米沢 長南の声なき声


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ギョーザ事件の遠因・責任
2008年03月18日

 有毒農薬が混入したのは「中国で」か、それとも「日本で」か。日本側警察は「中国で」だと断定し、朝日新聞など日本のメディアもそれに同調しているきらいがあるが、中国側警察はその断定は未だ早いとして、両国の捜査機関の間に対立が生じており、それが「外交問題に発展することのないように」などと云われてはいる。
 ギョーザ事件の原因は日本側にあるのか、中国側にあるのか。犯人は日本人か、それとも中国人か、日本人と中国人とで「どちらが加害者で、どちらが被害者か」で、両国間で見解が対立し、責任のなすり合いがおこなわれ、それが外交的対立、ひいては反日・反中の民族感情の対立に発展しかねないという状況もあるのである。
 しかし、単純に農薬混入は「中国で中国人がおこなった」などと、直接的な原因や犯人―それをつきとめ、その白黒をはっきりさせるのは勿論必要不可欠だが―それにのみとらわれ、遠因と間接的な責任を見逃し不問にしてしまってはなるまい。
 この事件には、大きな背景としては日本政府側の食料・農産物の海外依存・輸入自由化政策がある一方、中国政府当局側の農薬・有害物質に対する規制・検査・検疫体制の不備など、両国政府の責任が問われる。
 それに、直接その農産物や加工食品の製造・買取り・輸出・輸入にたずさわった両国の業者の責任もある。
 とりわけ、日本の大手食品会社や商社、日本生協連など、それらが企画・指示し、或は出資して中国の工場に委託生産させるというやり方をとってきたが、それら日本側の業者の責任が大きい。それら日本の会社・商社とは、JT(日本たばこ産業)の子会社「ジェイティフーズ」(東京都品川区)、総合商社「双日」の子会社「双日食料」、東京都大田区の食品会社「アジル」、大阪市にあるニッキーフーズ(中国の清清仁木食品や「青島ニラ肉焼まん」の山東仁木食品はそのグループ企業)等である。
 日本生協連(日本生活協同組合連合会)は中国の60ヶ所もの工場で145品目の製造、最終包装まで委託したうえで製品を輸入し「コーポ商品」として販売してきた。消費者ができるだけ安値で買えるようにとの思いで、そのやり方をとってきたのだろうが、中国の低賃金労働力を利用したその低コスト戦略が裏目に出てしまったわけである。
 これら日本の業者はいずれも中国への生産委託・輸入を控え、国内産品に切り替えようとしている。大連の「天洋食品」工場はJTの委託に応じて操業してきたが、今や廃業、従業員は全員解雇という憂き目にあっている。中国側では、他にも、このように日本への農産物・加工食品輸出が激減して大打撃を被っている向きが多いだろうし、彼ら中国人も被害者ということになる。
 日本側の食品会社・商社・生協などの業者は彼ら中国人に対しても責任が問われなければならないのだ。
 
 尚、同じ生協でも「生活クラブ」系の生協があるが、それらは、かねてよりこのような事態を想定し、輸入食品は扱わず、国内産オンリーに徹してきている。
 米沢に本部がある「生活クラブやまがた生協」は、今回の問題で次のようなアピ-ルを出している。
 
 「このたび日本生協連の『CO・OP手作り餃子』(ジェイティフーズ株式会社製造委託)で嘔吐・めまい等を伴う重大な健康被害が発生いたしました。有機リン系殺虫剤が検出されたとのことです。
 当生活クラブやまがた生活協同組合ではこれらの商品は一切扱っておりませんのでご安心ください。
生活クラブやまがた生活協同組合では1999年4月から日本生活協同組合連合会のいわゆる『コープ商品』の取扱は紙類や衣料品などに絞り込んでおります。
 その理由は遺伝子組み換え作物、環境ホルモンなどの対応を追求し外国産原料や製造工程の不明な部分をなくしていくこと、つまり『原料から製造までできる限り明確なものを供給したい』からでした。

 97年から98年までの2年間にわたり組合員討議を続け、1999年4月から取扱品を国産原料中心(一部外国産品も含む)の生活クラブ生協事業連合会の『消費材』に切り替えたのは今回の事故や昨年の食肉偽装事件を予想していたことも事実です。

 生活クラブ生協事業連合会の『消費材』は原材料から製造過程までをできる限りオープンにしています。
 しかも、独自の自主基準監査を設けるなど、日本では内容が一番明らかな生協事業連合会です。

 組合員が出資、運営、利用する生活協同組合の原則を守りながら社会問題を解決していくためにも、生活クラブやまがた生活協同組合は今後もできるだけ原料から製造までできる限り明確なものを供給することに努力してまいります。

 まずはお知らせまで。」

 「生協」といっても、これら「生活クラブ」系生協を「コープ」系生協と混同することないようにしたうえで、日本生協連の責任は問われなければならない。
 
 両国の捜査当局が直接的な原因(残留農薬か意図的な犯罪行為か)、犯罪行為だとすればその犯人を早急につきとめ処置することが必要不可欠であることはいうまでもなく、それをうやむやにしていいはずはない。しかし、そこは解決しても、それだけで幕引きしてしまってはならない。
 我が国における政府の野放図な食料・農畜産物の輸入自由化政策と、それに乗じて「安かろう危なかろう」の外国産農産物・加工食品の現地生産委託・輸入にはしった日本企業の存在。それらがなければ、このような事件は起こらなかったはず。そこのところをも何とかしなければならないのだ。


  *この評論をここに出した翌日(3月19日)の朝日新聞「私の視点」欄に早稲田大学の中国人講師・馬挺氏の寄稿文(「ギョーザ事件―兄弟をいじめすぎないで」)が載っていたが、そこで氏は次のようなことを指摘している。
 「加工から輸入まで日本企業が関わって水際でチェックできないのならば、最終責任は日本企業にあるはずだが、ほとんど報道の焦点になっていない」と。


*3月31日のNHKスペシャル「食の安全をどう守るか―冷凍ギョーザ事件の波紋」では次のようなことが指摘されていた。
 食品メーカー「味の素」が13年前から中国に進出、9ヶ所の現地工場(中国人従業員は総計1万人を超える)140種類の製品を製造、自社管理農場も運営している。その管理・安全対策は厳格で高いコストをかけている。
 中国の輸出食品に対する衛生基準は日本よりレベルが高いくらいだとのこと。
 生協(コープ)の問題点は(連合が)巨大化し、取引先は800社、それぞれの間で(消費者・組合員からのクレームやトラブル情報など)情報共有が困難な実態がある。中国製冷凍ギョーザを製造委託をしていたジェイフティフーズとの間でも、それぞれ企業秘密にする傾向がはたらいて情報は伝えられてはいなかった。
 (元日本生協連理事・阿南氏の下記の寄稿によれば、そのような情報伝達・共有の欠如は日本生協連と各地コープとの間でも云える)
 野菜の最大の輸入先は中国(全輸入量の49%、二位のアメリカは17%)で、その中国野菜を国内産に切り替えるといっても簡単ではない。急きょ日本の農家からそれを仕入て来ようとしても到底間に合わない。畑をやっている人は高齢者(平均年齢は70歳)で、農地の半分は耕作放棄地になっているという有様(群馬県前橋市のある農村地区の実情)

*4月2日の朝日新聞に、元日本生協連理事の阿南久氏が、「コープに信頼回復の責任」と題する論稿を寄せている。 

 


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