米沢 長南の声なき声


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すり込み―政権党とマスコミによる(加筆修正版)
2009年08月14日

 そもそもマスコミの報道は、「民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである」とされる(中央大学法学部教授の塚本三夫氏)。そのマスコミは中立・公正・自立を旨とする。
 ところが、現実のマスコミは、時の政府与党の主義・主張に反する(それが「国益」に反することにされ)そのような報道・論説はなかなかできないようになっている。
 NHKは、その予算は国会の承認を得なければならないのだが、それを前にその予算案は政府与党の総務会・政調会などの審議にかけられる(NHK会長以下の出席のもとで)。そのため、陰に陽に政権党政治家の介入・圧力を受け、「自主規制」が働くのである。
 01年1月放送のNHK教育の番組(慰安婦問題を扱ったETV特集)に安倍・当時の官房副長官が編集に介入していたことが問題となった(『番組改変事件』)。
 06年10月、菅・当時の総務大臣がNHKラジオ国際放送で北朝鮮による拉致問題を重点的に取り上げるよう「命令」を下している。このようなNHKには「権力迎合体質」がつきまとう。
 一方、民放や商業新聞・週・月刊誌などはどうか。
 政権党とは、国民から最多支持を受けて政権にありついている政党なわけだが、商業マスコミは、収益をあげるために、よりたくさんの視聴率・購読者をとれるように努め、政権を支持している多数派からウケる、彼らの好み(支持政党の主義・主張)にそくした報道・論説をしようとする、そういうものなのだ。

 そして、政権党とマスコミ、それらの背後には財界・大企業の存在がある。
 政権党は企業献金をうけており、マスコミは大企業をスポンサーにしている。
政権党は財界・大企業の意に沿った政策をおこない、マスコミも彼らの意に沿った報道・論説をする。その意に反する報道・論説をしようものなら危ういことになりかねない。昨年11月、トヨタの奥田相談役が、首相官邸で開かれた「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」で、マスコミの厚労省批判報道について、「腹立っているんですよ。・・・年金の話とか、厚労省に関する問題についてワンワンやっている。・・・報復でもしてやろうか。スポンサーを引くとか」などと発言したりしているのだ。

 大企業にとっては、法人税など企業減税をして、庶民が払う消費税のほうを増税したほうが得であり(中小零細企業は消費税分を価格に転嫁できず自腹を切らなければならないが、大企業は消費税分をすべて価格に上乗せして自己負担ゼロにできるといった都合のよさもあり)、その営業・企業活動には規制緩和・民営化政策が有利で、軍事産業・兵器関連企業にとっては日米軍事同盟と自衛隊を維持・強化してもらったほうが有利なのだ。そして、これらの政策を国会で通しやすくするためには、小選挙区制とそこで選ばれた二大政党だけの談合で決められるシステムである二大政党制にしたほうが有利なわけ。政権党とマスコミは、こうした財界・大企業の意向を受けているのだ。
 これらの政策・宣伝は政権党とマスコミによって国民にすり込まれているわけである。(商品のコマーシャルのように毎日、何回も繰り返されると、「そういうものか」と脳裏に焼きついてしまうのだ。)

<国民が脳に刷り込まれ(思い込まされ)てきたもの>
1、小選挙区制と二大政党制が一番よいと。
 それはアメリカとイギリス―「民主主義が最も進んでいる国」―のやり方だと。
(ところがイギリスでは国民の間で第三政党の必要性と比例代表制への改変を望む声が強まっており、アメリカでも二大政党制を批判し、第三政党の必要性を訴える向きが増えてきているのに。)
 国会議員定数―「多すぎる」―国家財政の節減のため国会が「自身の身を削る」というのはもっともなことだと。(実は、国会議員は必ずしも「多すぎる」というわけではないし、比例代表議員を削減すれば、国民の多様な立場を代表する少数諸政党の議員が当選する余地がなくなり、二大勢力に政治が独占されてしまうことになるというのに。)
 経団連会長ら財界とマスコミ各社の幹部・有識者などでつくる「新しい日本をつくる国民会議」(「21世紀臨調」)は「自民か民主か」の政権選択選挙キャンペーンを展開、自民・民主両党だけの党首討論やマニフェスト評価を行い、マスコミはそれを大々的に報道している。こうして世論誘導・「刷り込み」がおこなわれるのだ。

2、日米同盟は我が国の外交・安全保障の「基軸」、堅持するのは当然のことだと。
中国・北朝鮮は「脅威」、ロシアも依然「脅威」、さらには「テロの脅威」もあると。(依然として冷戦思考―仮想敵国視から抜け出せないで、「脅威」を煽っている。21世紀の新しい時代思考が必要なのに。麻生首相は北朝鮮による「侵略」とまで発言―8月6日夜のTBS系テレビの6党党首討論で。その他の場でも事ある毎に「北朝鮮の脅威から日本を守らなければならない。日本を守るのは自由民主党だ」と。「敵国」をつくって、国内の矛盾や国民の不満を外にそらし、愛国心をかりたてる―日本に限らず他の国にも見られた、為政者がよく使う手。)
「アメリカから守ってもらう」日米安保、米軍基地の維持、米軍への支援・協力は当然だと。(今なお「アメリカが守ってくれている」と思い込まされている。日本を戦略拠点にし、出撃基地を置いて、自衛隊に支援・協力させるなど、すべてはアメリカ政府と米軍が自国の都合や国益のためにやっているだけなのに。)
3、自衛隊の海外派遣は「国際貢献」だと。
インド洋・イラク・ソマリア沖派遣まで。そのような軍事貢献が、憲法で「武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と誓った日本人に相応しい国際貢献なのか。平和的手段によって貢献できることは、いっぱいあるはずなのに。
4、中国・北朝鮮は一党独裁の国、それに比べれば日本は、はるかに自由で民主主義の進んだ国だ、という「すり込み」。
しかし、日本は、かつては天皇を頂点とする翼賛政党・軍部・官僚による専制支配と軍国主義の国だったし、今は、形式上は「複数政党制」で「連立内閣」の形もとっているが、事実上は長期にわたって自民党による一党支配が続いてきた国だ(「連立」を組む公明党などはその補完政党)。その下で官僚機構は自民党に奉仕し、警察や検察・裁判官も市民運動などに対しては自民党の主義・主張にそくした判断と行動をとっている。官僚が時の政府の支持に従うのは当然だが、自民党が常に与党であれば、官僚が自民党の利益のために行動することは常態となるわけ。(このあたりは、「世界」9月号に載っている山口二郎・北海道大学法学部教授の論文を参考)利益集団も、時の政権党に陳情することは当然だが、自民党が常に与党であれば、企業・団体献金などをおこなって支援し、それによって政策的恩恵を受けてきた。主要メディアも政権党の主義・主張におもねるか、それに寄り添った報道や論説が多く、「日米同盟反対」とか、「消費税反対」とか、「小選挙区制・二大政党制に反対」とか、「民営化反対」とか、政権党の意向に真っ向から背く報道・論説はまず見られない。それが我が国の民主主義の実態なのである。

5、消費税―増税もやむを得ないと。   
コメンテータは「消費税増税の勇気」を煽る。「ヨーロッパなどに比べれば、我が国の消費税はうんと安い。財政再建と社会保障財源のためその増税もやむを得ないのだ。」「法人税など企業には減税しないと、国際競争力が落ち、海外に逃げていかれる。だから、その方は、減税はやむを得ないのだ。」それに「消費税の税収は景気にあまり左右されずに安定しており、社会保障財源に向いている」と。
 しかし、はたしてそうだろうか。
 消費税とは、高所得者・低所得者の別なく、低年金生活者・生活保護受給者・失業者など全ての人に、贅沢品・生活必需品の別なくどの商品にも一律に、購入金額の「~%」として同率の課税するもの。それは所得の少ない人ほど重い負担になり(逆進性)、子育て世代、生活保護を受けている家庭、母子家庭などには一番重くのしかかる税金なのであって、けっして「公平・平等な税金」なんかではなく、「社会保障財源」とするには最も相応しくない税なのだ。(実際、20年前「社会保障財源にする」といって導入しながら、社会保障はかえって悪化したし、減税した法人税の減収の穴埋めされただけ)。
「日本は法人税が高い」というが、それは発展途上国とくらべてそういっているのであって、先進国の中では日本が際立って高いというわけではないし、企業の社会保険料負担を税と合計すれば、日本はOECD諸国の中では下から5番目で最低クラス。日本より企業負担率の高い国が、それを理由に海外に逃げていっているかといえば、そんなことはないし、そのために国際競争力が落ちこんでいるわけでもない。
海外移転の理由には、労働コストなど他の理由のほうが大きく、税などの負担が重いからという理由は小さい。(経済産業省委託調査の企業アンケートで明らか)。日本企業が、賃金も社会保障負担も高いフランスなどに進出して、高い負担を払いながらも、そこそこに儲けを上げているという事実があるし、日本より企業負担率の高い北欧のほうが国際競争力が日本より上位にいる、ということもあるのだ。

 徴税する側にとっては、消費税は一番「取りやすく」都合のいい税であることは確かだろう。しかし、「景気に左右されない」どころか、景気を悪くし、改善を妨げることの方がむしろ確かだろう。
6、経済成長は大企業から
 企業が成長すれば、人々の暮らしはよくなり、大企業の収益が上がれば(トリクルダウン―滴り落ち)皆よくなる。だから大企業を最優先(税も優遇)するのは当然だ、という理屈。
 しかし、それで結局は、個々人の生活は、賃金抑制・労働強化など我慢を強いらればかりで、一向によくなっていないのが現実。
 事実は、まず個々人の賃金・収益・社会保障給付を上げ労働・生活にゆとりをもたせて消費・購買力を高めるほうが先決(長期的にはその方が、企業の持続的成長にプラスする)。
7、社会主義はダメ、自由主義が一番
そもそもは、社会の絆(連帯)・協力を重視し、社会全体の幸福(宮澤賢治の言葉で言えば「世界がぜんたい幸福にならないうちは、個人の幸福はありえない」)を重視して社会のルール(規制)を重んじるのが社会主義であり、それに対して個人の利己的自由・利己的幸福を容認し、自己責任を重んじるのが自由主義。
ところが、「社会主義国」だったソ連が崩壊して、自由主義のアメリカが「冷戦」に「勝利」したと見なされ、「自由主義が一番」という観念が刷り込まれていった。
そして規制緩和・民営化政策が行われ、派遣労働も農産物輸入も何もかも自由化、郵政は民営化され、教育・福祉・医療にも市場原理・競争原理が導入された。
しかし、その結果、弱肉強食・優勝劣敗の競争が激化し、コスト主義・効率主義によって、多くの人々が「切捨て」られて「難民」化し、「格差・貧困」が拡大する結果になった。
金融の自由化は投機マネーの暴走・金融危機を招き、企業の果てしなき利潤競争は過剰生産恐慌を招いており、利潤優先の生産活動は環境悪化と温室効果ガス排出による地球環境の危機を招いているのだ。


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