鳩山首相は退陣の弁で「米国に依存し続ける安全保障が50 年、100年続いていいとは思わない」「日本の平和を日本人自身で作り上げていく」と、その「思い」を述べている。しかし「思い」だけで終わらせてならないのだ。
鳩山氏は、その後(6月11日、BS朝日の番組で)「反省の弁」。いわく「アメリカは辺野古で非常に固かった。外務省も防衛省も今までの経緯があるものだから、『最後はここ(辺野古)しかないぞ』という思いがあった。」「(県外移転には米国だけでなく、外務・防衛両省とも非協力的であった。)本当は、みんな説得するぐらいの肝が据わってなきゃならなかった」(もっとリーダー・シップがあれば)と。しかし、鳩山首相が決断した閣議決定に自分も署名した菅氏は、後継首相に指名されると早々にオバマ大統領と電話会談をして「日米合意」の継続を約束、関係閣僚(外務・防衛・沖縄担当大臣)を留任させ、所信表明演説では「日米合意を踏まえつつ、同時に沖縄の負担軽減に尽力する覚悟」、「外交・安全保障は今後も日米同盟を機軸とし、日米同盟関係を深化させる」と言いきった。
一方、世論のほうは、5月31日発表の世論調査では、鳩山首相が(辺野古移設を日米合意して)決めた政府方針を「評価する」が27%、それに対して「評価しない」が57%であった。ところが菅首相就任後、6月10日発表の世論調査(いずれも朝日新聞)では、新首相の「日米合意を踏まえての対応」を「評価する」が49%、「評価しない」が26%。首相が変わっただけで、辺野古移設の基本方針は変わりないのに、それに対して「評価する」が「しない」を上回り、逆転してしまっているのだ。「世論も世論だ」ということか?
しかし、沖縄の世論は5月31日発表の世論調査(琉球新報と毎日新聞の合同調査)では辺野古移設に賛成6.3%に対して反対が84.1%であり、日米安保については「維持すべきだ」が7.3%だけ(「平和友好条約に改めるべきだ」が54.7%、「破棄すべきだ」が13.6%、「多国間安保条約に改めるべきだ」が9.7%)。首相が菅氏に替わったからといって、それが逆転するなどということはあり得るだろうか。
マス・メディアの立つ位置を見ると、朝日など主要メディアは、日米同盟はもとより、海兵隊の「抑止力」も肯定。朝日は昨年12月29日の社説で「日本防衛や地域の安定のため海兵隊が担ってきた抑止力は何らかの形で補う必要がある」と書いており、その後にわたって「(沖縄県民の基地負担)分かち合いの必要を全国民に訴える」など県外移設論にとどまり、無条件撤去・国外移設は問題外というスタンス。全国紙に対して「琉球新報」や「沖縄タイムス」などの地方紙は「抑止力」論を批判している。
消費税増税も、朝日などはかねがね社説でそれを促しており、同紙が行った6月14日発表の世論調査では消費税増税に賛成が49%で、反対44%を上回っている。
このようなマス・メディアの世論誘導があるわけである。
ジャーナリズムには権力チェックの役割と中立性の原則というものがあるが、営利企業でもある新聞社や放送局はもとより、「公共放送」といわれるNHKにしても、あらゆる人々にたいして公正・中立かといえば、それはありえない。多様な興味・関心・要求・意見をもつ人々のうち、その多数派に照準を合わせ、かれらの意に沿った論調を展開する。多数派といえば、前政権の自民党と新政権の民主党のどちらかで、このところの「小鳩政権」批判など民主党に対して厳しい論調が続いているのに反発して、「政権が替わったのに、マスコミは政権交代をしていない」といってメディア批判をする向きもあるが、朝日など主要メディアは、いずれにしても基本政策に共通点の多い自民・民主「二大政党制」肯定の立場で、そのどっちかであればよく、少数派にとっては公正・中立でもなんでもないわけである。
このような主要メディアからは、普天間基地問題でも「無条件撤去」論が(沖縄県民の間ではそれへの支持が一番多いのに)取り上げられることはほとんどなく、「安保反対」論が取り上げられることもほとんどない。それに「消費税増税反対」論が取り上げられることもいたって少ない。
これが日本のマスコミなのだ。