(1)総裁選
自民党は巧妙に「総裁選劇場」を設けて5人の役者を登場させ、NHKをはじめ御用メディア(自民党のPR機関。主要なマスコミはそれに化している)を活用して総選挙に自党とその顔ぶれを売り込んでいる。
5人の主張はニュアンスの違いはあれ、基本的には同じで、互いの弱さ―発言で言い足りなかったところ、言い落としたところ―を補い合って「ハーモニー」をかもし出している。財界・大企業本位の経済政策、改憲、靖国神社への天皇参拝、そしてアメリカに同調した外交・防衛政策―日米同盟を基調とし自衛隊の海外派兵を推し進めようとする点では主張は全く同じなのである。
テロ特措法(給油法)―インド洋派兵―去年も今頃からこれが問題となった(11月1日期限が切れ、いったん撤収、4ヵ月置いて3分の2再議決で再開)が、今度また期限(来年1月)がくるので、それが今から、また問題となる。これに関連して「国際平和と安全保障」のあり方が、雇用問題・格差問題・年金問題・医療保険問題・税金問題などとともに総選挙の大きな争点となる。
(2)平和・安全保障政策
軍事―日米同盟と自衛隊―によるか、非軍事―憲法―によるか。
国際貢献は軍事貢献―自衛隊の海外派遣―と平和貢献のどちらか。
「テロとの戦い」―2001年、9,11同時多発テロに対して、軍事攻撃か、法と理性による解決(国連を中心とする告発・制裁)または政治解決(政治プロセス―対話・交渉―による解決)か。
当初、国連は「実行犯・組織者・支援者に法の裁きを受けさせる」としていたのに対して、アメリカはアフガニスタンにオサマ=ビン=ラディンらアルカイダの拠点を置き、かくまっているとしてタリバン政権を攻撃し報復戦争を起こした。
そのアフガン戦争で、米英を主とする多国籍軍(NATO諸国の部隊)は軍事作戦と治安復興支援。
それに呼応して日本は、テロ特措法を設けて、米軍・多国籍軍への後方支援―インド洋への自衛艦派遣・給油活動―を行ってきた。
一方、NGO―ペシャワール会(81年パキスタン北西部にて結成、中村哲氏が現地代表、91年にアフガン国内に最初の診療所を開設、00年に大干ばつが起きて以来、井戸掘りなど水源確保にも取り組む。01年には空爆下で避難民15万人に食糧を緊急配給。活動費のほとんどを会費と寄付で賄っている)は、そのずうっと以前から現地で医療・農業復興支援にたずさわってきた。ところが先日、そのメンバーである伊藤青年が金目当ての賊に拉致され殺害された。
03年からイラク戦争が始まると、こんどはイラク特措法を設けて空陸両自衛隊を派遣。
①安全確保支援活動―空自による米軍・多国籍軍への後方支援(空輸)。
4月名古屋高裁―「イラク派兵差し止め訴訟」で、自衛隊の空輸支援活動などに違憲判決―他国の武力行使と一体だと。
(治安情勢改善にともない、近く年内中、国連安保理決議の失効期限12月が来て多国籍軍が撤収するのとあいまって撤収の見通し)
②人道復興支援活動―陸自、サマワで給水など(既に撤収)
(3)政府与党(自民党)の主張
テロ特措法(給油法)「期限延長」または海外派兵恒久法(いつでも、どこへでも派兵できる体制にし、武器使用条件を緩和)の制定めざす―理由
①各国の『テロとの戦い』の戦列から日本が脱落するのは国際信義に反するし、「憲法違反だからといってやめようと言うのは無責任だ」(石破氏)。 9,11テロでは日本人も犠牲になったのだから。
テロリストとは交渉できない―戦うしかないというわけ。
(ペシャワール会の伊藤青年が死んだことについては、「尊い犠牲を、今回NGOの方からお一人出てしまったわけでありますけれども、そうであればあるほど、テロとの戦いに日本が引き続き積極的にコミット―関与―していくことの重要性というものを、多分多くの日本国の国民の皆さんがお感じになったのではないか。」「伊藤さんの意思に答えて、平和協力国家として、いろいろな努力をしなければいけない。」その「方向としては『給油活動』を継続する法案をだすことは間違いない」と―町村官房長官)
②中東から原油を輸入して来るシーレーン(航路)の安全確保―インド洋で武器や麻薬などの出入りを防ぐ「海上阻止活動」に参加―国益上、有益
③給油だけならリスクが少ない―人的犠牲が無くて済み、油代など出費(今年10月までの6年間で約49万キロリットル、約225億円)もたいしたことはなく「最も効率のいい方法だ」と。
民主党はアフガン本土への自衛隊派遣、ISAFなどへの参加なら「国連安保理決議に基づく集団安全保障活動」として認められる(憲法と矛盾しない?)と―農業復興支援などにたずさわるNGOを警護、とも(前原氏)
(4)反対論
①「テロとの戦い」の一端を担う国際貢献・国際信義などと言っても、よく考えてみれば、それはアメリカやG7など限られた国の政権に対しての貢献・信義にすぎないのであって、大事なのはアフガン国民・イラク国民に対する貢献・信義だ。そこはどうなのかである。彼ら無辜の民衆は、給油した空母から飛び立った爆撃機の空爆にさらされ、空輸した兵員・弾薬によって行なわれる掃討作戦やそれに抵抗する自爆テロに巻き込まれて犠牲になっている。
かの国では、日本人といえば、「平和国民」として通ってきた。その信頼が今や損なわれ、アメリカに加担している親米国民として狙われるようになってきている。
(ペシャワール会の福元満治事務局長は、「アフガンの秩序は、武力が介入することで壊れたのだから、違う形での関与の仕方を『平和国家日本』として考えるべき」なのに、今は「現地で日本に対する親近感が減って、アメリカの同盟国としての比重が重くなっていると思う」と。また、同会の中村氏は「日本の自衛隊がインド洋で米軍などに給油活動していることが知れわたれば、私たちの身辺にも危険が迫ってくると危惧している」と語っていたが、それが伊藤青年の死で現実となったわけであえる。彼が死んだことについて中村氏は、「自衛隊の動きと関係があると思う。以前だとこういう事態は考えられなかった。日本人なら大丈夫だという対日感情の良さに支えられていたわけで、その点、我々の認識が甘かった。アフガン全土が今大干ばつで、国民の半分がまともに食えない、その中で、治安をよくするというのは、みんなをたらふく食べさせるという状態をつくる以外にない。武力でもって、これを制圧するというのは不可能。私どもも含めて日本人全体、国際社会全体がアフガン問題に対する認識が今ひとつ足りないところがあったのではないか、と私は反省している次第です」と述べている。)
アフガニスタンでは米英その他の連合軍は、タリバン政権は倒したものの7年もかかって未だに平定せず、戦乱はパキスタン国境地域にまで拡大している。
カルザイ大統領の政府は米軍から守られている(大統領官邸は米軍の海兵隊兵士が警護)が、その実効支配はカブール市内にしかおよばず、あとは各部族・軍閥(ヘクマチュアル派・ハカーニ派など)が割拠し、山賊が横行する。政府の徴税システムは全く成り立っておらず、アヘンの栽培は(タリバン政権下では取り締まられていたのに)今や野放し状態である。アフガン戦争開始直後壊滅したはずのタリバンは復活して、その活動地域は全土の7~8割におよんでいるとも云われる。
アメリカなど多国籍軍によるタリバン掃討作戦―空爆・誤爆でアフガン住民の犠牲者が激増し(8月、子ども60人を含む90人が死亡)、それが民衆の欧米人に対する反感をつはのらせ、かれらをタリバンやアルカイダ支持に向かわせる(爆撃された地域で、家族を失った若者はタリバン兵やテロリストになる)。
このような対テロ戦争はテロ根絶とは逆に、憎しみと暴力の悪循環に陥っているのだ。
②今さらシーレーン確保といっても、この「対テロ戦争」が始る以前からずうっと中東航路は保ってきたし、インド洋でテロリストや武器・麻薬の出入りが今になってにわかに激しくなっているわけではない。テロリストの海上活動や海賊はペルシャ湾やオマーン湾など狭いところや沿海ならいざ知らず、広いインド洋ではあり得ず、「海上阻止活動」といっても(テロリストを捕らえたとか、武器や麻薬を押収したとかの)さしたる実績はない。
そもそも、自衛隊のインド洋派兵は、アフガン攻撃作戦の一環としての給油などの後方支援と「海上阻止活動」が目的であり、後者はアルカイダなどのテロリストがアフガンから逃げ出そうとするのを海上で阻止するというもので、シーレーン防衛が目的で始められたわけではない(テロ特措法には石油輸送路防衛のことなど書かれてはいない)。
国益といっても、それは、自民党政府にとっては同盟国アメリカ(政府・軍・業界)と日本の業界(軍需企業など)の利権確保の上で、または戦略上メリットにはなっても、国民にとっては有害無益。インド洋での給油支援活動はアフガン本土の戦争と一体であり、戦争への加担以外の何ものでもなく、それは「平和国家日本の顔」ともなってきたペシャワール会などNGOや、現地で日本政府の特別代表として軍閥の武装解除に取り組んだ東京外語大大学院教授の伊勢崎氏らの努力を台無しにし、日本人に対するイメージを損なってしまう。
憲法(前文)で「恒久の平和を念願し」、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、安全と生存を保持しようと決意し」「 政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意した」日本国民にとって、又、「全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」している日本国民にとっては、アフガニスタン国民もイラク国民も日本国民も、諸国民の平和的生存権が守られることこそが最優先すべき国益なのである(名古屋高裁はそれを認めた。)
③給油する油代など出費(225億円)はたいしたことはないといっても、今、漁業者や運送業者が原油高騰にあえいでいることを思えば、なんと「もったいない」ことか。それに、「テロとの戦い」のためだなどと綺麗事を言ってアメリカなどいくつかの国々の艦船にただで給油してやっているそれらの国の政権からは有難がられても、空爆や戦火にあえぐアフガン・イラクの民衆のことを思えば、無駄金というよりは、なんと罪深い乱費であることか、となる。
(5)固執するなら軍事貢献か、非軍事貢献か?
アフガニスタンでは諸外国からやってきた100ものNGOが活動している。そのうち日本のNGOは8つで、ペシャワール会・日本国際ボランテフィア=センター・「難民を助ける会」・ピース=ウィング=ジャパンなど。それに日本からは独立行政法人のJICA(国際協力機構。政府の開発途上国に対する援助の一環として人材派遣)がインフラ整備・農業開発・保健医療・教育・職業訓練・生活向上支援などの事業に(8月現在)約40人送り込んでいる。
一方、アフガニスタンでは二つの軍事作戦が展開されている。一つはアメリカ主導の対アルカイダ・タリバン掃討作戦、もう一つはNATO指揮下の国際治安支援部隊(ISAF)による治安確保の作戦で、その部隊兵士の護衛で文民(地域復興チームPRT)が援助活動を行っている(軍民複合型)。後者(ISAF)は国連安保理決議に基づいているのに対して、前者はアメリカが独自に作戦を行っている形になっているが、両者はほとんど一体化している。
ISAF指揮下のPRTによる(武装兵士が護衛する)復興支援活動は軍事活動との境界があいまいで、非軍事の立場で活動できていたNGOの活動をも危険にさらす、と日本国際ボランティアセンター代表の谷山博史氏が指摘している(07年12月20付け朝日)。
民主党はISAF(国際治安支援部隊)への自衛隊参加(アフガン本土派兵)を停戦合意後の人道復興支援に限定して認め、インド洋での「海上阻止活動」も国連決議があれば容認、という考えを示している。
しかし、「部隊派遣は銃や航空機を持ち込むことで、民間人が巻き込まれ、死者が出る。」(ラヒムラ=ユスフザイ)自衛隊など武装隊員が作業し或は警護につけば、テロ攻撃は抑止されるのかといえば、それ疑問であり、かえって誘発するとも考えられる。
これまで(01年以降)アフガスタンでは、NATOと米軍兵士の死者数は900人を超えている。民間人の死者(国連報告)は、今年1~8月1,445人(昨年同期比39%増加)。(うちタリバンその他の反政府武装勢力の攻撃などによる死者は800人。アメリカ主導の連合軍やアフガン政府軍の攻撃の巻き添えになった死者577人。)NGO関係者の死者は今年7月までの時点で19人。8月27日にはついに日本人・伊藤青年も殺された。日本国際ボランティアセンターの谷山氏は、「日本はPRT型の復興支援であれ、インド洋での給油活動であれ、自衛隊の派遣に固執するのではなく、独自の平和協力の立場からアフガニスタンの安定化のための支援に徹するべきだ。」「自衛隊の派遣は自衛隊員を含めアフガニスタンで活動するすべての日本人の生命を危険にさらし、アフガニスタンをいっそう混乱に陥れる。」としている。
またパキスタン=ニュース紙のラヒムラ=ユスフザイ(長年アフガン問題を追い98年にビンラディンを取材しているジャーナリスト)は、「軍事的なやり方には最終的な解決はなく、タリバンを対話に導き入れるなどアフガン人自身による政治的な解決策を探る必要がある。」「日本がアフガニスタンに兵士を派遣しないことは、賢い選択だ。」としている(2月24日付け朝日)。
アフガニスタンで活動する諸国NGOの連絡調整機関(ACBAR)は先日(8月1日)の声明のなかで、「われわれは紛争を軍事的手段によって終わらせることはできない」と強調し、貧困・飢餓に対する民生支援を進めるためにも政治的・外交的プロセスを前進させることが必要だとしている。「国際社会において名誉ある地位を占めたい」我ら日本国民にとって、日本政府がやるべき国際貢献は、アフガン問題でもイラク問題でも外交的・平和的に解決する国際環境づくりへの貢献以外に無いということだろう。
国際貢献といえば、軍事―自衛隊の海外派遣―に固執するよりは非軍事貢献に固執する、それが「日本人たるもの」にこだわる当方の考えである。
尚、テロ特措法については昨年も9月(「安倍首相の辞任とテロ特措法」)と11月(「メディアに騙されるなよ」)に論評した。