ジャーナリスト)・宋氏(中国人・日本留学・日本で「ソフトブレーン」創業)・渡部恒雄氏(東京財団上級研究員・サンプロの常連コメンテータだった)・高野氏(サンプロの常連コメンテータだった)・富坂(中国通ジャーナリスト)・村田氏(同志社大教授)
●視聴者への質問
Q1「今後、米中関係は良くなるか、悪くなるか?」
Q2「日米同盟は強化すべきか、すべきでないか?」
●潮氏の解説(アメリカ国防総省の「中国の軍事動向に関する年次報告書」要旨を解説)―海軍は、南西諸島(沖縄近海)・西太平洋への進出の動き。空母建造計画の動きも。南シナ海・南沙諸島の領有権をめぐってASEAN諸国と対立。東シナ海ガス田・尖閣諸島の領有権をめぐって日本と対立、等々。
●諸氏の発言
下地氏―中国は日本をしのぐ経済大国となりつつあるが、そもそも「軍事大国」をめざしていると。(?)渡部氏は「富国強兵」だと。
山口氏―米中の国防費は20年前は50:1だったのが、現在は10:1から6:1にもなってきているが、今の段階では未だ・・・・」。
 「『勝つこと』と『負けないこと』とは違う。アメリカの第7艦隊(それに日本の海上自衛隊も相当強い)、これに真正面から立ち向かって勝つのはどこの国も難しいが、負けないことは可能。そのためには潜水艦を展開して接近を阻み、ゲリラ戦などで抵抗するだけの戦力をもつだけでよいのだ」と。(そういえば、圧倒的な軍事力の相手に勝ちはしなくとも、負けなかったという事例は、かつて中国人民解放軍が日中戦争では日本軍に対して、朝鮮戦争ではアメリカ軍に対して負けなかったとか、ベトナム戦争ではベトナム人民はアメリカ軍に対して負けなかったとか、それにアフガニスタンでは、以前はソ連軍に対して、現在はNATO軍に対してタリバンは負けてはいないなど数々ある。)

 諸氏の発言は、「米中新冷戦」・中国脅威論には異論があったが、日米同盟については肯定論が大勢(井上氏以外、宋氏も)。

井上氏―「06年、小泉首相は『中国軍の戦力規模は世界最大だが、装備は旧式で、火力・機動力など不十分だ』と言っている。前政権も現政権も、正式には、中国は『脅威』だと言ったことはない」と。(実際、日本政府自身は中国を一度も「脅威」とは認定しておらず、むしろ、「戦略的互恵関係」にあるとしている。)
山口氏―「米中間には外交のすごいパイプがる。」「中国に対して警戒感はあっても、『脅威』とは見なしていない。中国とは良い関係をつくっていき、『敵』にしない方法―『関与』し、共有できる部分を共有するなど―を考えている。」「中国軍には、かつてのソ連(その陸軍はヨーロッパではNATO軍を圧倒していた)のような強さはなく、中国に有利な戦場はどこにもない」と。
高野氏―「『新冷戦』など起きていず、アメリカ側が出した中国の軍事動向についての指摘など『国際政治ゲーム』の域をでない」と。
田原氏―「しかし、米中の間の緊張は明らかに高まっていると思う。」「中国の中央政府は、日本のような国会や野党などがないから決定は早いが、軍に対してコントロールが危うくなってきてはいないか。戦前の日本も政府に軍を抑える力がなかったが。」
宋氏―「今の中国にはイデオロギーでの対抗意識はない。」
浅尾氏―「共産主義などのイデオロギーは薄れている、そのかわりに民衆の愛国心が政府や軍を突き動かすこともあるのでは。」
村田氏―「米ソ冷戦では、ソ連が社会主義経済圏を形成し、共産主義イデオロギーを『輸出』を志向していたのとは異なり、今の中国にはそれがない。米中は同じ資本主義の網の目に組み込まれ、経済的にかつてなく相互依存関係が深まっており、中国が日本を滅ぼしたら中国の経済は成り立たないし、米中関係も同じだ。」

田原氏―「日米安保・同盟関係は深めるべきだ。」(?)「集団的自衛権をやるか、やらないか、が日本に迫られている」(?)と。
山口氏―「そうは思わない・・・・ただ、米国への攻撃ミサイルを撃ち落すことができるか、日本防衛に向かう米艦を防護することができるか、その問題はある」と。
 「仮に理想の社会が世界にできて、中国が日本のシーレーンを守ってくれるようになれば、日本に集団的自衛権の行使を求めてくるだろう」(?)とも。富坂氏は「今は中国の船の70%を海賊から日本が守っている」(?)と。
 「アメリカは軍事費がGDPの4~5%、中国が3%に対して、日本は1%。これで自主防衛とはおこがましい」と。
 尖閣列島について「太田前知事が、そこは沖縄の一部で日本領だから自衛隊が守るべきだと言っており、(日本の施政権下にある領域に適用される)条約上、米軍も一緒に対処するものと思う」と。
(陸上自衛隊と米軍海兵隊の上陸訓練など行われているが、偶発的な事態の防止のための日中防衛当局間に協議を重ねることは必要)

生方氏―「もっと根本から考えて、冷戦構造が終わって20年も経って、その前の構造のまま同じ米軍基地を日本に置くべきなのかどうか。戦後65年も経って、外国の軍隊がずうっと日本に居続けるのがいいのかどうか、抑止力の問題も含めて我々は考えるべき時がきている。」「軍事力・軍事力というが、日本の防衛というものを考えた場合、経済力や人的交流もあるし、そういう総合的なもののなかで、日本を守るわけですから、軍事力だけで、中国が強くなったから日本も強くしなければいかん(向こうが空母をもつから日本も持たないといけない)などといったら、きりもなくエスカレートする。戦後60年、日本がやってきた外交力を活かしながら日本を守っていくということを考えないと。東アジア共同体(構想)というものはそういうことだ。」と。

井上氏―「軍事には軍事という悪循環に入っていくかたちは退けるべきだ。」「かつてはアジアにも、ヨーロッパのNATOのようにSEATO とかCENTOとかがあったが、それをやめて今はASEAN中心に平和な枠組みがつくられている。東アジアにも、そういう話し合いでやる平和的な環境をつくる外交努力を日本はもっとやらなくてはならない。」

田原氏―「日本はなんだかんだ言っても「核の傘」に守られている。」(?)
井上氏―「『核の傘』というのは、核兵器を使うことを前提にして脅すやり方だが、核兵器は使うべき兵器ではないし、また使えないものなのだ。これで脅すというやり方は、特に唯一の被爆国たる日本は絶対とるべきではない。脅すようなやり方から脱却すべきだ。」

村田氏―「軍事には軍事というやり方はよくないという、そのこと自体は間違っているとは思わないが、今この地域で中国の軍事力が急速に伸びていて軍事バランスが崩れるかもしれない、この事態に対して、中国と同じように対抗しろとは言わないけれども、バランスが変化しているのを、地域の大国として何もしないのは逆に無責任。情報や文化やなんかではカバーできないことがある。」(?)
 「日米同盟は、冷戦が終わってから刺激がなくなって、国民の間では強い支持もなければ、強い反対もなく、あって当たり前なものとして格別意識してこなかったが、鳩山さんのおかげで、ガタガタなりはしたが、『日米同盟はやっぱり無ければダメだ』と気づかせてくれた。」(?)
片山氏―「国防にたいする認識が高まっている。」(?)
田原氏―「日本は追い詰められている、ということだね。」(?)
下地氏―「日米安保に刺激が無い」というのは、沖縄に押し付けて、日本全体で考えないからで、一つのところに押し付けていたら、あとの人間は誰も考えない、というこだ。」と言いながら、「普天間は移設できなければ、いつまでも凍結されることになり、アメリカはそれを日本政府のせいだというだろう。辺野古への移設をこれまで(十何年も)できなかったのは、機動隊を入れてまで断行しようとしなかったからだ」と。

●視聴者アンケートの結果
Q1、『今後、米中関係は良くなる』が42%―理由①「経済協力が重要だから」(26件)、②「協力せざるを得ないから」(13件)
『悪くなる』が50%―理由①「覇権争いが激しくなるから」(17件)②「思想が違うから」(15件)③「中国が軍事力を拡大しているから」(9件)④「自国の利益を優先するから」(8件)⑤「中国が力をつけてきたから」(7件)⑥「中国経済が発展しているから」(7件)
Q2、『日米同盟は強化すべきだ』が65%―理由①「アメリカに頼らざるを得ないから」(34件)②「中国の脅威に対抗するため」(33件)③「日本の安全保障のため」(21件)④「今までの関係を大切にすべき」(17件)⑤「北朝鮮の脅威に対抗するため」(13件)
『すべきでない』が26%―理由①「日本はもっと自立すべきだ」(35件)②「強化してもメリットがない」(3件)③「普天間基地の問題があるから」(3件)
浅尾氏と下地氏は「『日米同盟強化』と『自立』を望んでいる人が大勢で、それ以外の人はあまりいないということだね」とコメント。田原氏は「だだ、「自立・自立」というのは「危ないね」と。生方氏は「新冷戦」という言葉は「刺激的過ぎる」とコメントしていた。

論評
●国民は、普天間問題で日米同盟は「無ければダメだ」と気づいたのではなく、むしろ、沖縄に未だに広大な米軍基地が存在して海兵隊が駐留し続けていることを知り、日米安保が未だ続いていることに気づいたということであって、基地を撤去させるべく安保は見直さなければダメだということに気づいたということだろう。それが逆に「無ければダメだ」となっているのだとすれば、それはマスコミが(この番組も)、生方氏が言うように「新冷戦」などと刺激的に書きたて言いたてるから、それが歪められてのことなのだろう。
 海兵隊については、最近米下院の民主党大物議員バーニー・フランク氏が、それはジョンウェインの映画に残った65年前の戦争の遺物にすぎず、「1万5,000人の海兵隊が中国本土に上陸して、数百万人の中国軍と戦うことはないだろう」と。
●「激論」するなら、我々国民の生活(日々の暮らしに関わる貿易・国際経済)を営む上で危機・不安・閉塞感をどう打開するかであり、そのために日中関係・日米関係・世界の諸国との関係にどう対応すべきか、をこそ議論すべきなのである。
 生活・貿易・経済の危機・不安を解決するのに、日米同盟や自主防衛など軍事対応
強化など必要なのか。
 日米同盟の下で、アメリカに追従して世界第2の経済大国・「豊な国」を謳歌してきた旧来の安保体制をひたすら守るだけの後ろ向きの議論でよいのか。
 中国脅威論はアメリカによる中国への軍事的けん制であり、日米同盟を維持・強化する口実で、日米同盟を合理化するものにほかならないのでは。
 日米同盟に代わる外交・安全保障戦略を考える時期に来ている、そこをこそ議論すべき時なのではないか。
●そもそも我々日本国民にとって脅威とは
①広島・長崎市民をはじめとする核兵器の脅威―それは北朝鮮の核や中国の核だけでなく、アメリカをはじめとするすべての核保有国の核(一方の核は攻撃用だから禁止すべきで、他方のそれは防御用だから大丈夫だなどという区別はありえない)。
②沖縄をはじめとする基地住民にとって、日々危険・被害にさらされ、生活がおびやかされている、その脅威。
③軍事費(5兆円)の重圧―財政危機をよそに「思いやり予算」を含めた駐留米軍経費負担(年間6,000億円)―ヨーロッパ諸国もアメリカも軍事費は削減・節約しているのに、日本だけむしろ増額。
 我々日本国民にとっては、それらこそが脅威・重圧。
●北朝鮮や中国が今にも攻めてこようとしている、そんな危機・脅威はありえない。むしろ、北朝鮮のほうがアメリカ・日本・韓国の圧倒的な軍事力の脅威に脅え、経済制裁に苦しんでいる毎日なのだろう。
 「北朝鮮の脅威」なるものだが、防衛省に近いシンクタンク(平和・安全保障研究所)の07年の報告書によれば、「かつての朝鮮戦争のような大規模全面侵攻が勃発する蓋然性は高くない」という。
 ペリー元米国防長官は「北朝鮮は、核兵器使用は自殺行為であることをよく理解している。」「実際の脅威は核攻撃ではなく、体制崩壊にともなう核の流出だ」と。
 また、ある専門家によれば、「仮に北朝鮮が崩壊しても、避難民の流出先は韓国や中国であり、海を越えて大量に日本に押し寄せるとは考えられない」と。
 軍事的圧力・経済的制裁圧力でこの国を追いつめ、「窮鼠猫をも噛む」の暴発を招くようなことだけは避けなければならないだろう。(哨戒艦沈没事件を米日韓3国は、北朝鮮軍による魚雷攻撃によるものだと決め付け、米韓合同軍事演習―田原氏は、これに日本の自衛隊も参加を申し入れたが、韓国から拒否され、結果的にオブザーバー参加になったとのことだという。しかし、北朝鮮魚雷攻撃説には多くの疑問点が指摘されていて、韓国の要請で検証にあたったロシア調査団は「明確な沈没原因を得ることはできなかった」としている。)
 北朝鮮が追い詰められているということはあっても、日本が「追い詰められている」などということはあり得まい。
 危ないのは追い詰められた北朝鮮が自暴自棄的に核ミサイル攻撃に走るということであり、それにはどんなに圧倒的なアメリカの核抑止力であっても、自爆テロの抑止には効きめがないのと同じく、その抑止は効かないということであり、それこそが危険なのだ。
 自暴自棄、それはかつて日本人が戦争末期にしかかったあの「一億玉砕」の悪夢と同じだろう。

●自国の2都市に原爆を落とされて数多の市民が殺された、その国の「核の傘」で中国や北朝鮮の「脅威」から守ってもらっているとひたすら信じている政府とマスコミ・識者・評論家と国民がいることが不可解でならない。
 また、太平洋戦争末期、日本で唯一の地上戦場になって数多の島民が日本軍の巻き添えにされて命を落とした、そこへ上陸し、占拠した土地を基地にして未だに居座っている米軍海兵隊、彼らから日本を守ってもらっているとひたすら信じている政府とマスコミ・識者・国民がいることが不可解でならない。まるで認知症みたいなものではないか。(それらを不可解と思う方が認知症だと彼らは言うのだろうが)いずれにせよ、国家の品格の失墜・堕落の極みだ・・・と言ったら言いすぎだろうか。
 目的は安全保障なのであるが、目的のためには適切な手段を選ばなければならず、道義・信義・人道にもとるものであってはならず、用いるものは経済・文化交流(それによって信頼醸成・相利共生)と外交(対話・交渉・説得)でなければならず、武力は正当防衛以外には用いない。とりわけ核兵器のような「悪魔の兵器」ともいうべき無差別殺傷残虐兵器は同盟国のものであろうと、自前のものであろうと絶対利用しない。
 これこそが、遠くない過去に自ら招いた未曽有の戦争の惨禍を反省して得た教訓から制定した日本国憲法が我が国に課している大原則なのである。この原則に立ち返ってこそ、我が国家・民族の品格(国際的名誉・信頼の源泉)をとり戻すことができる。名誉と信頼の獲得、それこそが何よりの国益なのであって、その喪失・堕落は国益にとっての大損失なのだ。


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