米沢 長南の声なき声


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日本はアメリカから守ってもらっている?
2006年03月19日

一般に日本は経済大国ではあっても軍事的には中小国で、アメリカから守ってもらっている国だと思っている向きが多いように思われる。はたしてそうだろうか。

(1)自衛隊の戦力

世界の中でのランキングから云えば(2004年統計。明治大学文学部教授、山田朗「護憲派のための軍事入門」)、

軍事費(億ドル)陸上戦力(万人)海上戦力(トン数)航空戦力(機数)
アメリカ 4553中 国 170アメリカ 548アメリカ3470
イギリス  474インド 110ロシア  206中 国    2400
フランス   462北朝鮮 100中 国    93ロシア   2150
日 本    424韓 国  56イギリス  79北朝鮮    610
中 国     354アメリカ 49日 本    43,8韓 国    600
ドイツ   339ロシア 32台 湾    530
イタリア   278台湾  20
ロシア   194日本(12位前後)
日本(17位以下)17万人  510機

              
陸上戦力は、現代では兵員や武器の数だけ多くても無意味で、その装備・性能など質の方が問題。それが中国・北朝鮮の方がはるかに多いからといって、日本は劣勢かというと全くそうではない。

海上戦力では日本は近海だけでなく遠洋作戦・海外展開能力をもち、対潜水艦能力・掃海能力・洋上補給能力はいずれも世界トップクラス。

航空戦力では、日本は警戒管制能力・要撃戦闘機・地対空ミサイルなどによる防空戦闘能力は世界でもトップクラス。

但し、日本は「専守防衛」「非核」のたてまえ上 、大型空母・戦略爆撃機・大陸間弾道ミサイル・核兵器などは持ってはいない。

(2)中国・北朝鮮の戦力

中国の軍事費はこのところの経済成長とあいまって急上昇しており、2005年は(日本4兆8564億円に対して)約2兆1800億円(2447億元)で、実際はその公表額の2~3倍ともいわれ、「中国脅威」論を云いたてる向きがある。しかし、中国は数量的には優勢に見えるが、装備・性能など質的にはまだまだ大したことはない。軍事評論家・ジャーナリストの田岡俊次氏(2,19テレビ朝日「サンデープロジェクト」)によれば、その航空戦力は2400機とはいっても、その大部分は旧式の使い古しで、近年新規導入している機種で性能など日米の水準に近いものに限っていえば、その機数は日本・台湾よりも未だ下回っている。田岡氏と同番組に共に出演した帝京大学教授の志方氏も元防衛庁長官の石破氏もそれを否定せず、中国脅威論の方を否定している。田岡氏は、「中国が台湾軍20万を制圧することは不可能であり、金門島すらとれないだろう」「中国海軍などは日本の海上自衛隊と戦えば何時間もつか。野球でいえばプロに対する高校野球のようなものだ」とさえ述べている(05,10,29朝日ニュースター「パック-イン-ジャーナル」)。

北朝鮮は、軍事費は2790万ドルで日本(424億ドル)のわずか1万分の7。陸上戦力と航空戦力は数の上では日本を上回っているが、軍事評論家の小川和久氏(著書「日本の戦争力」)によれば、その装備は「老朽化したポンコツ」、燃料は欠乏し訓練もままならない有様で、韓国と戦争になれば「ソウルは火の海になる」などというのは誇大宣伝に過ぎないという。田岡氏の言い方では、日本の自衛隊に比べれば「ゴミみたいなものだ」とのこと。日本海を渡って日本に侵攻することはおろか、38度戦を越えて韓国に侵攻して戦争を継続することは、その能力から云って(特殊部隊・ゲリラなど以外には)不可能。法政大学教授の五十嵐仁氏(著書「活憲」)によれば、金正日政権が日本に軍隊を送って攻め込むのは、「町のチンピラが警視庁に押し入るようなものだ」という。

ただ北朝鮮は弾道ミサイル(ノドン・テポドン)を保有し、核も開発して既に「核兵器保有」を宣言している。しかしそのミサイルは、ピンポイント攻撃はできないし、核も小型化して(核弾頭を)ミサイルに搭載できるところまで進んでいるとは到底考えられず、せいぜい威嚇用か、あるいは外貨獲得のための「輸出商品」の域を出ない。

(3)日本はアメリカから守ってもらってなどいない             

日本はアメリカの「核の傘」に守ってもらっているとも云われるが、核兵器は、日本がその気になれば、その能力からいえば簡単につくれる。田岡氏によれば、アメリカは北朝鮮に対して核武装阻止にやっきとなっているが、それは、実は北朝鮮が核武装すれば日本も核武装に踏み切ってしまいかねないことになり、むしろその方を恐れているからなのだ。ソ連崩壊後、アメリカにとってはその覇権を脅かす存在といえば中国かドイツか日本かだと考えているのだという。(3,11朝日ニュースター「パック-イン-ジャーナル」)アメリカにとっては日本も脅威なのだというわけである。

また、アメリカから守ってもらっているといわれる日本だが、日米安保条約ではアメリカが日本防衛の義務を負うことにはなっている。しかし日米防衛協力指針(ガイドライン)では、敵軍の着上陸の阻止・撃退、防空、周辺海域の船舶の保護などは、第一義的には日本の自衛隊が処置することになっており、事実防空は(既に1959年以来)航空自衛隊だけでやっていて在日米軍の戦闘機など日本の防空任務についているものは一機もなく、北海道は陸上自衛隊(北部方面隊)だけで守っているという(田岡氏)。

もっとも、自衛隊は日本の防衛(専守防衛)には裕に充分でも、他国に対して単独で「侵略戦争」をやれる能力までは持ち合わせない。軍事評論家の小川和久氏によれば、自衛隊は(対潜水艦戦能力・洋上補給能力など米軍を補完し米軍が必要とする分担に応じた部門だけが卓越しているということで)特定の戦力だけが突出するというアンバランスな構造をもち、パワー・プロジェクション能力(数十万規模の陸軍を、海を越えて上陸させ、敵国の主要部分を占領し、戦争目的を達成できるような構造を備えた陸海空の総合力)はないという。

(4)なぜアメリカは日本と同盟しているのか?

しからばアメリカは何故日本と安保条約を結び日本に基地を置いて駐留しているのか、である。

それは、実は日本防衛のためというよりも、アメリカ自身のためであり、戦後ソ連との冷戦激化・中華人民共和国の成立・朝鮮戦争の勃発に際して日本を「反共の防波堤」として組み込んで以来、アメリカの世界戦略の根拠地(西太平洋からインド洋・中東への出撃基地)で、かつて中曽根首相が云ったように「不沈空母」として日本を利用するためにほかならないのである。

日本国内にある米軍施設・区域(基地)は(自衛隊と共同使用するものを除いて)88ヶ所で、総面積は312平方キロ(国土の0,08%)。駐留米兵は3万8000人である。

米軍は朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争そしてイラク戦争に際しても日本の基地から出撃している。(湾岸戦争では日本は出兵をしなかっただけで、戦費の世界最大拠出のみならず、米軍の出撃・補給基地として世界最大の軍事的貢献をはたしている。イラク戦争に際する日本からの米軍の出動総数は1万人規模におよんでいる。)燃料・弾薬の補給も、日本に置いている燃料備蓄基地・弾薬庫(いずれも米本土以外では世界最大)から補給が行なわれている。通信傍受施設(「象のオリ」)は青森県の三沢や沖縄の楚辺などに置かれているが、それらはいずれも世界最大級である。米陸軍第1軍団司令部は今度の米軍再編で米本土から神奈川県のキャンプ座間に移転される。第7艦隊(人員1万4000人。西太平洋からアフリカ東海岸までを作戦海域とする世界最大の艦隊)の母港は横須賀と佐世保にあり、米艦隊の母港は、アメリカ本土以外ではキューバのグアンタナモと日本のこの2箇所にしか置かれていない。在日米軍再編計画では山口県の岩国基地は米軍の海外基地の中でも世界最大規模の航空作戦基地となる。

  日本はこれらの米軍基地・施設に土地を提供しているだけでなく、様々な経費も負担している。(「思いやり予算」と称され、施設整備費や基地従業員の給与など年間2千数百億円だが、その他に米兵の給料以外のほとんど―駐留経費の75%―を日本政府が負担しており、そのコスト負担は直接コスト・間接コスト合わせれば年間6000億円。それは一県の予算に匹敵)

 これらの米軍基地・施設の防衛・警備には日本の自衛隊が当たっている。(米軍基地の防空には航空自衛隊の要撃戦闘機、陸自の地対空ミサイル、海自のイージス艦などミサイル護衛艦。基地をテロやゲリラから守っているのは陸自。海自は日本のシーレーンだけでなく、日本列島から出撃・帰還を繰り返し、補給物資を輸送する米軍のシーレーンをも守っている)

 このように、アメリカは日本を守ってやっているのではなく、日本を自国の世界戦略のために、まさに「不沈空母」として利用しているに過ぎないのである。

 

さて、そこで問題は、我が国がこのようにアメリカの補強国として世界有数の軍事大国となっていることを良しとして、それに相応しく憲法を変えた方が良いのか、それとも軍縮(軍備の段階的縮小―米軍補完から専守防衛へ、さらに自衛隊を「国境警備隊」「災害救助隊」等に)と日米安保条約の取りやめ・米軍基地の撤廃、国連を媒介にした諸国との多角的な安全保障体制(不可侵保障)の構築をめざして護憲・活憲の立場を貫いた方が良いのか、はたしてどちらが良いのかであろう。


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