米沢 長南の声なき声


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普天間基地問題(加筆版)
2010年03月30日

在日アメリカ軍、全体で4万人前後。
その内、海兵隊1万4,400人
    空軍 1万2,750人
    第7艦隊 6,850人
    陸軍   2,580人
    海軍   3,700人
米軍基地の数85ヵ所、総面積307平方キロ、その4分の3は沖縄に。
 沖縄駐留人数は1万2,000人
普天間基地は現在、宜野湾市のど真ん中にあり、全市面積の26%を占める。
 この基地に所属する部隊―ヘリコプターを中心とする海兵隊の航空部隊、2つの防空ミサイル部隊、特殊作戦部隊など、人員―軍人・軍属3,700人、日本人従業員207人
 常駐航空機―ヘリコプター56機、固定翼機15機など

 03年、沖縄視察に来たラムズフェルド当時米国防長官は「まるで占領の継続だ」と。
とりわけ普天間基地は「世界一危険」と言われている。 
 そのような普天間のアメリカ海兵隊はどうしても(沖縄県内の他の場所か県外、日本のどこかに「代替地」を探し、「移設」して)居続けてもらわなければならないのか?普天間基地は、「とにかく(無条件)撤去]ではだめなのか?

海兵隊基地必要論
 日本を外敵から守ってもらうために、またアジア太平洋地域の安定のためにも脅威(北朝鮮・中国など)に対する「抑止力」として居続けてもらわなければならない。それに、アメリカにとって戦略上、地政学的位置からしてそこに基地を必要としており、そのアメリカとの同盟関係、その信頼をつなぎとめる(アメリカの機嫌を損なわないようにする)ために基地提供は維持し続けなければならない、と。
 朝日新聞の論調
09.12.16社説「(在沖海兵隊は)日本防衛とともに、この地域の安定を保ち、潜在的な脅威を抑止する役割をもつ」。
09.12.29社説「日本の防衛や地域の安定のため、沖縄の海兵隊が担ってきた抑止力は何らかの形で補う必要がある」。
10.1.19社説「核やミサイル開発を続ける北朝鮮の脅威や台頭する中国の存在を考えれば、安保体制の与える『安心感』が幅広く共有されている」。
3月5日社説「北朝鮮の脅威や軍事大国化する中国の存在を考えれば、今ただちに海兵隊すべてをグアムに移すわけにはいかない」など。
 NHKなど日本の主要メディアは、外務省やアメリカの「知日派」の発言―普天間基地の当初の(名護市反野古沿岸部への)移設計画変更は「日米合意・国際公約に反する」「アメリカは怒っている」といった言説―を鵜呑みにしたかのようなアメリカ寄りの論調で報じている。
 拓殖大学の川上高司教授は「日本の周辺に軍事的脅威がある限り」それは必要だとして、「中国軍の台湾上陸への対処」、「北朝鮮の韓国侵攻への対処」、「尖閣諸島・先島諸島など離島防衛」、「アジア太平洋地域の災害救援」などの事態を挙げている。(但し、同教授は、航続距離の長い垂直離着陸輸送機MV22「オスプレイ」や高速輸送艇など軍事技術の進歩で、沖縄にいるのと大差なく部隊を運べるようになる可能性が高いとも指摘している。)

さて、はたしてどうなのだろうか。
そもそも海兵隊というものは
 それは、本来「遠征軍」であり、前線基地はいらないはず。元防衛庁在職・内閣官房副長官補だった柳沢協二氏(現、防衛研究所特別客員研究員)によれば、それは「いつでも、世界のどこへでも出動する。特定地域の防衛に張り付くような軍種ではない。したがって『沖縄かグアムか』という問いには軍事的正解はない。(現に、いまイラクとアフガンでの戦闘に派遣され不在なことが多い―引用者)」「『海兵隊の抑止力』という考え方の本質的な意味は『いざとなったら海兵隊を使う』ということ。例えば、中国が台湾に侵攻した場合、海兵隊を投入すれば、米中は本格的衝突になり、核使用に至るエスカレーション・ラダー(緊張激化のはしご)も動き出すかもしれない。」要するに、それは中国と台湾の戦争を抑止するどころか、米中戦争への発展にさえつながる、その動因ともなる、ということだろう。(氏は「米国にとってそれは正しい選択なのか。日本は国内基地からの出撃に事前協議でイエスと言うのか」と指摘している。)
 また、軍事評論家の田岡氏(朝日ニュースターの討論番組「パックイン・ジャーナル」のコメンテータ)によれば、在沖海兵隊の任務は日本防衛ではなく、東アジアでの緊急事態への即応部隊なのであって、ソウルとか上海とかシンガポールなどで、万一動乱が起きたりした時に、在留邦人・外国人を救出するために現地に派遣され「強襲上陸作戦」にあたるのが主たる任務。そのさい、救出する優先順位は、一に米国人、二番目にグリーン・カード(米国永住権)を持つ人々、三番目にイギリス人やオーストラリア人などアングロサクソン系の人々、四番目にその他の人々で、日本人はその他の部類になっているとのこと。けっして「日本人を守るための海兵隊」と言えるような代物ではないわけだ。
 そもそも米国政府は海兵隊が「日本防衛のための抑止力だ」といったことはないのだという。
 1982年、ワインバーガー当時米国防長官は(上院歳出委員会で)「沖縄の海兵隊は日本の防衛に当てられていない」と証言しており、91年にはチェイニー当時米国防長官は(下院予算委員会で)「世界的な役割を果たす戦力投射部隊」と証言している。
 最近では、3月17日にドノバン米国務副次官補が(下院外交委員会の小委員会の公聴会で)、中国脅威論に対して「日本は中国の台頭によって脅かされてはいない」と証言。
 米外交問題評議会のスミス上級研究員は「米軍は受入れ国とその国民の求めに応じて奉仕しているのであって、もし海兵隊の撤去を求められれば、海兵隊は出ていく必要がある」と指摘。

 在日海兵隊は、もともと朝鮮戦争の後方支援部隊として、本土の静岡や山梨・岐阜などに駐留。それが各地住民の反対運動の高まりで、50年代の後半に、未だ本土復帰せず米軍統治下にあった沖縄に移転・集中することになったもの。

それでは、そもそも普天間基地は
 1945年3月下旬、米軍が沖縄に上陸、地上戦を開始、6月、日本本土を攻撃するために基地建設―宜野湾村の住民を収容所に押し込めている間に、土地・農地を奪って村の中心部(役場や学校があった場所)を基地に変えてしまった。―これは戦時国際法(ハーグ陸戦法規)で、戦闘状態の中で民衆の財産を侵害することを禁じた条項に違反。
 その普天間基地は、本土各地に駐留していた海兵隊の沖縄移転にともなって、54年「銃剣とブルドーザー」で周辺住民を排除して、さらに拡張。

95年、海兵隊兵士による少女暴行事件
96年4月普天間返還合意。ところが12月SACO(沖縄に関する特別行動委員会)合意で普天間基地の「県内たらい回し」の方向に。
02年名護市反野古沖(埋め立て)合意
04年、沖縄国際大学、米軍ヘリ墜落事件
05年、反野古沿岸部に再修正合意(V字型滑走路など新基地建設案)
06年、在日米軍再編のロードマップ(工程表)に合意(普天間基地の反野古沿岸部への新基地建設移設とともに、海兵隊8,000人のグアム移転(但し、日本政府は公式に「1万人の戦闘部隊を残す」と言っており、現実に減らすのは2,000人程度)、嘉手納基地以南の米軍施設の全面返還も)。

普天間「移設なしの全面返還」(無条件撤去)論
 2月末、沖縄県議会は普天間飛行場「早期閉鎖・返還」を決議。
 田中均元外務省審議官は(橋本内閣当時、96年12月のSACO合意で普天間基地の県内「たらい回し」策を推進した中心人物なのだが)、沖縄県民の持続する反対意志の強さと国際環境の変化を理由に、「移設なしの全面返還を可能にする条件は何かについて、もう一回米国と話しをするべきだと思う」と述べている、という。

最善の選択肢は 
 普天間基地の沖縄県内の他の場所か他県への「移設返還」と「移設なしの無条件返還」(グアムなど国外への移設)のどちらのデメリットが大きく、どちらが難しいか。
 ポイントは①「沖縄県民の負担軽減」と②「抑止力の維持」、これら2点その他③「アメリカとの友好関係の維持」など諸点を総合して、どちらのデメリットが大きいかだ。
 ①「負担」とは基地があることによって被る迷惑・危険・損害・損失のこと。その点ではどうか。
 日本での米軍事件・事故は52年4月~09年3月までで20万6,805件(施政権返還以前の沖縄の分は含まず)。被害にあって死亡した日本人は1,084人。
 ②「抑止力」とは、「平和な生活が守られる」という「安全保障」。その点ではどうか。普天間にいた海兵隊から居なくなられると日本の防衛およびアジア太平洋地域の安定にどれほど支障を来たすというのだろうか。
 ③「アメリカとの友好関係維持」の点ではどうか。
 
 そもそも「移設」と「無条件返還」とで、どちらが難しいかだ。「移設」は、名護市反野古沿岸部(現行案)にしろ、名護市のキャンプ・シュワブ陸上部(ヘリポート増設)・徳之島(訓練施設)などへの基地機能の分散移設と「うるま市」のホワイト・ビーチ沖(埋め立て新基地建設)への2段階移設案にしろ、長崎県の大村・海上自衛隊基地への移設案にしろ、「広く国民の間で基地負担を分かち合う」といっても、「移設先」候補地の地元自治体はどこも首長は反対を表明し、議会は反対決議をしている。それらを押し切って移設・新基地建設を強行することは不可能であり、説得も難しく、移設先を沖縄県内にしろ県外にしろ日本のどこを探しても八方ふさがりとなる。
 それに対して「移設なしの無条件返還」という場合は、とにかく普天間基地を撤去するということであり、移設するなら日本領外・アメリカ領のどこかへということなのであって、その移設先(グアム島であれテニアン島であれハワイであれ)を考えるのは日本政府ではなく、アメリカ政府が考えるべきこと。それでアメリカにとって不都合が生じることになるとしても、それは到底受け入れ難い不都合なのか、日本側(とりわけ普天間基地住民・沖縄県民)の不都合に比べてどうなのかだ。
 アメリカの都合の中には、軍部などの考える戦略上の都合の他に、経費節減すなわち基地経費を日本政府から負担してもらえるので、基地は日本に置いた方が安上がりだというアメリカにとってのメリットもあるわけだ。(「思いやり予算」2,000億円前後、その他、民有地の借り上げ料、税金の減免など、5,382億円―それは他のアメリカ同盟国26ヵ国を合わせた分より多い)。
 このようなアメリカの都合と沖縄県民・基地住民の都合のどちらを優先するか。
 アメリカに普天間の海兵隊を引き上げてもらって、その基地を撤去すると、アメリカとの同盟関係に決定的にひびが入り、友好関係が崩れるなどということに、はたしてなるのだろうか?基地を全面撤去したフィリピン(交渉では、フィリピン側が基地撤去の話しをもちかけたのに対して、アメリカ側―交渉団長アーミテージ国防次官補―が「激怒」し、「会談決裂」等あったが、フィリピン上院は基地存続の条約批准を毅然として否決した。その後、それで両国の外交関係は決裂するどころか、非軍事の協力関係はむしろ発展している)をはじめ他のアメリカ同盟国で、基地を撤去・縮小してアメリカと関係を断絶したり悪化した国などあるだろうか。

 また普天間のアメリカ海兵隊から居なくなられると、「抑止力」が低下して、日本国民も、アジア太平洋地域の諸国民も、そんなに危うくなるのだろうか。中国にしても北朝鮮にしても、自ら被るリスク・不利益をかえりみずに、向こうから攻撃をしかけてくるなどということがあるのだろうか。北朝鮮の場合は、制裁によって追い詰められて苦し紛れに「破れかぶれ」の自爆的攻撃にはしる可能性がなくはないが、そのような理性を失した相手に対しては、どっちみち抑止力は効かない。(そもそも抑止力とは、へたに攻撃をしかけたりしたら、それを上まわる報復攻撃をこうむり、かえってひどい目にあうに違いないと相手に意識させることによって、攻撃を思いとどまらせる軍事力を備えることであるが、いかに圧倒的な軍事力を備えていても、自爆テロには通用しないのと同じである。)
 これらのことを勘案すれば普天間基地は「移設なしの返還」即ち無条件撤去が最善の選択肢だというほかあるまい。

 いま、鳩山政権は、この問題で「迷走している」。他の失点・無策とも重なり、「政権にとって命とりになるかもしれない」「さあ、鳩山政権はどうなるか」などと批評ばかりしていたり、他人事か高見の見物をきめこんでいる場合ではない。沖縄・普天間の住民の身になって声をあげなければならない。「鳩山さん、普天間は即時閉鎖・撤去されるよう決断して下さい!」と。
 


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