米沢 長南の声なき声


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総選挙の結果を見て思ったこと      
2009年09月05日

 結果は民主党の圧勝、自公政権党の惨敗、政権交代実現ということになった。
有権者は一体どんなつもりで投票したのか
 あるテレビ局の報道番組(テレビ朝日の「サンデー・モーニング」だったか)によれば、アンケートで「マニフェストを見て」が35%、「政権交代を望んで」が33%で、「人柄」14%、「実績」13%、「支持団体」、「党首」が数パーセントだった。
 しかし、各党のマニフェストをじっくり読み比べて投票した人はそんなにいたのだろうか。(我が家では、隠居して暇な私は新聞・インターネットで読み比べはしているが、他の者はとても・・・)
 各党ともマニフェストには国民ウケする事柄をあれこれと羅列している。それをいちいち検討する暇など一般庶民にはそんなにあるとは思えない。ただ、それぞれの党にとっては、単なる作文・空約束ではなく、公約(国民との契約文書)としてそれをいったん公表したからには、そのマニフェストを軽視するわけにはいかないわけだ。

 それにしても、今回の総選挙は、「マニフェスト選挙」というよりは「政権交代選挙」
 国民は自公政権によほど嫌気をさしていたことは確かだ。かといって、民主党のマニフェストを評価し、その政策を積極的に支持して投票したのかといえば、必ずしもそうではなく、とにかく「政権交代だ」という一心から、とりあえずは、自民党の対抗馬として野党の中では最も優勢な民主党に(この党には多々疑問や不安をもつ人々の中からも、何はともあれ「一度やらせてみよう」といった思いから)自公政権批判票が集中したものと思われる、というのが大方の見方。

 かねてより、マスコミによる「二大政党制」正当化論の喧伝があり、世論調査・支持率発表を重ねるごとに、そのアナウンス効果(なびき寄せ・世論誘導)によって自民・民主が「二大政党」として突出、選挙では「小選挙区制効果」によって自民・民主「二大政党」の一方に議席が大幅に水増し(増幅)される。前回は小泉自民党により大きく増幅されたが、今回は民主党のほうに大きく雪崩をうち、他の少数野党はそれに埋没した感が否めない。それに今回は、自民党支持層の2割もが民主党に回ったといわれる。とにかく民主党の「一人勝ち」なのである。(単独で、過半数を大幅に上回り、選挙協力を結んで連立与党となる社民・国民新党などの議席を合わせれば3分の2に迫る。)

 しかし、民主党とはどんな政党かといえば、そもそも、かつての自民党・社会党・民社党などから離合集散を重ねてできた党であり、思想的・体質的に異質なグループ(保守派・タカ派・改憲派とそれに対するリベラル派・ハト派・護憲派)の「寄り合い所帯」なのだ。
 (朝日・東大共同調査によれば)民主党の今回の当選者のうち改憲に賛成な者が(「どちらかといえば賛成」と合わせて)46%いるのである。(自民党には95%)。
この点で党内がバラバラという心配があるが、政権にありついたことで、その求心力がものをいうようになって、政権の座にある間はまとまりが維持され、自己改革も行われるだろう。
 民主党は「友愛社会」「市民が主役」をキャッチフレーズに、「民主中道」「情報公開と説明責任の徹底」を標榜しているが、はたして如何に?

 一方、自民党のほうは、今回の総選挙では、「『安心社会実現』『責任力』などとよくもいえたものだ」と見透かされ、最後の「悪あがき」まで見せ付けて民主党に対するネガティブキャンペーン作戦に出たものの、それはかえって逆効果を呼んで大敗を喫し、政権を失った。支持基盤も失い、今後分裂の可能性が強い。
 分裂した一部が、民主党の側にくっついて連立に加わることもあり得るが、いずれにしても、自民党は変わらざるをえなくなる。それが、自己改革―「若返り」―によって、「二大政党」の党としてうまく再生するのか、それとも?

 それから、少数野党はどうなるのか。社民・国民新は連立与党として存在感を持ちえるが、公明党と共産党はどうなるのだろうか。とりわけ、共産党はこのところ、「蟹工船ブーム」など「追い風」があって党勢拡大の兆しもあっただけに一人ぐらい伸ばせなかったものか、現状維持にとどまったのは一体どうしたことだろう。共産党は「建設的野党」を標榜して、民主党政権に対して是々非々で対応するとはしているが、それは自公とても民主党に対して「なんでも反対」というわけにはいくまいと思っているだろう。
 少数野党も、今後「二大政党」以上に、自己改革と支持拡大にやっきとなって取り組まなければなるまい。万年少数野党に甘んじていては、自民党長期政権が飽きられたのと同じように飽きられてしまいかねず、新聞・テレビに出ることも少なく、存在感が乏しくなるばかり、といったことになりかねない。

 いまや激動期、政党間の競争は一段と熾烈なものとなっていくだろう。これまで自民党がやってきたような業界・地縁・血縁に依拠した利益誘導型の政治、或は反共イデオロギー政治も、もはや通用しなくなっているといわれ、「市民」(勤労生活者・納税者・消費者)の要求に依拠し、市民とともに活動する新たな政党のあり方に自己改革が迫られることになる。
 公明党は長らく自民党に自分を合わせて、もちつもたれつの関係を続けてきたあげくの果てに、共に惨敗を喫したが、これからはどの方向にむかうのか。「福祉と平和の党」としての原点に戻れるのかが問われる。
 早稲田大学政治学の斉藤純一教授によれば「市民は政治への感度を確実に高めつつある」という。
 各党とも、それぞれブランド・イメージのアップに精一杯努め、自己改革を模索するだろう。

 民主党のマニフェストは(朝日新聞の世論調査などでは、同党の政策への評価は「驚くほど低い。期待半分、不安半分」というところのようであるが)実行・実現できれば「たいしたものだ」と思われるものも幾つかある。
 「脱官僚依存」、内需主導型経済への転換、企業・団体献金の禁止、政官財の癒着断ち切り、利益誘導型政治からの脱却、官僚の天下り根絶など。
 それに、総選挙前に民社国3党で合意していた次のような共通政策
・消費税率の据え置き
・郵政民営化の抜本的見直し
・労働者派遣法の抜本改正(登録型派遣と製造業派遣の原則禁止)
・子ども手当ての創設、高校教育の実質無償化、給付型奨学金制度
・後期高齢者医療制度・障害者自立支援法の廃止
・農家への戸別所得補償制度
・中小企業への貸し渋り・貸しはがし防止法
・生活保護の母子加算の復活
 これらはいいが、まずいのは国会議員の削減(衆院比例定数80人削減)。これを自民党と組んで強行可決をしかねないことだ。
 それに、これまた自民党と組んで、改憲への審査会始動に取り掛かろうとすること、このことも警戒・阻止しなければならない事柄だろう。
 改憲については、(朝日・東大共同調査によれば)今回の選挙の当選者のうち、改憲に賛成の議員は(「どちらかといえば賛成」をも合わせて)自民・民主両方で59%―総員の3分の2には下回っている。「新憲法制定議員同盟」(会長・中曽根元首相、鳩山民主党代表は顧問)所属の衆院議員は53人で、解散前の08年3月時点139人からは激減している。
 消費税については、この4年間の間は上げないことにはなったが、それを過ぎたら上げるということにもなる。
 消費税の増税に無条件に反対なのは、国会では共産党など少数野党だけで、民主党政権が時を見て消費税増税の断行に踏み切るのには容易な国会状況になっている。それを阻止するのは共産党の孤軍奮闘しかなく、極めて難しいことになる。

 国会議員の比例定数が削減されれば、少数野党は国会からしめだされ、二大政党だけの談合で、庶民増税も改憲も、何もかも簡単に決まってしまうことになる。民主党が自民党とともにマニフェストに掲げているこの国会議員削減公約には猛反対して阻止しなければなるまい。財政(税金)節約のためだからといって、教員も警察官もハローワーク職員・労働基準局職員などの公務員も、人員削減すればよい、というものではないだろう。

 安全保障については、自衛隊の海外派兵、米軍への軍事協力をどうするのか。給油艦のインド洋派遣打ち切りは断行できるか。「思いやり予算」など止めることはできないのか。「核廃絶の先頭に立つ」「北東アジアの非核化を目指す」というが、具体的に何をやってくれるのだろうか。

 とにかく自公政権のままでは絶望だけだったろうが、新政権でははたして如何なることに?
 来年夏の参議院選挙で再び試され、審判が下される。


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