米沢 長南の声なき声


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テポドンが飛んできたらどうする?
2006年07月11日

 拉致問題に加え、北朝鮮がミサイル連射実験を強行したことで日本の国民世論はさらに硬化し、「そのうち北朝鮮から弾道ミサイルが飛んでくる」、そのような武力攻撃に対して「9条」(不戦・非軍事)では国民の安全・平和は守りきれない、という意識が強くなり、改憲派はさらに勢いづいていることだろう。

(1)何もしなければ飛んではこない

問題は、北朝鮮は、はたして本当に日本に攻撃をかけてきたりするのか、であるが、北朝鮮(政府と軍部)が理性を失うような事態に追い込まれ、自暴自棄的な挙に出ないかぎり、そういうことはあり得ない、ということである。

第一、いくら北朝鮮といえども、なにも好き好んで不正・非道や我がまま勝手を通したいとか、孤立したいとか、日米に逆らい通したいと思っているわけではなく、アメリカとも日本とも良好な関係を結び、両国から自国の安全が保障され、エネルギー支援や経済協力が得られれば、それでよいと思っているはず。北朝鮮が、たとえどんなに無法で非道な「ならず者国家」であっても、又いかに日本に恨みを持っている国だからといって、日本を武力攻撃してみたところで、世界中から非難・制裁をこうむる以外に得られるものは何もなく、メリット対デメリットおよびリスク計算上マイナス以外は考えられず、戦略的計算を無視して無益な行動に出ることはあり得ないからである。

今回のミサイル実験の強行にしても、そこにはそれなりの冷徹な計算と読みがあってのことと考えられる。(ミサイル発射の方角を日本には向けておらず、北朝鮮には、同じく反米国家と見なされ核開発計画をもっているイランとそれに対する米欧の対応をみすえながら、「自衛的抑止力」のための核・ミサイル開発・保有の権利と実績を世界にアピールし、アメリカに対して直接対話と金融制裁解除を要求してそれをアピールする狙いがあってのことだろうと思われる。)

北朝鮮は、以前、朝鮮戦争の時は、ソ連から支援を得、中国から援軍が得られた。中国・ロシアとはそれぞれ今も友好相互援助条約を結んでおり、特に中国とは緊密な貿易・経済関係を結んでそれに依存しているし、近年は日米のような強硬政策(経済制裁)ではなく太陽政策(宥和政策)をとっている韓国からも経済協力・食糧支援を得てきた。しかし、中・韓・ロ各国とも、北朝鮮が核開発とあわせて今回ミサイル実験を強行したことには当惑し、非常に遺憾だとしており、もしもそれが、実験や訓練に止まらず、本当にそれを使ってどこかに(アメリカに対してであろうと、日本に対してであろうと、どの国に対してであれ)攻撃をかけるようなことがあったならば、中国・ロシアといえどもけっして支援も援軍を出すこともあり得ないだろうし、北朝鮮はどんなに孤軍奮闘したところで、自国の滅亡(体制の崩壊)を招くだけで、得るものが何もないことはわかりきっている。

したがって、北朝鮮(政府・軍部)に理性が保たれている限り、(アメリカと、共に)何もしない日本に対してミサイル攻撃をかけてくることなどあり得ないのだ。

(2)追い詰められたら暴走も

そこで問題なのは、北朝鮮(政府・軍部)はどのような場合に理性を失い自暴自棄的な挙に出るかであるが、それは、アメリカや日本から、そこへ追い込まれた時で、「窮鼠猫を噛む」が如く抵抗して軍事行動にはしるという場合であろう。

それはどのような場合かといえば、一つは、経済制裁から海上封鎖に至った場合である。アメリカは既に独自に金融制裁を実行している。日本も、今回、北朝鮮のミサイル発射実験の強行で、万景峰号の寄港を禁止するなど制裁措置の発動に踏み切った。そして日本はアメリカとともに国連安保理に北朝鮮制裁決議を提案した。それは北朝鮮に対してミサイル・大量破壊兵器開発をやめるように求め、それらの開発につながる資金・物資・技術の国際取引を阻止することを各国に対して求めたものだが、原案に盛り込んだ国連憲章の制裁条項を適用するという文言、すなわち北朝鮮が決議に従わなかったならば経済制裁、場合によっては軍事的措置を講ずることもできるとし、それらの強制措置がとられた場合、国連加盟国すべてが、それに同調することが義務づけられることになる、というその文言は、日本は固執したものの、中国・ロシアの反対で削除され、その修正案(北朝鮮非難決議)が全会一致で採択された。仮にもし、中国・ロシアが、当初の日本案のような制裁決議に同調して、すべての国が北朝鮮との貿易・金融を停止し、海上封鎖―アメリカや日本の艦艇が出動して臨検・拿捕―という事態に北朝鮮が追い込まれたりしたならば、その時が問題なのである。

中国などが、その経済制裁に同調せずに、北朝鮮に対して説得、自制を働きかけている間は、その暴発は起こり得ないだろうが、その中国が制裁に同調したとなれば、北朝鮮は完全に孤立無援、「もはやこれまで」と諦めて降伏してくれればよいが、自暴自棄になって暴挙に出る可能性もあるわけである。

もう一つは、アメリカが(日本も連携して)、中ロなどの同調・国連決議の有無にかかわらず(イラク戦争のように)、「予防先制攻撃」と称して武力攻撃をかけた場合であり、それに対して北朝鮮が反撃に出て抗戦するという場合である。(但し、さしたる反撃も抵抗もなく、簡単に降伏することも全くあり得ないわけではないだろうが。)

このように、海上封鎖をともなう経済制裁によって北朝鮮がにっちもさっちもいかない事態に追い込まれるか、或はアメリカから武力攻撃を受けるかしない限り、北朝鮮が自暴自棄的な暴挙にはしって日本にミサイル攻撃をかけてくることは、とにかくあり得ないということである。

仮にもし、北朝鮮をそのような事態に追い込んで暴発(自暴自棄的な反撃)を招いてしまった場合、それにはイラク戦争以上に悲惨な事態が生じる危険性をともなうということである。北朝鮮の軍民のみならず、韓国それに日本にもミサイルが飛んできて(ソウルや東京が「火の海になる」というのは大げさだとしても)沢山の犠牲者が出たり、深刻な被害をこうむりかねないことになる。それに韓国にも、中国にも、ロシアにも、それぞれの北朝鮮国境の近くに難民があふれる、といった事態も考えられる。日米など北朝鮮を追い込む方の側に、それらのリスク計算が必要であることは云うまでもない。

(3)追い詰めるか、交渉に応じるか

それらの危険を覚悟の上で北朝鮮を追い込み続けるか、それとも暴発リスクを回避すべく外交努力に徹し、北朝鮮を交渉(6者協議あるいは2国間直接対話)の場に迎え入れて、核・ミサイルの凍結と拉致問題に関する日韓の要求に応じさせるとともに、(一方的に要求を突きつけ責めたてるだけでなく)ギブ&テイクで、北朝鮮が求めている(国家の安全保障、経済協力、エネルギー支援、国交正常化、日本に対しては過去の清算などの)話にも応じて可能な限り要求を受け入れ、相互に実行を約束し合う、ということにするか、そのどちらかであろう。

とはいっても、追い詰める(「圧力」)か、それとも交渉(「対話」)かの二者択一ではなく、「対話と圧力」それに「ニンジン」も必要だろう。

目的はあくまで懸案(核・ミサイル問題―北朝鮮に対する安全保障、拉致問題、国交正常化問題など)の解決にあるのであり、そのために交渉することなのであって、あくまでも交渉が前提なのである。交渉にさいしては、それぞれの要求を相手に応じさせるために駆け引きをおこない、「見返り」(北朝鮮が求めている国家の安全保障、経済協力、エネルギー支援など)を与えるとか、「ニンジンをぶらさげる」(利益誘導)とか、逆に経済的もしくは軍事的「圧力」を加えたり、「カードをきる」といったことが、互いの間で行なわれたりもするわけである。

「圧力」は、交渉相手に対して要求に応じさせるための手段なのであって、相手国を政権崩壊に追い込むのが目的ではないのである。そこのところを錯覚しないようにしなければなるまい。強硬派のなかには、(北朝鮮といくら対話・交渉を重ねてみても、所詮相手は「ならず者」。約束をしても守りはしないし、合意が成立することなどあり得ないのだから、交渉など無用だとして)経済制裁など「圧力」は、初めから北朝鮮を政権崩壊に追い込むことを目的とし、「これでもか、これでもか」とばかり首をしめつけて息の根を止める「制裁のための制裁」と考えている向きが少なくなかろう。そのようなことをすれば、苦し紛れの暴発(ミサイル乱射など)を招いてしまい、それに対して報復攻撃をあびた北朝鮮国内における大混乱と政権崩壊だけではおさまらず、我が国を含む周辺の国々にも被害が及び、北東アジア全域にわたる深刻な事態に発展しかねないことになる。

北朝鮮に対して我国が独自に既に発動している経済制裁にしても、この度の国連安保理決議にしても、それらはいったい何を目的にしているのかといえば、それはあくまで、北朝鮮に違法行為やルール・合意無視はやめるように約束させ、交渉の場に復帰して誠実に対応することを約束させることが目的なのであって、なにも北朝鮮を政権崩壊に追い込むことが目的なのではない、というそのあたりのことを人々は勘違いしないようにしなければなるまい。

(4)暴走の危険はこっちにも

北朝鮮(政府・軍部)が理性を失う事態に追い込まれない限り、日本にミサイル攻撃をかけてくることはあり得ない、ということであるが、国の指導者あるいは国民が理性を失って暴走するということは、ままあることであって、かつてのナチス‐ドイツ、それに日本の戦争にも、それが見られる。「もしも天皇が開戦を抑えたりしたならば、内乱が起きていただろうし、彼は精神病院に入れられていただろう」といったような軍民の間の集団ヒステリー状況とか、軍部強硬派の暴走とか、「神風」特攻作戦とか、「一億玉砕」(いわば国家と心中)の掛け声とか、である。

又、パレスチナのハマス、レバノンのヒズボラ、アフガニスタンのタリバーン、国際テロ組織のアルカイーダなどのイスラム原理主義とよばれる宗教的な政治的急進主義がある。これらは初めから理性ぬきで、自爆テロも殺戮行為もすべて神の命ずる行為で、神によって許されると信じてそれらの行動にはしる。イスラムにはイランのシーア派原理主義もあるが、それらイスラム原理主義に対するイスラエルのユダヤ原理主義、それに「ゴッド・ブレス・アメリカ」(アメリカに神の祝福あれ)を唄って戦争にはしるキリスト教原理主義もある。かつて「聖戦」と称して戦争にはしった日本のそれは、いわば神道原理主義だ。

いずれにしても、理性によるコントロールを失った民族感情や宗教的感情による暴発・暴走が恐ろしいのである。

北朝鮮の最高権力者や軍部が理性を失って暴発・暴走するという事態を招かないようにしなければならないが、そのことは、我々日本人の方が金正日やテポドンの同じ映像を何回も見せ付けられるたびにイライラが高じて集団ヒステリーに陥り、「やれやれ!経済制裁をもっとやれ!」が、そのうち「やってしまえ!『敵地攻撃』であろうと『先制攻撃』であろうと」となりかねない。そんなことにならないように自制しなければならない、ということでもあろう。我々国民は政治家やメディアから煽られるようなことのないように気をつけなければならない。

(5)軍事対応か、非軍事対応か

そこで問題なのは、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対して「9条」は無力だとし、自衛隊と日米同盟の軍備がなければだめだという向きが益々増えているのだろうが、そのような考えははたして正しいのか、ということである。

日米は、自分たちの軍備を「抑止力」だと称しているが、アメリカが圧倒的な核戦力を持ちその訓練や新規開発・実験を重ね、日本各地に基地を置いて、いつでもどこでも攻撃できる体制を敷いて身構えているからこそ、北朝鮮はそれに少しでも対抗しようとして、「自衛的抑止力」と称して核やミサイルの開発・実験を行ない、発射訓練をやろうとする。日本やアメリカは、北朝鮮が核やミサイルを持つと、それを脅威と感じるが、北朝鮮側はアメリカの圧倒的な核戦力にもっと脅威を感じているのではないのか。北朝鮮は、イラクがアメリカ軍にもろくも敗れ去ったのは核兵器を持たなかったからだと思っているのだ。アメリカや日本はアメリカが核兵器を持つのは抑止・自衛用だから良くて、北朝鮮がそれを持つのは凶器になるからいけないというが、北朝鮮側は、それは逆だと考える。どっちにしても、核兵器が凶器であることにはかわりなく、北朝鮮のやり方は凶器をちらつかせた「瀬戸際外交」だといっても、アメリカの外交だって力に物を言わせた「恫喝外交」であることには所詮かわりないのである。

今回の北朝鮮ミサイル連射訓練にさいして、すかさずそれに対応して早期警戒衛星・弾道ミサイル発射監視機・移動式早期警戒レーダー・イージス艦などいった日米の様々な兵器・軍事施設がその機能を発揮し、テレビでそれを見せつけられた人々の間に、「やっぱり軍備も日米同盟も必要だ」、それに「ミサイル防衛」(迎撃ミサイル網)の開発・配備も必要だという考えがにわかに広がり、(読売新聞の世論調査では「ミサイル防衛、整備急ぐべき」が63%)それに便乗して防衛庁長官その他の閣僚が自衛隊に敵のミサイル基地を先制攻撃できる能力を持たせる「敵基地攻撃論」まで持ち出している。日米軍事同盟路線を肯定する改憲派は「わが意を得たり」という思いだろうが、人々が考えなければならないのは、日本のそのような軍事対応に偏した動きこそが、さらに北朝鮮を身構えさせる結果となる、ということであり、日米軍事同盟の軍備強化が北朝鮮や中国の軍備増強の原因になるということである。(「ミサイル防衛」も「敵基地攻撃」論も、あたかも西部劇の早撃ちのガンマンが相手に対して、ピストルを「抜くなら抜いてみろ」とけしかけるようなもので、「やるなら、やってみろ」「いつでも、かかってくるがいい」と云っているようなものであって、いわば「逆挑発」とも受け取られるだろう。尤も、北朝鮮のミサイルは地下や洞窟に隠されていて、いったいどこにあるか分かりようがなく、はたして攻撃に着手しているのかもなにも分かりようがない敵基地に対して、機先を制して攻撃をかけたり、多数同時発射されたミサイルを迎撃ミサイルで百発百中撃ち落すなど至難の業なのだが。)北朝鮮のあのようなミサイル連続発射訓練は日米の「ミサイル防衛」に対抗して行なったものだろう、ともいわれている。北朝鮮側は「わが軍は今後も自衛的抑止力強化の一環としてミサイル発射訓練を続けるだろう」と言い張っている。(尤も、その軍備競争には、ソ連が財政的に耐えきれずに自滅したように、北朝鮮国民が飢餓に追い込まれ「共和国」は崩壊するだろう、という読みも日米の側にあるのかもしれないが、ソ連のように外に向かって暴発-戦争-することなしに自滅してくれるとは限るまい。)

いずれにしても、軍事対応では北朝鮮の脅威はかえって強まりはしても取り除くことは不可能だということである。

北朝鮮に核やミサイルを持たせないようにするには、基本的にはこちらも持たないようにして、アメリカにはそれらの不使用を約束させ、北朝鮮の安全を保障することなのだ。要するに9条に徹すればよいのである。9条に徹して「日本は持たず、アメリカにも北朝鮮を攻撃させないようにするから、そっちも持つな」というのが筋というものだろう。

それを北朝鮮に対して(安全保障その他)何の引き換えもなく、とにかく(核もミサイルも)何も持ってはいけないといって一方的に迫るのでは、相手は応ずるはずはあるまい。そもそも米中ロはそれぞれ独自に大量の核兵器を持ち、日韓はアメリカと同盟して核の傘に入れてもらっている中で、北朝鮮一国だけに非核を強いているというもので、その方がおかしいのである。6カ国が相互に安全を保障し合って北東アジア全域を非核地帯とし、核兵器は互い持たないか、使わないようにすればよいのであって、日本は9条に徹し、非核・非軍事の立場で、アメリカとだけでなく北朝鮮を含む北東アジア6カ国すべての安全を保障し合う地域安全保障を実現する方向に外交努力のすべてを傾けるべきなのである。

さて、「テポドンが飛んできたらどうするか?」

①「ミサイル防衛」を早く配備して撃ち落すことを含めて防備を整える。

②飛んでくる前にミサイル基地に先制攻撃をかけられるように、自衛隊に敵基地攻撃能力を持たせるようにするか、アメリカ軍に先制攻撃をかけてもらう。

③飛んでこないように外交努力で関係を改善してもらう。

国民の平和的生存権は「9条で守れるか?」    ①守れない  ②守れる  

        正解は③と②、ということになるのではあるまいか。


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